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パソコン、「インテル入ってない」時代の到来か

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

パソコンの半導体に新たな動きが起きている。これまで数十年にわたり米インテル(Intel)が市場を支配してきたが、新興勢力が次々と独自半導体を開発するようになり、インテル対その他多数の構図ができつつあるようだ。

これらのパソコンには、インテル製の代わりに、米クアルコム(Qualcomm)や米エヌビディア(NVIDIA)、米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、米アムロジック(Amlogic)、台湾・聯発科技(メディアテック)の半導体が搭載されるようになり、1991年からパソコンに貼られている「Intel Inside」ステッカーがいつか消える可能性があると、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は報じている

きっかけはApple、モバイルからパソコンへ

WSJによれば、きっかけは米アップルが1993年に発売したパーソナルデジタルアシスタント「Newton(ニュートン)」だった。そのモバイルプロセッサーは英半導体設計大手アーム(ARM)が開発した。それ以降、アームは主にモバイル端末向け半導体事業で台頭するようになった。

アップルは、2010年に発売したスマートフォン「iPhone 4」に、初めて自社開発の半導体を導入した。アップルはそれ以降、アームの設計手法(アーキテクチャ)に基づいたSoC(システム・オン・チップ)がデスクトップパソコンにも利用できると考えた。

同社は電力消費の問題が、スマホだけでなくすべてのデバイスの性能制約要因になっていると考え、省電力と効率化に重点を置いたSoCを設計した。これにより、インテルなどの半導体メーカーに対し技術的に優位に立った。

Apple、インテル依存から完全脱却

20年には、自社設計のパソコン「Mac」向けSoC「M1」を導入し、その後搭載機種を増やしていった。21年には高性能な「M1 Pro」と「M1 Max」を追加。22年に第2世代の「M2」を、昨年の23年には「M2 Pro」や「M2 Max」を導入した。

23年には、独自半導体で最上位の「M2 Ultra」を搭載したMac最上位機種「Mac Pro」を発売し、これで全移行計画を完了。インテル依存から完全脱却した(米CNBCの記事)。

こうした動きは、同社のパソコン販売にも好影響を及ぼしている。アイルランドの調査会社スタットカウンターによると、米国パソコン市場におけるアップルのシェアは13年時点で約12%だったが、今では約33%に拡大した。

クアルコムやアマゾンも独自半導体

独自半導体の設計にアームの技術を活用する動きは広がっている。アップルのほか、米グーグルやクアルコム、米アマゾン・ドット・コムなどの企業はパソコンやスマホ、クラウドサーバーなど、様々な機器向けにARMベースのカスタム半導体を設計し、それらを半導体ファウンドリー(受託製造)企業である、台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子などに委託している。

例えば、クアルコムは23年10月、パソコン向けの新しいCPU(中央演算処理装置)「Oryon」を発表した

アマゾンも先ごろアプリケーションをクラウド経由で配信するための「WorkSpaces Thin Client」と呼ぶ小型デバイスを発表した。これは動画配信端末「Fire TV Cube」の用途を変更したものだ。価格は200ドル(約2万8000円)。アムロジックが開発したARMベースの半導体を搭載している。

マイクロソフトもインテル離れか

インテルは、米マイクロソフトと築いた「Wintel(ウィンテル)」と呼ばれる提携関係を通じて、パソコン市場を支配してきた。

だが、最近はマイクロソフトもインテル離れの動きを見せている。マイクロソフトはパソコンOS「Windows」やソフトウエアをクラウド上で利用できるようにする取り組みを進めている。企業顧客は、インテル搭載機よりも安価で簡素なパソコンを利用でき、コストを削減できる。加えて、クラウド上のWindowsは、ARMベースの半導体でも動く。

マイクロソフトは23年11月、ソフトウエアをクラウドサービスを介して配信するための半導体「Cobalt(コバルト)」を開発したと明らかにした

これもアームの設計技術を利用し、マイクロソフトが独自開発した。同社は併せてデータセンターで生成AI(人工知能)を動かすための半導体「Maia(マイア)」も発表している。米メディアのThe Vergeによれば、マイクロソフトは製造をTSMCに委託する。

インテル、AI PC用プロセッサー「Core Ultra」

こうしたなかでインテルも先ごろ新型プロセッサーを発表。これらの動きに対抗する構えだ。インテルは23年12月14日に開いたイベントで、AIパソコン用最新プロセッサー「Core Ultra」(開発コード名はMeteor Lake)を正式発表した

AI処理に特化したNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)を搭載する同社初のプロセッサーである。CPUやGPU(画像処理半導体)の処理能力を補完し、前世代製品と比較し、2.5倍の電力効率を実現する。

筆者からの補足コメント:
インテルの23年7〜9月期におけるパソコン向け半導体の売上高は79億ドル(約1兆1100億円)で、前年同期から3%減少しました。生成AIなどで注目されるデータセンター向け半導体事業の売上高は10%減の38億ドル(約5400億円)でした。なお、インテルが最近力を入れているファウンドリー(製造受託)事業の売上高は3億1100万ドル(約400億円)で、全売上高のわずか2%にとどまっている状況です。インテルがこれからどうなっていくのか、今後も注視していきます。

(※1ドル=141円で換算)

  • (本コラム記事は「JBpress」2023年12月08日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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