スマートフォン「iPhone」などを製造する中国の工場で、米アップルが現地技術者への依存度を高めていると、米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた

厳格な入国管理、大規模派遣困難に

新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に封じ込める中国政府の「ゼロコロナ」政策が、米国人技術者の中国渡航を難しくした。

コロナ禍前、アップルは米国から毎月数百人の技術者を中国に派遣していた。アップル製品を手がける電子機器受託製造サービス(EMS)企業の業務を監督することが目的だった。しかし米国人技術者はこの2年間、中国政府の厳格な入国管理の下で同国から締め出されているとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

米ユナイテッド航空によると、アップルは2019年に米サンフランシスコと上海の浦東国際空港を結ぶ路線でビジネスクラスを毎日50席予約していた。だが20年初頭のパンデミック以降、技術者の大規模派遣をやめている。

現地技術者に権限付与、ライブ配信やARも駆使

こうした中、中国の現地技術者はより大きな責任を担うようになった。この権限の付与は、何十年にもわたり技能を磨いてきた中国人スタッフの技術的専門知識の向上が背景にあるという。

また、アップルはライブ配信などの技術を採用しており、米カリフォルニア州クパチーノの本社スタッフが、工場の製造現場で起きていることをリモートで追跡できるようにしている。タブレット端末「iPad」を利用して現地と連絡を取り合っているほか、AR(拡張現実)技術を使い、本社の技術者が工場内の問題を把握できるようにしている。

中国人スタッフ拡充の動き、意思決定も

アップル製品の最終組み立て業務は、EMS大手の台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)や台湾・和碩聯合科技(ペガトロン)などが手がけている。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アップル製品の大半はこの2社が中国各地に持つ工場で生産されている。

Nikkei Asia(日経アジア)などによると、アップルの主要サプライヤー(取引先)200社のうち、半数が上海市とその近郊に工場を持つ。だが、これら中国東部地域ではロックダウンなどの厳しい制限下に置かれた。ウォール・ストリート・ジャーナルは、中国政府の措置によりアップルのサプライチェーン(供給網)は長らく混乱が続いたと報じている。

中国政府はビザの発給を制限した。入国時は数週間、政府施設内で隔離措置を受ける必要があった。これにより多くの企業が、出張や駐在を目的とする社員の中国渡航を躊躇するようになった。

在中国米国商工会議所が22年5月9日に公表した調査では、企業の74%が中国のゼロコロナ政策が、熟練スタッフのつなぎ留めや採用に悪影響を及ぼしていると回答した。3分の1の企業は、上級幹部や重要な人材が中国の任務を辞退したと回答した。

こうした中、中国で人材を拡充する動きが広がっている。在中国欧州連合(EU)商工会議所の調査によると、65%の企業が1年以内に中堅スタッフの、62%が1年以内にシニアスタッフの現地化計画を推進すると回答した。また、在中国ドイツ商工会議所によると、30%が中国子会社の意思決定機会が過去2年で増加したと回答した。

  • (このコラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年5月11日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)