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30億ドルでも足りない? フェイスブックの買収提案を拒否した米新興企業

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

海外メディアの報道によると、SNSの米フェイスブックは、モバイル端末向けの写真メッセージングサービスを手がける新興企業の買収を試みたという。

フェイスブックが当初提示した金額は約10億ドル。だがここ最近になってこれを約30億ドルに引き上げた。買収は現金で行うなど相手に有利な条件も付けた。だが、この新興企業の創業者はそれには応じず、フェイスブックの提案を拒否したという。

フェイスブックは2012年に写真共有サービスの「インスタグラム(Instagram)」を買収しており、その時の金額は10億ドル以下。もし今回の買収が成立していれば、フェイスブック創業以来最大の買収になったと伝えられている。

写真が10秒以内に消えるサービス、若者に人気

この会社はスナップチャット(Snapchat)と言い、本社は米カリフォルニア州ベニスにある。同名のサービスを2011年に立ち上げた。

米グーグルのアンドロイド(Android)や米アップルのアイフォーン(iPhone)向けのアプリがあり、これを使って写真や動画のメッセージを友人に送るというものだが、メッセージは閲覧後10秒以内に消え、同社のサーバーからも削除される。

10億人以上の人が実名を公表して利用しているフェイスブックと異なり、よりプライベートなやりとりができ、写真共有の抵抗感も少ない。こうした仕組みが受け、今、若い世代を中心に利用が急増しているという。

スナップチャットは利用者数を公表していないが、今年9月時点における1日当たりのメッセージ数は3億5000万件に上り、3カ月前の2億件から倍近くに増えたという。

これに先立ち、フェイスブックが発表した今年7〜9月期の決算は、売上高、利益ともに市場の予想を上回り好調だった。広告収入が1年前から66%増えたほか、利用者が急増しているモバイル向けサービスの広告比率が高まった。

だが同社はこの決算で併せて、ティーンエージャーの間で毎日の利用者が減少傾向にあると報告。このことが同社の成長性に不安を残したと指摘されている。

ある調査リポートによると、米国のティーンエージャーは、親や教師も参加しているフェイスブックを敬遠し、プライベートなチャットができるモバイル向けサービスを利用するようになっている。

フェイスブックがスナップチャットに接触した背景には、こうしたティーンの「フェイスブック離れ」があると見られている。

今は収益ゼロ、ビジネスモデルの確立が今後の課題

米ウォールストリート・ジャーナルは、スナップチャットがフェイスブックの提案を受け入れなかった理由について伝えている。

それによると、同社の創業者は今後サービスの利用者数がさらに増え、利用頻度も高まると期待している。同社に対しては、「WeChat」というスマートフォン用グループチャットアプリを持つ中国テンセント・ホールディングス(騰訊控股)などが出資を提案している。

出資金額は2億ドルで、評価額は40億ドルという。今後も利用者数を増やしていけば、スナップチャットの企業価値はさらに高まると創業者は考えているという。

ただし、スナップチャットにはまだ収益ががない。将来はサービス内に広告を導入するなどし、ビジネスモデルを確立する必要があるが、数秒で消えてしまうコンテンツと広告は相性が悪く、バナー広告などが難しいと指摘されている。

ウォールストリート・ジャーナルによると、これについて米市場調査会社フォーレスターリサーチのアナリストは、「キャラクターを登場させ、利用者と直接的にやりとりできる物語風のコンテンツを提供するなど、若者が好む方法を考える必要がある」と指摘している。

JBpress:2013年11月15日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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