Yahoo!ニュース

北朝鮮が元特殊部隊員を拉致か…脱北美女の「奪還」もねらう

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

韓国のSBSは18日、脱北者の男性で、かつて朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の特殊部隊に所属していた朴さん(26)が、北朝鮮に帰ったもようだと報じた。これを受け、韓国当局は「朴さんが北朝鮮と中国の国境地域に住む叔母に会いに行き、北朝鮮に拉致されたもようだ」との見解を示している。

SBSによれば、2014年に脱北した朴さんは、ケーブルテレビ局の番組に出演するなど、韓国社会で精力的に活動していたが、昨年3月以降、消息が途絶えたという。朴さんの知人は「テレビにも出演して、熱心に大学にも(韓国で)通っていたのに、北朝鮮へ行くなど考えられない」とコメントしている。

韓国当局が「北朝鮮による拉致」との説を取るのは、実際に北朝鮮の国家保衛省(秘密警察)が、脱北者を拉致したり強制的に帰国させたりする作戦を展開していることが判明しているからだ。

(参考記事:「韓国から連れて来い!」…北朝鮮「拉致組」が狙う次なる美女たち

強制的に帰国させる方法は、本国に残った家族から本人に電話をかけさせ、戻ってくるよう説得させるというものだ。脱北者が言うことを聞いて帰国すれば罪を問われないが、応じなければ家族に危害が及ぶのである。

いま、そのような活動の最大のターゲットとなっているのは、昨年4月に集団脱北した北朝鮮レストランの女性従業員たちだろう。北朝鮮レストランの従業員にはときにアイドル並みの美女もおり、かねてから注目度が高い。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

そんな彼女らの集団脱北は、北朝鮮当局に大きな動揺を与えた。そのため金正恩体制は、彼女らが韓国当局により「拉致された」との主張を、今に至るも続けている。

(参考記事:北朝鮮、脱北ウェイトレスたちの顔写真を公開

首尾よく彼女らを連れ戻すことができれば、国内メディアで「韓国に拉致されたのに間違いない」と証言させ、国内の動揺をいくらかでも食い止められると考えているのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事