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どうなる中国のオンライン音楽産業、当局がようやく海賊版排除の取り組み

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
2014年に上海でコンサートを行った米人気歌手のテイラー・スウィフト(写真:ロイター/アフロ)

米ウォールストリート・ジャーナルの8月10日付の記事によると、中国ではここ最近、オンライン音楽の海賊版排除に向けた取り組みが始まった。

ネット大手が初めて当局に協力

これは中国国家版権局(NCAC:National Copyright Administration of China)が8月の第1週に明らかにしたもの。それによると同国では、主要なオンライン音楽配信サービスから合計220万曲の海賊版が取り除かれた。

当局は7月末までに、オンラインサービス上にある無認可の楽曲を削除するようサービス提供会社に要請していたが、各社がそれに応えたのだという。こうした取り組みはこれまでも多くあったが、今回のように大手が国家版権局に協力するのは初めてのことだと、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。

同国では、電子商取引を手がけるアリババ・グループ(阿里巴巴集団)、ソーシャルネットワーキングやオンラインゲームのテンセント・ホールディングス(騰訊控股)、検索サービスの中国バイドゥ(百度)などの大手インターネット企業が音楽ストリーミングサービスを提供している。

だがこうした大手のサービスでも海賊版ははびこっている。これに加え、中国には100以上の違法音楽サイトがあると言われている。

そのうちの人気のあるサイトの1つには1カ月当たり1億6850万人が訪れており、この数は正規に運営されるどのオンライン音楽サービスの利用者数より多いと指摘されている。

こうしたオンライン音楽事情を背景に、同国では音楽会社がオンライン配信で収益を上げられない状況になっているとウォールストリート・ジャーナルは伝えている。

中国で有料モデルが成り立つ日が来る?

ただ、専門家は今後のシナリオとして、次のようなことが考えられると見ているようだ。

まず、前述の大手3社をはじめとする主要企業が、正規手続きを経た合法的な楽曲を増やしていく。これによりレコード会社と契約する金銭的余裕のない企業は存続が危ぶまれるようになる。

そして長期的には、正規サービスを運営する意向と、そのための資金力を持たない企業は、事業環境が厳しくなっていく。

「最終的な同国の音楽配信サービスの形は、正規に許可を得た業者だけが無料の音楽を配信し、その業者が有料のサブスクリプションサービスも用意する、というものになる」と、ある音楽関連コンサルティング会社の幹部は話しているという。

つまり、海賊版がはびこる中国でも今後は、いわゆるフリーミアムと呼ばれるビジネスモデルが成り立つようになるというわけだ。

テンセントの有料会員は1割にも満たない

ただ実際のところはどうだろうか?

というもの同国では、ほとんどの利用者が長きにわたり、無料でオンラインエンターテインメントに慣れ親しんできたという経緯がある。そのため、いまのところ消費者に料金を支払わせることに成功した企業はほとんどないという。

例えば前述のテンセントは無料音楽サービス「QQ音楽」に「グリーンダイヤモンド」と呼ぶ有料サービスを設け、これに様々な特典を付けている。だが、その利用者数はQQ音楽全体の1割にも満たない状況だと、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。

「Apple Music」の中国版サービス

なお米アップルは今年6月30日に世界100国以上で音楽配信サービス「Apple Music」を始めた。同社の各国サイトを見ると、インド、ロシア、タイなどでは「Music」の項目をクリックするとApple Musicが案内される。

一方、中国の同様のページで表示されるのはiPodとiTunesのみ。同国ではいまだApple Musicが始まっていないばかりでなく、告知すらも存在しない、という状況のようだ。

JBpress:2015年8月12日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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