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アマゾンは競争法違反、EUが見解示す

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
欧州委のマルグレーテ・ベステアー執行副委員長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 欧州連合(EU)の欧州委員会は先ごろ、米アマゾン・ドット・コムに、EU競争法違反の疑いに関する暫定的な見解を示す異議告知書を送付した。

「出品者データ使用し自社有利に」

 アマゾンが、小売業者から得たデータを自社商品の販売に使用することは競争法に違反すると指摘した。欧州委によると、アマゾンは出品者の非公開データにアクセスし、そこから得た情報を基にリスクを回避しつつ、優越的な立場で自社商品を販売したという。

 具体的には、同社が出品者に販売の機会を提供するECサイト内のマーケットプレイスにおいて、出品者の受注数、出荷単位、売上高、商品ページごとの訪問者数、発送関連情報、出品者の業績、消費者からの苦情といった情報にアクセスしていたという。

 アマゾンでは、これら大量なデータを組織的に利用できるようになっており、自社の品ぞろえや戦略的意思決定に活用し、出品者に不利益を生じさせているという。例えば、すべてのベストセラー商品カテゴリーで、自社商品を優位に扱うことが可能だと指摘している。こうした行為は欧州経済圏最大市場であるドイツとフランスで行われたとの見解を示している。

 欧州委のマルグレーテ・ベステアー執行副委員長は、「アマゾンのような企業は、マーケットプレイスの運営者という役割と、自らも小売業者という役割を持つ。こうした二重の役割が、競争をゆがめることがないようにしなければならない」と述べた。

 米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アマゾンはこれに「同意しない」と反論している。「過去20年間、アマゾンほど小企業を大事にし、支援してきた企業は他にない」と述べている。

「カートに入れる」ボタンの獲得基準も調査

 欧州委は今回、アマゾンの商慣行について、もう1つの調査を本格的に開始すると明らかにした。こちらは、「ショッピングカートボックス(Buy Box)」と呼ばれる、「カートに入れる」ボタンの権利獲得基準についての調査だ。

 アマゾンでは、マーケットプレイスの商品詳細ページは1商品に付き1ページのみ設けられる。同じ商品の出品者が複数の場合、ページ内の「新品xx点」というリンクをクリックすると、すべての出品者の商品が表示でき、価格などを比較できる。利用者は気に入った出品者の横にある「カートに入れる」ボタンを押すことで購入手続きを進められる。

 しかし、多くの利用者は、複数の出品者を表示できるこの機能に気付かず、商品詳細ページ右にある「カートに入れる」を押して購入する。つまり、出品者は、この一番大きな「カートに入れる」ボタンを獲得できるか否かで売り上げが大きく変わる。

 欧州委は、アマゾンがどのような基準でこの権利を与えているかを詳しく調べるとしている。アマゾンの自社商品に偏っていないか、自社の物流サービスを利用する出品者を優位に扱っていないかどうかを調査するという。

最大2.9兆円の制裁金の可能性

 前述した通り、今回EUが送付した異議告知書は、競争法違反の疑いに関する欧州委の暫定的な見解を示したもの。受け取った企業には反論の機会が与えられる。欧州委はそれを考慮して、最終判断する。欧州委は、「今回の書類送付や新たな本格的な調査の開始は、最終判断に何ら影響を及ぼすものではない」としている。

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると欧州委の最終判断は2021年に持ち越される見通し。もし違反行為があったと判断された場合、年間売上高の10%の制裁金を科される可能性があり、最大280億ドル(約2兆9000億円)になると報じている。

 この金額はEUがこれまで3度にわたり米グーグルに科した制裁金の合計額約1兆円を大きく上回る(図)。

EUによる米テクノロジー大手に対する制裁金(インフォグラフィックス出典:ドイツ・スタティスタ)
EUによる米テクノロジー大手に対する制裁金(インフォグラフィックス出典:ドイツ・スタティスタ)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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