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「ソウルを水攻めに」北朝鮮が威信をかけたダムがポンコツ過ぎて使えない

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

「金正日時代の万年大計の創造物」――そう呼ばれていたのは金剛山ダムと、同ダムに設けられた安辺(アンビョン)青年発電所である。韓国のソウルを流れる漢江の上流の北漢江をダムでせき止めて発電するもので、総容量は3万2400キロワットで黒部川第四発電所(クロヨン)の約10分の1だが、非常に「映える」ため、プロパガンダ用としては最適だった。

だが、まともに稼働することはなかった。設計から建設工事に至るまで、すべてがむちゃくちゃだったからだ。つまり、巨額の資金を投じて建設したハリボテだったと言っても過言ではない。

このように使えない代物が次々に建設されているが、東海岸で建設中の端川(タンチョン)発電所にも懸念の声が上がっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

故金日成首席は1986年、多くの兵士を動員して、安辺発電所の建設を開始させ、大飢饉「苦難の行軍」のさなかの1996年に完成させた。その過程で事故、病気、飢えにより多くの兵士が命を落とした。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

しかし、発電所は使えない代物であった。

両江道の幹部によると、例えば、取水口は渇水期の水面の高さに合わせて設置しなければならないが、平年の降水量に合わせたため、取水ができないというおマヌケぶりだった。

この解決のために、ダムの上流の江原道(カンウォンド)淮陽(フェヤン)郡の九龍里(クリョンリ)に補助ダムを建設し、水位を上げて取水を行っている。実はこの補助ダムだけでも、発電は可能だったのだ。多くの兵士の犠牲は、失政による犬死だったわけだ。

しかし、問題は依然として存在している。ダムと発電所をつなぐ40キロの地下水路は、手抜き工事のために水漏れが深刻で、容量は3万2400キロワットのはずだが、実際には2万キロワットを発電するのがやっとだという。北朝鮮最大の北倉(プクチャン)火力発電所の総容量が160万キロワットであることを考えると、本当に微々たるものだ。

水漏れを隠蔽するために、安辺郡の文須里(ムンスリ)の地下水路の通り道の山の中腹に貯水池を建設した。「欠陥を表面化させてはならない」という中央の指示によるものだ。

工事に携わった関係者によると、梅雨時には上流から流れてきたゴミで水路が詰まり、渇水時には取水ができず、2012年以降は発電所が稼働できていない。

ちなみにこの金剛山ダムだが、有事の際に放水を行い、70億トンの水でソウルを水攻めするのが当初の目的だったと、この関係者は明かしている。

一方の端川発電所は今年、故金日成氏の生誕記念日である4月15日に竣工式を行う予定だったが、理由が明かされないまま再び延期となった。現在、技術的な点検が行われているとのことだ。

同発電所は、朝鮮が日本の植民地支配下にあった時代に、日窒コンツェルン(現チッソ)が計画していたものだ。両江道の三水(サムス)から東海岸の端川までの160キロもの水路と8つの発電所を作るという、超弩級メガプロジェクトであったが、第2次世界大戦末期に断念に追い込まれた。ちなみに容量は200万キロワットの予定だった。

端川発電所も当初の建設期間が2017年から2020年の3年と短く、「安辺発電所と同じことになるのではないか」との懸念の声が多かった。中央はそのせいか、「建築の質を高めよ」との指示はしても、「完成時期を早めよ」との指示はしていないとのことだ。質を度外視してともかく早く作ればいいという「速度戦」的な考え方から、ようやく脱しつつあるのかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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