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国際社会からこんどは「性的暴力」を追及される金正恩氏

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

8日から開かれる国連女性差別撤廃委員会の本会議を前に、国際的な人権団体、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は6日付で声明を発表。北朝鮮の拘禁施設において、中国から強制送還された脱北女性に対する性的暴力が蔓延しているとし、是正のための圧力をかけるよう国連に求めた。

HRWは同時に、北朝鮮の拘禁施設で人民保安省(警察)や国家保衛省(秘密警察)の要員などから心理的、肉体的、性的に虐待された経験を持つ女性8人に対して行った聞き取り調査の結果を発表した。

ここでは3人の実例を紹介する。

◯国家保衛省の要員または保安員(警察官)と思しき人物から、閉ざされた部屋で服の中に手を入れられ、顔、胸、臀部などを触られた。生殺与奪権を握られた状態で抵抗できなかった。

◯2012年末に脱北したが、中国で逮捕され強制送還された。勾留場で保衛省の取調官に強姦された。

◯人身売買の被害に遭い中国人男性に売り飛ばされたが、2010年に中国から北朝鮮に強制送還された。咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)の拘禁施設で、取調官から中国人男性との性的関係について繰り返し聞かれた上に、数回にわたり強姦された。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

咸鏡北道の全巨里(チョンゴリ)教化所に収監されていた経験を持つ2人の脱北者は、女性収監者1000人のうち8割が脱北者で、さらにその多くが中国人男性や性産業に売られた後に北朝鮮に強制送還されたと証言している。

調査の対象者は、勾留中にこのような被害に遭ったとしても、行為をやめさせたり、説明を求めたりする効果的な方法はなく、むしろ強姦された事実が公にされることで、被害女性は社会的な不名誉な烙印を押されてしまうと証言した。

(参考記事:刑務所の幹部に強姦され、中絶手術を受けさせられた北朝鮮女性の証言

同時に、市場経済化の伸展に伴い、女性たちが違法行為を含む市場での商売を行うようになったことで、逮捕、拘禁、性的暴力の被害に遭うリスクが高まったとも説明している。それを下支えしているのは、固定観念化したジェンダー・ロール、女性に対する暴力を容認する雰囲気だ。

北朝鮮政府は、国際連合人権高等弁務官事務所からの問い合わせに回答し、2005年から2016年の間に、6473人の女性が有効なパスポートなしに海外に出国し帰国したとしながら、その多くが経済的困難、人身売買の犠牲となり違法に国境を越えたと説明。彼女らは帰国後も処罰されることなく、国の慈悲深さと包容力のおかげで安定した生活を送っていると主張した。

また、拘禁施設内での全ての手続きは法に則って行っており、人権侵害を防ぐための徹底した管理監督も行っていると主張したが、HRWは事実と異なると反論している。

(参考記事:北朝鮮、脱北者拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

HRWのヘザー・バー氏は、いかに北朝鮮が否定しようとも、女性が肉体的、性的に虐待されているという明確な証拠があると指摘。国連は女性の権利を尊重するよう圧力をかけるべきで、北朝鮮が実態調査を拒んでいる状態を放置してはならないと述べた。

こうした声はほかのNGOからも上がっており、国連の場で、北朝鮮女性に対する性的暴力の責任を問い、金正恩党委員長が追及される事態に発展する可能性は小さくないと言える。

北朝鮮は2001年に「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に加盟した。加盟国には4年に1回、履行報告書の提出が義務付けられているが、北朝鮮は昨年4月になってようやく、2002年から2015年までの報告書をまとめて提出した。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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