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ファーウェイ製スマホ復活の理由、中国市場で90%増 背景に何があったのか

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
アップルのiPhone 15 Pro(左)とファーウェイのMate 60 Pro(写真:ロイター/アフロ)

2023年10月、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ、Huawei)のスマートフォン販売は、前年同月比90%超増と大幅に伸び、同国のスマホ市場を押し上げた。

7nm半導体のファーウェイ製スマホが人気

ファーウェイが23年8月に発売したスマホ「Mate 60 Pro」には、比較的高性能の半導体が搭載されている。カナダの技術解析会社テックインサイツによると、この半導体は回路線幅7ナノメートル(nm)の技術で製造されている。

香港の調査会社カウンターポイントリサーチは、この端末の成功が中国市場でのファーウェイの復活につながったと分析している。ファーウェイは19年に当時のトランプ米政権によって、禁輸措置の対象となった。これにより半導体など重要部品の供給制約を受けて、スマホ事業が壊滅的な打撃を受けた経緯がある。

加えて、米政府は22年10月に導入した対中規制で、回路線幅14nm以下の先端半導体を製造できる米国製装置を中国に輸出することを禁じた。こうしたなか、ファーウェイは中国のスマホ市場で復活を果たした。米政府は同社がどのようにして先端半導体を製造できたのかを突き止めようとしている。

専門家らはこれについて、中国の半導体受託生産大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)が、古い製造プロセスに使用される装置を比較的高度な半導体用に「転用」して製造したとみている。

中国、今も先端半導体製造装置の輸入可能

しかし最新の報告によると、米国の対中規制には抜け穴があったとされる。英Reuters(ロイター通信)によれば、元政府高官や有識者らでつくる米議会の諮問機関「米中経済安全保障再考委員会(USCC)」は先ごろ公表した年次報告書で、中国企業は依然として、米国製先端装置の購入を続けていると指摘した。

これによると、中国の輸入業者は、古い製造ラインに使用すると主張すれば、先端装置を入手できる事例が少なくない。加えて、最終的にどのような用途で使用するかをチェックする厳格な仕組みがないため、確認が難しい。

米・日・蘭の時間差を利用か

USCCの報告書は、中国企業が海外から製造装置を入手するには別の方法もあったと指摘する。米政府は同盟国である日本とオランダに働きかけ、米国と同様の対中規制を導入させることに成功した。

前述した通り、米国が規制を導入したのは22年10月だったが、日本とオランダはそれぞれ、23年7月と同年9月に導入した。中国はこのタイムラグを利用して製造装置を大量購入したとみられている。

報告書によると、2023年の1月から8月までの間、中国はオランダから32億ドル(約4500億円)相当の半導体製造装置を輸入した。これは前年同期の17億ドル(約2400億円)と比較し約88%多い。

また、同期間における中国の全世界からの半導体製造装置総輸入額は138億ドル(約1兆9500億円)に上った。USCCは米政府に対し、対中規制の有効性を検証するよう求めている。

(※1ドル=141円で換算)

  • (本コラム記事は「JBpress」2023年11月22日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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