金正男氏暗殺の裏で正恩氏の「拷問部隊」が暗躍か

金正男氏(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮の金正恩党委員長の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)氏が殺害された事件に、秘密警察である国家保衛省(前国家安全保衛部、以下:保衛省)が関与しているという説が浮上した。

この事件は当初、諜報からはじまってテロや要人暗殺などの工作を行う北朝鮮の対外工作機関である偵察総局による犯行だと見られていた。しかし、韓国の情報機関である国家情報院は27日、容疑者と見られる北朝鮮国籍の8人のうち、4人が保衛省、2人が外務省にそれぞれ所属していると明らかにした。

女子大生さえも拷問

保衛省は、秘密警察として金正恩独裁政権を陰で支える要の機関であり、国民の一挙手一投足を監視する。それだけでなく国際的に問題となっている強制収容所も運営する。見過ごせないのは、この収容所では残虐な人権侵害が常態化している。

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少しでも体制を脅かす芽があれば徹底的に叩きつぶす保衛省は、金正恩氏の恐怖政治を支えてきた。それを代表するのが張成沢(チャン・ソンテク)氏粛清事件だ。

2013年12月8日、平壌で開かれた朝鮮労働党政治局の拡大会議の最中、張氏は名指しで「反党・反革命分子」と批判され、その場で逮捕・連行された。そして4日後の12日、張氏は、裁判にかけられ即時処刑された。裁判の名称は国家安全保衛部特別軍事裁判、つまり逮捕から裁判、そして処刑まで当時の保衛部が主導したことを意味する。

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保衛省は、張成沢氏クラスの高級幹部だけでなく、一般庶民に対しても強引な捜査を行い、その過程では筆舌に尽くしがたい拷問も厭わない。昨年5月には韓流ビデオのファイルを保有していたという容疑だけで女子大生を拷問。女子大生は拷問やその後に待つ拘禁生活に絶望し、自ら悲劇的な末路に追い込まれた。

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ナチス・ドイツのゲシュタポさながらの強権を振るう保衛省だが、同省をめぐっては気になる情報もある。

韓国統一省は今月3日、保衛省のトップであり金正恩氏の側近と見られていた金元弘(キム・ウォノン)氏が1月中旬までに電撃的に解任されたと明らかにした。実際、金正日総書記の生誕記念日である光明星節(2月16日)に金正恩氏が金日成・正日氏の遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿を参拝した際、いつもは同行する金元弘氏の姿は見られなかった。

仮に、金元弘氏が失脚していたとしても金正男氏の暗殺が正恩氏の直々の指示だとするなら、その指示は絶対であり決行しなければならなかったのだろう。

いずれにせよ、国内では泣く子も黙る残虐部隊である保衛省が、今回の金正男殺害事件のように猛毒のVXで暗殺を試みていたとするなら、その危険度と残虐性はますます高まっていると言える。