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韓国、GoogleとAppleに罰金検討 世界初の「アプリ決済強制禁止法」

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

先ごろ韓国当局が米グーグルや米アップルのモバイルアプリストアに罰金を科す規制案を公表した

罰金、韓国内アプリ収入の最大2%

グーグルやアップルがそれぞれのアプリストア内で、アプリ開発者に対し自社決済システムだけを利用するよう強制する場合に罰金を科す。韓国放送通信委員会(KCC)は国内のアプリ関連収入の最大2%に相当する罰金を科す案を公表した。アプリストア運営会社が、不当に特定アプリの承認を遅らせたりアプリを削除したりした場合は、最大1%の罰金を科すとしている。

アプリ開発者が、他の決済システムを利用したことで、グーグルやアップルから不当な扱いを受けた場合も厳しく取り締まる。技術的な制約を設けたり手続きを困難にしたりして他の決済システムを事実上使えないようにした場合も「利用の強制」と見なすという。

韓国では、電気通信事業法の改正案が21年8月31日の国会本会議で可決・成立し、文在寅大統領の署名を経て9月に公布された。ただ、ロイター通信によると、その後KCCが改正法の規制案を策定していた。今後専門家などから意見を聞いた上で、2022年3月までに施行される見通しだ。

韓国では、自国のサムスン電子とLG電子製スマートフォンを利用している人が約75%に上る。グーグルのOS「Android」とアプリストア「Google Play」の利用者が圧倒的に多く、同社によるアプリ決済強制への反発が高まっている。こうしたことから、このアプリ決済強制禁止法は「グーグルパワハラ防止法」とも呼ばれている。

アプリ決済強制禁止法は世界初とされる。グーグルとアップルによるアプリストアの商慣行については米国や欧州などでも批判が高まっており、他国でも同様の法改正が進む可能性があると指摘されている。

アップル「ビジネスモデルはすでに韓国法に順守」

一方で、グーグルとアップルは規制に反対の姿勢を示している。アップルは自社のビジネスモデルはすでに韓国の法律に順守しておりアプリストア「App Store」のポリシーを変更する必要はないとの立場を取っている。

グーグルは21年11月、韓国で自社決済システムの利用義務付け規定を撤回すると発表した

これにより開発者はアプリ内に自社決済システムを導入できるようになる。ただグーグルは新たな規約に「利用者が代替決済システムを選択した場合、開発者はグーグルに対し決済金額の11%を支払わなければならない」という項目を盛り込んだ。ロイターは「これが開発者にとってどの程度メリットになるのかは不明だ」と指摘している

2社の対応に国会議員不満

韓国でアプリ決済強制禁止法を推進した共に民主党(与党)のチョ・スンレ(趙承来)議員は、アップルとグーグルの対応に「満足していない」と述べている。「韓国法に違反していないとするアップルの主張は理にかなっていない。過度な課金手数料は開発者から技術革新の機会を奪う」と指摘している。

米センサー・タワーによると、韓国のモバイルアプリ支出額は世界4位。同国市場は米国、日本、中国に次ぐ規模。また、ネイバーやカカオなどが加盟する韓国インターネット企業協会は、グーグルとアップルによる手数料徴収によって同国内アプリ開発者の収入が年間2兆ウォン(約1900億円)減らされていると指摘している。

  • (このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2021年11月18日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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