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米ヤフー、Tumblrの買収を正式発表 課題は新規広告ビジネスの開発

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

前日の報道通り、米ヤフーはブログサービスの「タンブラー(Tumblr)」を11億ドルの現金で買収することで同社と最終合意に達したと正式発表した。

買収手続きは今年後半に完了する見込みで、その後タンブラーは独立した企業として運営を続ける。サービスもブランドも変更せず、すべてがこれまで通りだという。

新興の人気ブログサイトがインターネットの巨人に飲み込まれ、従来のサービスが継続できなくなるのではないかという懸念の払拭を狙ってか、タンブラーの創業者で最高経営責任者(CEO)のデビッド・カープ氏はヤフーの発表資料や自社サイトに声明を出し、次のように述べた。

「我々は“紫色”にはならない、本社も動かない、社員も事業計画も使命も変わらない、何が変わるかと言えば、タンブラーの前進がいっそう加速することだ」

“紫色”とはヤフーのイメージカラーで、それには染まらないという意味だ。

またタンブラーの本社はニューヨークで、ヤフーのカリフォルニア州サニーベールとは遠く離れているが、本社移転はしない。タンブラーの175人の従業員は誰もリストラされず、事業はヤフーの支援のもと発展していく、という説明だ。

ヤフーとは異なる利用者層、若年成人に人気のサービス

ヤフーによるとタンブラーの月間訪問者数は3億人を超え、その半数はモバイル端末からアクセスしている。毎日12万人の新規登録があるタンブラーを買収することで、ヤフーの月間訪問者数は50%増の10億人超になり、トラフィックも約20%増加すると見込んでいる。

米ウォールストリート・ジャーナルや米ロサンゼルス・タイムズは、ヤフーの利用者層が比較的高齢なのに対し、タンブラーは18歳から34歳の若年成人に人気のサービスで、両社の顧客層は重複しないと伝えている。

また、ヤフーが得意とする分野はニュースやスポーツ、金融情報。一方、タンブラーはファッション、アート、食べ物、旅行といった話題が中心。ヤフーのマリッサ・メイヤー最高経営責任者(CEO)は、これらタンブラー特有の話題をヤフーのサイトに登場させる方法を見つけると述べている。

利用者3億人、だが売上高はわずか1300万ドル

だが米ニューヨーク・タイムズによるとタンブラーの昨年1年間の売上高はわずが1300万ドルで、今年の目標売上高は1億ドル。この1〜3月期は1300万ドルにとどまり、このままでいけばこの目標を達成できそうにない。

タンブラーが3億人という利用者を抱えながらもこうして売上高が少ないのには理由がある。創業者のカープCEOは、これまでサイトデザインの美観を損ねる広告を載せることに対して慎重な姿勢で、「利用者数の拡大に注力し、利益は後回し」との方針のもと広告事業に消極的だったからだ。

一方で、今回の買収金額である11億ドルはメイヤーCEO就任以来最大。これはヤフーの手元資金5分の1と、同社にとって決して少なくない。そうした中、ヤフーの最高財務責任者(CFO)は今回の買収の目的は売上高の増加だと述べている。

ただ、タンブラーにむやみに広告を導入すると若年層の利用者が離れ、やがてはサービスが衰退していくと指摘されている。

ロサンゼルス・タイムズは、メイヤーCEOが、ほかのブロガーをフォローするための、フェイスブックのニュースフィードに似た一覧画面「ダッシュボード」に広告を出すことから始めると述べたと伝えている。

また同氏は、ブロガーの許可を得たうえで、ブログ記事のページに広告を出し、収益をブロガーと分配することを示唆したという。

ただやはりタンブラーのようなサービスでは、控えめな広告が利用者には喜ばれるという。一方で、ポルノ関連などアダルト向けのコンテンツに注意を払わなければ、広告主が去ってしまうという問題もある。

いずれにしても、これまでのサービス基盤を利用し新たな広告事業を展開するのは、相当の努力が必要と言えそうだ。果たしてヤフーは11億ドルの投資を生かせるのか。ロサンゼルス・タイムズは、「タンブラーを生かすも殺すも新たな広告ビジネス次第だ」と伝えている。

JBpress:2013年5月22日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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