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グーグルのめがね型端末に非難集中 発売前から着用禁止の事例が続々

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米グーグルが開発中のめがね型インターネット端末「グーグル・グラス」。まだ一般消費者向けの製品はなく、発売は来年にずれ込む見込みだ。

だが、すでにそのテスト用端末が多くのアプリ開発者の手に渡っており、ここ最近この端末を巡る議論が大きくなっている。

この端末は、現実の風景に情報を重ね合わせて表示する拡張現実(AR)の機能を備えている。右目部分に小型の透過ディスプレイを搭載しており、情報が目の前に表示される。

スケジュールや気象情報、地図などを閲覧できるほか、動画や写真の撮影もでき、それを同時にネットに投稿したり、テレビ電話の相手に見せたりもできる。

こうしてスマートフォンと同じことができるめがね型端末はハンズフリーで様々なことが可能になるため、我々の社会生活に支障が出ると指摘されている。

早くも運転中の使用を禁止する法案

例えば、米ウェストバージニア州では今年3月、自動車の運転中にヘッドマウント型ディスプレイ付きウエアラブルコンピューターを装着することを禁じる法案が提出された。これが可決されれば、同州では運転中のグーグル・グラスの使用が交通違反になり、最大で300ドルの罰金が科されることになる。

同州では、公道で自動車を運転しながら、携帯電話でメールをしたり、ハンズフリー機能のない携帯電話を操作したりすることを禁じている。法案ではこれに、ディスプレイ付きウエアラブルコンピューターの使用を違反対象に加えた。注意力が散漫になり、メールなどと同様に危険運転になるというのが理由だ。

グーグル・グラスを巡っては、米ワシントン州シアトルにある飲食店の店主が、顧客へのプライバシー侵害につながるとして店内での使用を禁止するとフェイスブックに投稿したことも話題になった。

店主によると、フェイスブックへの投稿は半分ジョークだったが、半分は大まじめだったという。「店は隠れ家的で、怪しげな雰囲気が売りのプライベートな空間。そんな場所でグーグル・グラスを使用されたら迷惑千万」というのがその主張だ。

また米ニューヨーク・タイムズによると、ラスベガスのカジノではグーグル・グラスを装着してギャンブルをしたり、ショーに参加したりすることを禁止している。多くのカジノでは、コンピューターや記録装置の使用を禁止しており、グーグル・グラスはこの規則に違反するというのだ。

今度はウインクだけで撮影可能に

こうして見ると、グーグル・グラスを巡って使用を禁止する動きが続々と出ており、混乱はさらに拡大していきそうな様相を呈している。

グーグルは当初、グーグル・グラスの操作方法について、音声命令のみの操作を強調して説明していたが、今年3月に公開した動画では、指先でめがねの側面をタップし、次々と画面を切り替えて操作する方法を紹介している。これに加え、先ごろはあるアプリ開発者がウインクするだけで写真撮影できるプログラムを開発したと伝えられた。

こうしてグーグル・グラスはいとも簡単に人に知られることなく撮影でき、それをインターネットを通じて世界に流せてしまう。これは由々しき問題だという非難の声が広がっているというわけだ。

グーグルは、消費者向け製品の商品化を前に開発者などにテストしてもらうことを目的として、グーグル・グラスの早期バージョン「エクスプローラーエディション」を販売するプログラムを実施した。

ニューヨーク・タイムズによるとその第1回目の対象者は2000人で、すでに多くの人に届けられている。グーグルのエリック・シュミット会長も先ごろ英BBCラジオのニュース番組に出演し、今後数千人の開発者の手に届くと述べていた。

米ウォールストリート・ジャーナルは3日付の記事で、こうした早期導入者に向けた「マナーガイド」という記事を掲載している。

例えば、利用者は顔にカメラを装着していることを念頭に置き、更衣室や公衆トイレ、会議室、映画館といったカメラの持ち込みが禁止されている場所では外すべきだとしている。また10秒ごとに目を上や横に動かしている人と話をするのはイライラするもの。誰かが目の前にいる時は外した方が礼儀正しいとしている。

技術革新を進めて、利用者の言論・表現の自由も守りたいグーグル。これに対し、プライバシー侵害や公共マナーの悪化を懸念する声。グーグル・グラスはそんな相反するものがぶつかり合い、議論を呼んでいる端末となっている。

JBpress:2013年5月9日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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