金正恩氏の「拷問部隊」が始めた「プレミアムサービス」とは

金正恩氏(労働新聞より)

北朝鮮の治安機関の一つである国家保衛省(以下、保衛省)は、捜査で拷問を多用することから、住民から最も恐れられている。ところが最近、その保衛省の行いに異変が生じているとデイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。

女子大生を拷問

保衛省は、密かに北朝鮮の国民の一挙手一投足を監視し、体制不安の芽を徹底的につぶす秘密警察である。監視分野は、住民たちの娯楽や文化にも及ぶ。一昨年には、違法な海外コンテンツである韓流ビデオのファイルを保有していた容疑で女子大生を拷問し、悲劇的な末路に追い込んだ。

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そんな保衛省が住民に「手厚いサービス」を行っているというのだ。内部情報筋によると、北朝鮮・咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)市の保衛部が、携帯電話を使い違法に韓国と通話していたある住民を逮捕した。住民は、1万元(約17万3000円)のワイロを支払って釈放された。

保衛部が、違法行為を見逃す代償として多額のワイロを要求することは今までもあった。貧乏国家・北朝鮮の一部署であることから、秘密警察といえども予算は少なく、逆に国家に上納金を納める義務を負っているからだ。

これまではワイロを受け取って見逃すにしても、「ありがたく思え」という上から目線だった。

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しかし、今回の事件で保衛部は、釈放した人物を車に乗せ、自宅まで送り届けるという「プレミアムサービス」を行ったという。

金正恩党委員長は「国外への情報流出、国内への情報流入」に神経をとがらせており、厳しく取り締まるよう指示している。これを受けて保衛省は、高性能の電波探知器を導入して、中国との違法な携帯通話を取り締まっている。一方、地方部局である保衛部は、どうやら取り締まりの権限を金儲けに利用しているようだ。最近では、保衛部の方から積極的に「サービス」を提供することもあるという。

例えば両江道(リャンガンド)の保衛部は、通話1時間あたり500元(約8600円)を受け取り、時間と場所を指定して、電波探知器のスイッチを切って携帯電話を使わせるというサービスを行っている。まるで、警察が強盗に武器を貸し与えるようなものだ。

保衛部が下手に出るようになった背景には、金正恩氏の政策がある。トップの金元弘(キム・ウォノン)氏を解任し、複数の幹部を処刑するなどして、肥大化した保衛省を抑えつけようとしているのだが、そのおかげで要員たちが困窮するようになってしまったのだ。

さらに、LINEやカカオトークなどのメッセンジャーアプリの普及も、保衛部が任務を放り出す一因になっている。通信が暗号化されているため、従来の電波探知器では対処できず、取り締まりが難しいのだ。

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そこで、「容疑者の皆様」に様々な「サービス」を提供することで、市民から自分たちに向けられる厳しい視線を和らげ、安定的な収入を得るための「営業努力」をしているのだと情報筋は見ている。

今の北朝鮮は庶民がゼロから作り上げた市場経済、いわば「草の根資本主義」なしには成り立たない。金正恩体制の思想統制を支えてきた保衛省ですら、この波に乗り遅れまいと必死のようだ。