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NVIDIAのAI半導体「供給体制に改善の兆し」とMS幹部 シェア7割、生成AIブームで需給逼迫

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

生成AI(人工知能)に使われる米エヌビディア(NVIDIA)製の画像処理半導体(GPU)の供給体制が改善してきたようだと、米CNBCが報じている

MS幹部「手に入れやすくなっている」

米マイクロソフト(MS)でGPU予算の管理を担当しているケビン・スコットCTO(最高技術責任者)が、米カリフォルニア州デイナポイントで開催されたカンファレンスで「エヌビディア製半導体は、数カ月前よりも手に入れやすくなっている」と語った。

それによると、スコット氏は「需要はエコシステム全体が供給できる量をはるかに上回っているが、この問題は解決しつつある。まだ厳しい状況だが、週ごとに状況は改善しており、この点では悪いニュースよりも良いニュースのほうが多い。素晴らしいことだ」と述べた。

エヌビディアが手がける画像処理半導体は、米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」のほか、マイクロソフトなどが開発する同様の言語生成システムなど、多くのAIツールの計算機能を担っている。加えて、マイクロソフトはオープンAIへ出資し、包括的パートナーとして自社のクラウド基盤をオープンAIへ提供している。

AIブームで時価総額1兆ドル

こうしたなか、エヌビディア製の画像処理半導体への需要が高まっている。エヌビディアが先ごろ発表した2023年5〜7月期の決算は、純利益が前年同期比9.4倍の61億8800万ドル(約9200億円)となり、過去最高を更新した。

売上高は同2倍の135億700万ドル(約2兆200億円)で、こちらも過去最高を更新した。同社は23年8〜10月期の売上高が前年同期比170%増になると見込んでいる。粗利益率は過去1年で44%から70%に上昇した。

時価総額1兆ドル企業に(インフォグラフィックス出典:独スタティスタ)
時価総額1兆ドル企業に(インフォグラフィックス出典:独スタティスタ)

エヌビディアは23年5月、5〜7月期の売上高が市場予想の約40億ドルを大きく上回る110億ドル前後になるとの見通しを発表した。それ以降同社の株価は上昇し、5月30日に時価総額が1兆ドル(約149兆3000億円)に達した。

これは、米アップル、マイクロソフト、米アルファベット(グーグル持ち株会社)、米アマゾン・ドット・コムに次ぐ規模だ。エヌビディアの株価は年初の約3倍になった。この上昇率は、S&P500種株価指数の他のすべての構成銘柄を大きく上回っている。

エヌビディアCFO「24年までに供給量増やす」

ただ、エヌビディアには課題が残ると指摘されている。AI半導体への過剰な需要によって、同社の供給能力が逼迫(ひっぱく)状態にあるからだ。

エヌビディアは半導体設計に特化し、製造は、半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)などに委託している。もしTSMCが生産体制を十分に拡大できなければ、エヌビディアの業績に影響が及ぶことになる。

こうしたなか、エヌビディアのコレット・クレスCFO(最高財務責任者)は先ごろ、アナリストらに「24年までに四半期ごとに供給量を増やす予定だ」と説明していた。

米調査会社のサード・ブリッジ・グループによれば、AI半導体市場でエヌビディアは約7割のシェア(金額ベース)を持つ。一方、ライバル企業もこの分野に力を入れている。同じく画像処理半導体を手がける米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)は高性能AI半導体でエヌビディアに対抗している。

 米インテルや、スタートアップ企業、クラウドコンピューティング大手など、数多くの企業がシェア獲得を狙いそれぞれの計画や製品戦略を進めている。

マイクロソフトもAI半導体開発

マイクロソフトも自社のAI半導体を開発中だと報じられている。ただ、スコットCTOはこれについてのコメントを控えた。同氏は、「詳しくは話さないが、当社が何年にもわたり相当な半導体投資を行ってきたことだけは言っておきたい」と語った。

 「システム構築において、あらゆる選択肢を検討し、最善の決定を行っている。ここ数年の最善の選択肢はエヌビディアだった」(スコット氏)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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