北朝鮮軍兵士が中国に侵入、その目的は?
北朝鮮の国境警備隊2人が、夜闇にまぎれて川を渡り中国に侵入した。この2人の目的は、カネでも食べ物でもなかった。
デイリーNKの現地情報筋によると、吉林省の豆満江流域で9月16日深夜、北朝鮮の国境警備隊員と思われる兵士2人が、川沿いで釣りをしていた中国人に近寄ってきた。2人は、釣り人に次のように話しかけた。
「知人に電話をかけたい。携帯電話を貸してくれないか」
釣り人はさぞかし肝を冷やしたことだろう。中朝国境地帯の中国側では、1990年代後半から今に至るまで、北朝鮮の兵士による窃盗事件や強盗殺人事件が続発しているからだ。
(参考記事:【スクープ撮】人質を盾に抵抗する脱北兵士、逮捕の瞬間!)
朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍紀は食糧の横流しや性上納の強要など、乱れ切った状態にあり、一連の「越境犯罪」も空腹に耐えかねた兵士らが起こしたものだ。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)
幸いにもこの2人、軍服を着ていたものの武器は持っていなかった。要求に応じて携帯電話を差し出すと、2人はどこかに電話をかけた。通話が終わると「ありがとう」と言って携帯電話を返し、悠然と去っていったという。
このような行為は異例中の異例だが、その背景については様々な見方がある。
まず、中国にコネを作ろうとして川を渡って中国人に接近したというものだ。密輸や脱北幇助を行なうためには、中国人のパートナーが必須だからだ。
もう一つは、北朝鮮当局の取り締まりの強化によるものだ。
国内情報の流出、国外情報の流入に異常なほどに神経を尖らせている北朝鮮当局は、中国キャリアの携帯電話を使って、中国や韓国と通話する行為を非常に厳しく取り締まっている。
この兵士らは、何らかの事情で中国の知人に連絡を取ろうとしたが、取り締まりが強化されている北朝鮮国内での通話はリスクが高いと判断し、川を渡って中国人の携帯電話を借りたという見方だ。
この地域では同月、韓国と通話していた人が保衛員(秘密警察)に逮捕される事件が起きている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、9月初め、会寧(フェリョン)市の南門洞(ナムムンドン)と水北洞(スブクトン)に住む住民2人が、韓国に住む家族と通話するため、携帯電話を持って山に登った。
通話を終えて山を降りてきたところを保衛員に囲まれ、逮捕された。保衛員は、電波探知器で場所を特定した上で、物陰で待ち伏せしていた。2人は取り調べで、通話の録音データを突きつけられ、「南朝鮮(韓国)の国家情報院(情報機関)と内通していたのではないか」と厳しく追及されたという。
このケースでは、話していた内容が生活に関することで、国や体制への不満、秘密の漏洩がなかったため、重罰にはならないだろうと情報筋は見ている。また、拷問や厳しい追及で容疑者に恐怖心を植え付けた上で、カネを巻き上げる行為が多発していることを考えると、最初からカネ目当てだった可能性もある。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)