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北朝鮮の「風俗無料案内所」に手を出した"息子と父親"の悲惨な運命

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正日氏と金正恩氏(写真:ロイター/アフロ)

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の食糧事情の劣悪さは今日に始まったことではない。協同農場から軍部隊に届くまでの過程で横流しされ、末端の兵士は常に空腹と闘っている。栄養失調で自宅に帰される者も少なくない。それが一家の運命を狂わせてしまった。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

三水発電所の50代の職場長Aさんの息子Bさんは兵役に行っていたが、結核と栄養失調にかかり鑑定除隊(病気による除隊)させられて実家に戻っていた。

普通に働くだけの体力がなく、軽い労働だけを行う職場に配属となったBさんだが、充分な収入が得られず、病気を抱えたままだった。また、父Aさんも職場長のポストにあったとはいえ、低収入であるのは同じである上に、仕事に没頭して家庭のことはほったらかしにしていた。

そこでBさんはコメやトウモロコシを扱う商いを始めた。しかし、ほとんど儲けがなかったため、咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)に移住し、電化製品や外国製の食料品を流通の中心地の清津(チョンジン)まで運ぶ仕事に手を出したが、これとて儲けはさほどなかった。

そこで手を出したのは売春だった。

個人の営む下宿や待機宿泊と呼ばれる民泊で、女性に売春をさせる半グレと知り合い、種銭の要らないこの仕事を手伝うようになった。つまり、個人経営の風俗無料案内所だ。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

出張で来た男性に女性を紹介するだけでなく、韓国のアダルトビデオを売りつけたりする仕事にも幅を広げ、かなり稼いでいたようだ。

しかし、住民の通報で清津市安全部(警察署)に敢え無く御用となった。安全部は彼にこう言い放ち激しく暴力をふるったという。

「両江道の田舎者風情が清津に入ってきて咸鏡北道の風紀を乱した」

規定に従って住民登録をしている三水郡の安全部に身柄を引き渡されたBさんは、4年の労働教化刑(懲役刑)の判決を言い渡され、教化所(刑務所)に収監されたと伝えられている。

災難は父親のAさんにまで及んだ。息子が非社会主義的行為(風紀を乱す行為)を行ったとして、今月初めに集団思想闘争会議(吊し上げ)にかけられた。そして父親、労働者、労働党員のいずれの資格もないと手厳しく批判された。

「息子を間違った方法で育てた者は、国家の主要な重要対象機関である三水発電所で働く資格がないという厳しい批判を受けた」(情報筋)

そして職を解かれて解雇され、党からも追放され、家族もろとも豊西(プンソ)郡の寒村に追放された。

そもそも食糧配給が規定通りに行われていれば、Bさんは栄養失調にかかって実家に戻ることも、売春に手を出すこともなく、Aさん一家も追放されることもなかっただろう。国の失策のしっぺ返しは、末端の人民に行くのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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