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「やってられない」金正恩への忠誠強要に北朝鮮兵士ら不満

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮軍の兵士(デイリーNK)

 2020年から始まったコロナ鎖国で、長期の食糧難、物資不足に陥っている北朝鮮で、次から次へと思想教育プログラムが行われている。

 国民からは強い不満の声が上がっており、教育にどれほどの効果があるのかは未知数だ。経済再生が、民心をなだめる最良の策のはずだが、生活が苦しいときには、国内を引き締めるために思想教育を強化するというのが、北朝鮮のやり方だ。

 米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が取り上げたのは、物資供給も途絶えがちで空腹に苦しむ中、年がら年中続く思想教育に疲弊している朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士の話だ。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 咸鏡北道(ハムギョンブクト)の軍関連情報筋は、軍の総政治局から各部隊に「青年節を迎えて行う政治事業対策案」というタイトルの指示文が下されたと伝えた。これは、8月23日から、青年節当日の28日まで、ぶっ続けで思想教育や様々な行事を行えというものだ。

 指示文は「7〜8割を占める青年軍人に対して、いかに(戦争の)準備をさせるかに、党と革命の運命がかかっている」として、「世代を引き継いで革命を完成させるためには、青年たちの準備状態と役割が非常に重要であるため、軍人に対する思想教育はいっときも遅滞させてはならない」としている。

 指示に基づき、部隊の青年同盟は、毎日の精神教育の時間を使って、思想教育を集中的に行っている。例えば、最高司令官である金正恩総書記に宛てた忠誠の誓いと決意をしたためた「手紙を書く集い」などが行われている。

 上述の通り、軍の人員の多くを若者が占めるだけあって、若者の間で人気のある文化、つまり韓流がそのまま持ち込まれる現象が起きている。体制の維持に最も重要な組織の一つで、体制の安寧を脅かすと当局が忌み嫌う韓流が広がっている現状を打破しようというのが、繰り返される思想教育の一因だろう。

 だが、当の兵士たちからは強い不満の声が上がっている。

 平安北道(ピョンアンブクト)の軍関連情報筋は、各部隊の政治部が青年節を迎え教育プログラムが次から次へと行っているが、これら行事の準備でわずかばかりの休息時間も奪われる現場の兵士の間からは、「毎年、青年節には行事が行われるが、今年ほど派手に行事で痛めつけられるのは初めて。やっていられない」として、当局に対する怨嗟の声が上がっている。

 幼稚園に上る前から始まり、死ぬまで受けさせられるこの手の思想教育。北朝鮮の人々もくだらないと思っているようで、民間人ならば、上役にワイロを支払ってサボったり、居眠りしたりして適当に済ませることも可能だろうが、軍人とあらばそうもいかず、熱心に参加することが求められる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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