Yahoo!ニュース

アマゾンやグーグルなどテック大手の企業買収、過去10年で最多のワケ

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

アマゾン・ドット・コムやマイクロソフト(MS)、グーグル親会社のアルファベットなどの米テック大手が2021年にまとめた買収案件は過去10年間で最も多い水準だった。

アマゾン、MS、グーグルのM&A件数

米司法当局や米議員がテクノロジー大手の商慣行を厳しく監視する中、新規制が導入されたり、法的措置を取られたりする前に速やかに手続きを完了させたい考えがうかがえると、米経済ニュース局CNBCは報じている

米調査会社ディールロジックによると、21年におけるアルファベットのM&A(合併・買収)件数は、公表されたものだけでも22件。マイクロソフトは同年に56件のM&Aを発表した。いずれも過去10年間のM&A件数として最多だ。

アルファベットの21年における総買収額は220億ドル(約2兆5300億円)、マイクロソフトの総買収額は257億ドル(約2兆9500億円)。金額ベースでも過去10年間で最大だった。

アマゾンの21年におけるM&A件数も過去10年で最多となった。アマゾンの昨年1年間における総買収額は157億ドル(約1兆8000億円)。同社は17年に高質スーパーマーケットチェーン「ホールフーズ・マーケット」を137億ドル(約1兆5700億円)で買収しており、同年の総買収額が最も高いが、21年はそれに次ぐ規模だった。

相次ぐ大型買収の背景

マイクロソフトは22年1月18日に、米ゲーム大手のアクティビジョン・ブリザードを687億ドル(約7兆8900億円)で買収すると発表した。21年4月には音声認識技術を手掛ける米ニュアンス・コミュニケーションズを197億ドル(約2兆2600億円)で買収すると明らかにしている。

アマゾンは21年5月に、スパイ映画「007」シリーズなどで知られる米映画製作大手メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)を84億5000万ドル(約9700億円)で買収すると発表した。

「こうして米テック大手が注目を浴びる中、米当局や米議員らの買収阻止に向けた動きが進む前に、速やかに手続きを完了させたいと考えている」。ミシガン大学ロス経営大学院のエリック・ゴードン教授はこう分析している。

独禁法当局とテック大手

米連邦取引委員会(FTC)のリナ・カーン委員長
米連邦取引委員会(FTC)のリナ・カーン委員長写真:代表撮影/ロイター/アフロ

米国では21年6月、IT(情報技術)大手に対する規制推進派として知られるリナ・カーン氏が連邦取引委員会(FTC)の委員長に就任した。それ以降、テック大手と当局の「冷戦」が続いているとCNBCは報じている。

アマゾンは21年7月、同社に対するFTCの反トラスト法(独占禁止法)調査からカーン委員長を外すよう求める嘆願書を提出した。「アマゾンの商慣行を批判してきたカーン氏は先入観を持っており、同氏の下では公平な調査が行われない」というのがアマゾンの主張だ。米フェイスブック(現メタ)もアマゾンに追随。「かねてIT大手を問題視している人物が調査に加わることは公平ではない」とし、カーン委員長を調査から除外するよう求めた。

現行法では巨大ITの規制困難

反トラスト法を巡っては、従来型のモノの販売競争を前提に消費者不利益を判断する現行法の枠組みでは、巨大ITを規制することは困難だと指摘されている。

FTCと米ニューヨーク州などの48州・地域の司法長官は20年12月、フェイスブックを反トラスト法違反の疑いで提訴した。フェイスブックが米国のSNS市場で6割以上のシェアを持っており独占に当たると主張。12年に買収した写真共有アプリ「Instagram(インスタグラム)」と14年買収した対話アプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」を分離するよう求めた。

しかし、米首都ワシントンの連邦地裁は21年6月、「フェイスブックがSNS市場を独占していることを示す法的根拠が不十分だ」としてFTCの訴状を棄却。州・地域の司法長官による訴訟は、訴えそのものを棄却した。FTCは21年8月に訴状内容を一部変更して再提訴した。フェイスブックはこれに反発。訴えの棄却を求めたが、連邦地裁は22年1月、審理を進める判断を下した。この法廷闘争は長期化するものとみられている。

一方で、アマゾンによる映画スタジオ(MGM)の買収、マイクロソフトによるゲーム会社(アクティビジョン)や音声認識技術会社(ニュアンス)の買収については、携帯電話やブロードバンド通信のような、競合企業が限定的な業界とは異なるため、合併による独占を立証することが難しいという。

立証責任、政府から企業に

こうした中、米議員らはテック大手に対する規制を強化するべく新たな法案に取り組んでいる。米議会上院司法委員会は1月20日、「オンラインにおける米国人の選択と技術革新法」を承認した。同法案は上院本会議の審議に進むことになった。支配的なオンラインプラットフォームが自社の製品・サービスを優遇することを禁じるものだが、企業買収は対象外となる。

そこで米議会は「プラットフォーム競争・機会法」と呼ぶ法案も検討している。CNBCの記事によると、これは立証責任を原告から被告に移すものとなる。現在は、買収によって市場競争がゆがめられることを政府側が立証する必要がある。この法が成立すれば、買収が法に抵触しないことを企業側が立証することになるという。

  • (このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2022年1月25日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

小久保重信の最近の記事