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アマゾン、Echoだけじゃない、日本に上陸したのはApple対抗音楽サービス

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 アマゾンが、ついにAIスピーカー「Echo(エコー)」の日本国内販売を始めた。現在のところ、即日の注文受付は行わず、招待制による販売という形態をとっている。ただ、アマゾンは11月13日の週にも製品の出荷を開始するとしている。まもなくして、日本の家庭にもこの機器が入り込んでいくのだろう。

米国では全6機種をラインアップ、日本では3機種

 Echoは、「Alexa(アレクサ)」と呼ぶ、人工知能(AI)を使ったクラウドベースのアシスタントサービスを利用できる機器で、米アップルがiPhoneなどで提供しているAIアシスタント「Siri」や、米グーグルのAIアシスタント「Google Assistant」を搭載するAIスピーカー「Google Home」と同様、音声でさまざまな操作が行える。

 アマゾンは2014年11月に米国でEchoの初代機を発売し、2016年10月には英国とドイツでも販売を開始。先ごろはインドでも販売を始めた。

 同社は、こうして海外展開を進めるとともに、製品ラインアップの拡充も図っている。その種類は、今回、日本で発売する、(1)標準モデルの「Echo」、(2)小型モデルの「Echo Dot」、(3)スマートホームハブ内蔵の上位モデル「Echo Plus」がある。

 また、米国では、(4)ディスプレーを搭載し、ビデオ通話も可能な「Echo Show」、(5)カメラを内蔵し、利用者の全身画像を撮影できるファッション用途の「Echo Look」、(6)小型の丸形ディスプレーを備えた「Echo Spot」も販売している。

 これらEchoシリーズの実体は、前述したAIアシスタントサービスのAlexaだ。日本では、大手の菓子メーカー、飲料メーカー、家電メーカー、保険会社などが、Alexa対応音声アプリの提供で、アマゾンと提携しており、同社はAlexaとEchoを取り巻く生態系(エコシステム)を、ここ、日本でも構築しようとしている。

米国で先行提供していた4000万曲の音楽聴き放題サービス

 同社はEchoの日本市場投入と併せ、昨年10月に米国で始めた音楽聴き放題サービス「Amazon Music Unlimited(アマゾン・ミュージック・アンリミテッド)」を日本でも開始した。このサービスはEchoでも利用できる。

 アマゾンの音楽聴き放題サービスにはこれまで、Prime会員への特典として追加料金なしで提供する「Prime Music」があった。しかしその楽曲数はわずか100万曲程度。これに対し、新サービスは4000万曲以上をそろえ、アップルの「Apple Music」と同等規模の本格的な有料音楽ストリーミングサービスとなっている。

 その料金は、「個人プラン」が月額980円、家族6人まで利用できる「ファミリープラン」が同1480円と、いずれもApple Musicと同じだ。

PrimeやEchoとの相乗効果狙う

 ただ、アマゾンは、個人プランの月額料金が780円、年額料金が7800円になるといった、Prime向け割引料金を設定し、相乗効果を狙っている。

 さらに、Echoとの連携も図る。「Echoプラン」と呼ぶ、Echo購入者専用のサービスを用意し、Primeメンバー、非Primeメンバーともに、月額380円で提供する。こちらの料金体系も米国のそれを踏襲したものだ。

 なお、Echoプランには制限がある。個人プランとファミリープランでは、iPhoneなどのiOS端末やAndroid端末向けアプリ、パソコン向けアプリやウェブブラウザー、そしてEchoと、さまざまな機器で利用できる。これに対し、Echoプランは、Echoでのみでの再生が可能で、利用できるEchoは1台に限られる。

 ただ、いずれにしても、アマゾンが、Echoや音楽サービスを通じて、Prime会員の保持や、新規の会員獲得に力を入れていることには変わりはない。Primeは、同社の成長エンジンになっているからだ。

米国では3.6人に1人がPrime会員

 米国の市場調査会社CIRP(コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ)によると、米国におけるPrime会員は、今年7〜9月時点で9000万人になった。

 これに先立ち、CIRPがまとめていた今年4〜6月時点のPrime会員数は、8500万人。国連機関である国際通貨基金(IMF)の推計によると、2017年における米国人口は3億2500万人。

 つまり、4〜6月時点では、約3.8人に1人がPrimeに加入していたが、7〜9月はその比率がさらに拡大。同国では今、乳幼児も含めて3.6人に1人がPrime会員という計算だ。

 そして、このPrime会員はアマゾンに巨額の収入をもたらしている。CIRPによると、1人のPrime会員が1年間にアマゾンで買い物をする金額は1300ドル(約14万8000円)。

 これは非Prime会員の700ドル(約8万円)を大きく上回る。単純に会員1人当たりの年間支出額にその人数を乗ずると、1170億ドル(約13兆3076億円)になる。

 また、アマゾンはPrimeの会費でも巨額を得ている。

 米国におけるPrimeの年会費は99ドル。料金体系には、このほか、月額制料金プランや、低所得者向けプランなどと、さまざまあるものの、単純にこの99ドルに会員数を乗ずると、89億ドル(約1兆134億円)になる。

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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