今年9月17日に公開されるや、Netflix史上最高のヒットを記録した韓国発ドラマ「イカゲーム」。競争社会である韓国を揶揄したと評されるキャラ設定とストーリー展開だが、北朝鮮の視聴者が目にすると、自国の現実を揶揄したように見えてしまうだろう。

 北朝鮮の対外向けメディアは、イカゲーム批判記事を掲載するなど、流入に警戒感を示していたが、公開からわずか2ヶ月で北朝鮮に流入したことが、摘発事例から明らかになった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

 咸鏡北道(ハムギョンブクト)の司法関係者は、今月15日ごろに清津(チョンジン)市内の高級中学校(高校)に通う男女の生徒7人が、「イカゲーム」を視聴したとして、韓流取り締まり班である109常務連合指揮部に摘発されたと伝えた。当局がいま最も警戒する「禁断の映像」を見たことがバレたわけで、重罰が予想された。

 判決は極めて早急に下された。USBメモリを購入した生徒には無期労働教化刑、一緒に見た生徒には労働教化刑(懲役刑)5年、そして、USBメモリを販売した業者には、「見せしめ」のため公開銃殺の判決が下された。ドラマを地で行く残酷さだ。

(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

 生徒の1人が「イカゲーム」が保存されたUSBメモリを密かに購入、親友1人と見ていたのだが、その彼が他の友人にドラマのストーリーを話したことから興味を持った他の生徒たちも加わって見るようになったという。

 この事案の報告を受けた政府は、昨年12月に「反動的思想・文化排撃法」が制定されてから初めとなる青少年の摘発事例だとして非常に問題視した。この法律、別名「韓流取締法」と呼ばれ、韓流など違法コンテンツを流布させた者を、無期労働教化刑(無期懲役刑)や死刑など最高刑に処すると定めているものだ。

 当局が問題視しているのはそれだけではない。昨年1月以降、新型コロナウイルス流入防止策として国境が封鎖され、密輸を厳重に取り締まっている中で、最近公開されたばかりの韓流ドラマが保存されたUSBメモリが持ち込まれた点だ。つまり、水際対策に穴が開いていることに他ならない。

 また、監督不行き届きの責任を問われた生徒たちの通う高級中学校の校長、青年書記、担任教師に撤職(更迭)と出党(朝鮮労働党からの除名)処分を下した。彼らは炭鉱など、奥地の労働、生活環境の劣悪な地への追放が予想されており、他の学校関係者も巻き込まれるのではないかと不安な日々を送っているという。

 別の情報筋によると、今回の事件を受けて市場や路上で韓流、外国のドラマや映画が保存されたUSBメモリ、SDカードを販売している業者に対する大々的な検閲(取り締まり)が行われており、販売者、購入者ともに摘発されれば重罰に処すとの警告がなされている。

 一方、市内ではこんな噂が流れている。「イカゲーム」を見た生徒は実際にはもっといたのだが、経済的に余裕のある親は取り締まり要員に3000ドル(約34万5000円)のワイロを払って見逃してもらったというものだ。市民は、北朝鮮がカネとコネのある親、つまり「親ガチャ」に当たれば、死刑台からも下ろしてもらえる不公平な社会だと、怒りを口にしているという。

 北朝鮮当局が目の色を変えて「イカゲーム」を取り締まろうとするのは、国民にこのような不公平感を認識させ、不満を煽り、社会への懐疑心が広がり、体制を揺らがしかねないとの危機感があるからに違いない。韓国への漠然とした憧憬を煽る他の韓流とは訳が違うのだ。