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アメリカでは半数が「プライム家族」止まらぬアマゾン人気の秘密とは?

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
アマゾンが2017年に英ロンドンで開設したポップアップストア(写真:ロイター/アフロ)

 米国では昨年、アマゾン・ドットコムの有料会員プログラム「Prime(プライム)」の加入世帯数が、同国全世帯の47.4%に達した。この比率は今後も拡大を続け、今年は全世帯の51.3%(6390万世帯)と、初めて過半を占める見通しだ。

 そして、これが2020年には、同54.8%(6870万世帯)、2021年には同56.9%(7170万世帯)に拡大すると見られている。

 こうした調査結果を、米国の市場会社eマーケターがまとめた。

多様化する特典の数々

 Primeの加入世帯が増え続けている理由は、多様化する特典にあるとeマーケターは分析している。

 Primeには、「配送」「ショッピング」「デジタルコンテンツ」など、さまざまな分野の特典がある。このうち、配送特典には、最短1時間以内で商品が届く「Prime Now」や、即日・翌日・2日後に商品が届く急ぎ便サービスなどがあり、アマゾンは、その対象商品を増やし続けている。

 ショッピング特典には、生鮮食料品を購入できる「AmazonFresh」のほか、タイムセールやパントリー(少ロットの詰め合わせ買い)、アパレル商品の自宅試着サービス「プライム・ワードローブ」といったものもある。

 デジタルコンテンツ特典には、映画・テレビ番組を無料で視聴できるストリーミングビデオサービス、音楽の無料聴き放題サービス、電子書籍の無料レンタルサービスなどがある。

 米国では、「Amazon Household」と呼ぶファミリー向け特典も用意している。会員以外のもう1人の大人(18歳以上)と、13〜17歳の子ども(4人まで)、12歳以下の子ども(4人まで)が、これら特典の一部を共用でき、さらに、紙おむつなどの子ども用品を割引価格で購入できるというものだ。

 こうした仕組みが、Prime世帯増大のけん引役になっていると、eマーケターは指摘している。

アメリカの年会費は1.3万円と日本のほぼ3倍

 アマゾンが、Primeを米国で始めたのは2005年2月。当初は、79ドル(約8800円)の年会費で、商品を2日後に届ける配送サービスを追加料金なしで利用できるようにしたり、翌日配送便の料金を割り引いたりする特典で開始。

 その後の2014年4月、年会費を99ドル(約1万1000円)に上げ、昨年5月には、これを119ドル(約1万3300円)に引き上げた。

 これは、今の日本のPrime年会費、4900円の約2.7倍(今年4月12日に値上げした。既存会員は5月17日以降の更新時から新会費を適用)。それでも米国では、加入世帯数が増え続けているとは驚きだ。

低所得者向け料金プランの対象を拡大

 一方で同社はもう1つの仕掛けを施している。低所得者層向け料金プランの対象を拡大したのだ。これは対象者に対し、Primeの会費を減額するというもの。

 アマゾンは従来から、連邦政府の「栄養補給支援制度(SNAP)」や、「貧困家族一時扶助制度(TANF)」「女性・乳幼児向け特別栄養補給支援制度(WIC)」の受給者に対し、Primeの月額料金を5.99ドル(約670円)に減額していた。

 昨年はこれに、「メディケイド(Medicaid)」と呼ばれる「低所得者向け公的医療保険」も加えた。現在、米国人の2割が、メディケイドの受給者と言われている。

 eマーケターは、こうした施策も加入世帯数の増加につながっていると見ている。そして結局のところ、これらがアマゾンに利益をもたらしているようだ。

 別の市場調査会社CIRP(コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ)によると、非Prime会員は、1年間にアマゾンで平均600ドル(6万7000円)の買い物をしている。

 この金額は、Prime会員だと1400ドル(15万6000円)になる。Prime会員は、非会員の2.3倍もの金額をアマゾンで費やしている(図1)。

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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