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東京~名古屋が「JR中央本線」? 「東」と「西」がある? 都会と自然を行き来する興味深い路線

小林拓矢フリーライター
中央西線のエース、特急「しなの」(写真:イメージマート)

 東京圏で暮らす人々は、高尾に向かうオレンジ色の帯の電車を「中央線」と呼び、親しんでいる。しかしそれだけが、「中央線」ではない。正式名称は「中央本線」。東京から塩尻を経由して名古屋に向かう路線である。

「中央線は名古屋まで行くの?」と思う人も多いかもしれない。しかし、現実には東京から名古屋に向かう列車は1本もない。

 JR新宿駅には「中央本線特急」のホームがあり、そこから甲府や松本に向かう特急が出発している。松本は実は、中央本線の駅ではなく、篠ノ井線の駅だ。

「中央線」と「中央本線」って何が違うの? どんな路線なの?

 そういった疑問に答えるために、私はJR中央本線について『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)という本を書いた。

 そこに記したことを中心に、JR中央本線の「意外な歴史と魅力」について紹介したい。

車窓が美しい中央本線

 ふだん、「中央線」の快速列車で都心に通勤している人は、立川~中野間の高架区間で、都会らしい風景を眺めていることだろう。どこまでも続く住宅街、さらにその向こうに見える高層ビル郡に、首都・東京を感じるのではないだろうか。

 いっぽう、新宿から特急「あずさ」「かいじ」に乗る人は逆だ。列車は都会の中をゆったりと進み、立川をすぎると幅の広い川を2回渡り、八王子を発車してしばらくすると、山の中を分け入るように進む。小仏トンネルを抜けて神奈川県に入ると、ローカルな風景が車窓に広がる。

 大都会から1時間ちょっと移動しただけで、車窓からは自然の豊かさが感じられるようになり、四季折々の美しさに魅了される。

 圧巻なのは山梨県の笹子トンネルをすぎ、勝沼ぶどう郷あたりの甲府盆地の風景である。とくに、桃の花の季節はきれいだ。

勝沼ぶどう郷近くを走る中央東線の特急
勝沼ぶどう郷近くを走る中央東線の特急写真:イメージマート

 甲府をすぎると車窓には南アルプスと八ヶ岳。徐々に勾配をのぼっていく。そして信州へ。

 ここまでは、あくまで「中央本線」の中の「中央東線」のことである。

 というのも、実はJR中央本線は、長野県の塩尻を境に「中央東線」と「中央西線」に分けられるのだ。「中央西線」も、風景はいい。

 今度は名古屋から塩尻を目指してみよう。名古屋を出ると、定光寺~古虎渓あたりで渓谷美を堪能できる。それだけでもすばらしいのに、岐阜県の中津川から北側は木曽川に沿って線路が走り、長野県に入ると「寝覚ノ床」といった景勝地を味わうことができる。山々には木曽ヒノキが植えられており整った森林が広がる。

木曽川の渓谷は美しい
木曽川の渓谷は美しい写真:イメージマート

 ちなみに、名古屋から長野へ向かう特急では、篠ノ井線に入ると姨捨(おばすて)あたりで「善光寺平」が開けるのを目にすることもできる。

 中央本線、そしてその先にある篠ノ井線は、移りゆく車窓からの自然が魅力的なのだ。

 ここまで来てなんとなく分かる通り、「中央東線」「中央西線」に分かれた中央本線に、直通列車はない。それは、なぜなのだろうか?

もともとは東海道本線のサブルートとして計画された

 明治時代、東京と大阪を結ぶ幹線は東海道経由か、中山道経由かで論争があった。議論の結果、東海道経由となり東海道本線は大幹線となる。1964(昭和39)年に東海道新幹線が開通するまでは、多くの特急や急行が行きかっていた。

 東海道本線にも、サブルートが必要ではないか? あわせて旧中山道の山間部にも地域振興のために鉄道が必要ではないか? ということでできたのが、中央本線である。天竜川沿いの伊那谷を通るか、木曽川沿いの木曽谷を通るかは大論争となり、信州出身の伊藤大八ら政治家までが関わった。結局、木曽谷経由となり、現在の中央本線ができた。

 中央本線が東西を結ぶことを前提にした路線である証拠として、1982(昭和57)年5月まで塩尻では、名古屋から長野へ向かう列車がスイッチバック(方向転換)をしていたことが挙げられる。利用実態が東京圏・名古屋圏から塩尻を経由してさらに北にある松本へ向かう路線だったため、塩尻駅は移転し、それにあわせて中央東線と中央西線がそれぞれ松本に向かって駅に入るよう作り替えられた。

 現在、中央東線はJR東日本の路線として、中央西線はJR東海の路線として、それぞれの地域の人たちに利用されている。

 しかし、東海道本線のサブルートとして建設が決定された経緯や、開業当時は東西の直通列車も走っていたということから、同じ「中央本線」をいまでも名乗り続けているということである。このあたり、興味深いではないか。

特急も普通も走る幹線

 中央本線は、ほかの多くの大幹線とは異なり、並行する新幹線はない。リニア中央新幹線の計画はあるものの、それができたからといって中央本線の特急がなくなるということも考えられない。

 中央東線も中央西線も、特急もあれば普通もある、さらには貨物列車も走っているという昔ながらの幹線の形態を保っている路線なのだ。

 新宿からは、30分に1本、松本や甲府に向かう特急列車が出発する。名古屋からは、1時間に1本、長野に向かう特急列車が出発する。JR東日本とJR東海、それぞれが高速化のために工夫した車両を走らせている。

 都市部では、高頻度で通勤・通学者向けの列車が走っている。

 山梨県や長野県では、短編成の普通列車が、ローカル輸送を担う。JR東日本側では、オールドスタイルの211系がメイン。JR東海側では、清潔感があって快適な313系だ。

 そして石油輸送を中心とするEH200形牽引の、迫力ある貨物列車。

 JR中央本線は、面白い。

 この夏、「青春18きっぷ」で移動する人も多いだろう。東西を移動する際には、東海道本線経由ではなく、中央本線経由を選択するのも、いいかもしれない。中央本線の興味深さが、きっとあなたを引きつけるはずだ。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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