密輸ですらも政府が主導する北朝鮮の摩訶不思議な貿易システム
北朝鮮には「国家密輸」という摩訶不思議な言葉がある。
本来、密輸と言えば業者同士で行うものだろうが、北朝鮮では国家機関が介入して、隣接する中国の税関を介さずに輸出入を行う密輸が行われている。これが「国家密輸」だ。中国当局はおそらく黙認しているのだろう。
(参考記事:北朝鮮、厳戒態勢下で「国家密輸」…秘密警察が主導)
現在、中国と国境を接する両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)では、中国から中古車を取り寄せる密輸が行われているが、最近は滞りがちだという。現地のデイリーNK内部情報筋が詳しい状況を伝えた。
恵山市内の芸術劇場、映画館の前、恵山ホテルの前庭などには今月初旬から大量の中古車が駐車されたままになっている。いずれも中国から国家密輸で取り寄せられたものだ。
これらはまず、社会安全省(警察庁)からナンバープレート、登録証を受け取り、車両の種類、色、所属機関についての審議を内閣から受け、承認を得ることになっている。しかし、このプロセスに10日以上かかる状況となっており、手続きが進まずに車両がそのままになっているのだ。
この状況に泣いているのは、個人の密輸業者だ。
「(彼らは)知り合いのいる貿易会社と同業形式で中古車の密輸に乗り出す。貿易会社の名前でワック(貿易許可証)を得て、車を取り寄せてから販売し、得た利益を貿易会社を山分けする」
「ところが、車1台輸入するために多額の借金をしているのに、車の承認手続きが滞り、このままでは赤字になってしまう」(情報筋)
コロナ前から業者が独自で車を密輸することもあったが、今では国家密輸に参加する形でしか密輸が許されない。たとえ密輸であっても、国のコントロール下にあり、利益の一部を納めさせられるのだ。これが、すべての貿易を国が司る「国家唯一貿易体制」の実態だ。
(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」北朝鮮、軍人虐殺の生々しい場面)
ちなみに中国で4万5000元(約97万5000円)で販売されている中古車を密輸する場合、ワックの費用が1台あたり3万元(約65万円)、輸送に必要な人件費が2500元(約5万4000円)かかる。販売価格は8万2500元(約178万7000円)から8万4500元(約183万円)まで膨れ上がる。
業者1人あたり密輸できるのは2〜3台で、費用の総額は15万元(約325万円)から20万元(約433万円)となる。借金1万元(約21万6000円)の1日あたりの利子は100元(約2160円)だ。20万元の場合、10日の利子が2万元(約43万3000円)に達する。1台あたりの利益は5000元(約10万8200円)から7000元(約15万1000円)なので、手続きに10日かかると赤字になってしまう計算だ。
登録には5日ほどかかると見込んで密輸に乗り出したものの、予想以上に時間がかかる。その理由は明らかにされていない。
金正恩総書記は市場やトンジュ(金主、ニューリッチ)を抑制する一方で、大口の投資ができるほどの資金力のあるトンジュは優遇している。モノを言う中産階級の出現は阻止したいが、政商は育てたいのだろう。中古車の輸入においても、30万元(約650万円)ほどの資金力がなければ、相手にしてもらえないのが現状だ。