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初めてとなる山手線駅の時間表示変更 本当に分かりやすくなるのか?

小林拓矢フリーライター
活躍を終えつつある山手線E231系。車両も変われば駅表示も変わる(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 JR東日本の各駅では、ホーム上の発車標において、発車時刻を表示することにより案内をしている。しかし、山手線ではそれを変えようとする動きがある。2019年11月から2020年7月にかけて、これまでの時刻表示から、列車が駅に到着するまでの時間「約○分後」と表示するようになる。秋葉原や上野などの駅から順次切り替える予定だ。JR東日本では初めての取り組みで、「列車到着までの時間をより分かりやすくお知らせします」としている。なお、早朝・深夜には、従来の発車時刻表示を行うとのことだ。

山手線の旧表示と新表示(JR東日本プレスリリースより)
山手線の旧表示と新表示(JR東日本プレスリリースより)

鉄道を待つ時間の感覚

 山手線は、平日昼間でもおよそ3分から4分に1本程度と、高頻度運転を行っている。他の路線で発車時刻が表示されるようになっても、山手線ではそういった設備の導入はなかなか進まなかった。理由としては、いつでも乗れるから、ということだろう。

 そんな山手線でも発車時刻表示がされるようになり、いつくるのかということが分かりやすくなった。電車が目の前で発車しても、発車時刻を示されれば、安心感を抱くことができた。時計を見ながら、あと何分か待てば次の列車がくる、と考えることができるようになった。

「約○分後」と表示されると、時計さえも見なくてすむ。しかし、そうなると「いつくるの? 遅れたらどうするの?」という疑問もまた起こるのである。

時計をめぐるライフスタイルの変化

 最近では腕時計をしない人も多い。スマホの普及というより、携帯電話を人々が持つようになってから、腕時計をしない人が現れるようになった。

 そういった人たちには、いちいちスマホを見なくてもすむ「約○分後」という表示は、ありがたいだろう。一方、この表示だと遅れているのかどうかも分からず――おそらく、「遅れ○分」という表示が出ることになるだろうが――、いったい何時に出るのか分からないという欠点もある。

 鉄道はダイヤが精密に決められているものであり、時間通りに走ることが普通である乗りものだ。その意味では、発車時刻をきちんと表示することにも、また意義があり、それ自体もまた分かりやすさを示しているものである。

 あと何分でつくのかは、駅構内にある時計か、自分の腕時計で見ればいい、という考えも筆者の中にはある。なお筆者は腕時計をふだんから使用している。

 一方で駅構内での歩きスマホが問題になる現在では、時刻がを表示されそこでスマホを見て人の動きがゆっくりになる、ということもまた避けたいのである。山手線はふだんでも混雑している路線であり、そのホームでスマホを見ながら歩かれるのも困る、というのは「約○分後」の背景にもあるのだろう。

 時計を持たない人が増えたという時代状況も、この変化には感じられるのである。

山手線だからできた「約○分後」

 とはいうものの山手線のことだから、「約15分後」ということはありえない。「約○分後」の「○」が、数分程度だからこういった表示ができた。これが中央・総武緩行線のように都心でも比較的間隔のある路線だと、「そんな先かよ!」ということにもなるのである。

 実際、この変化でも早朝・深夜時間帯は従来どおりの発車時刻表示を行うという。その時間は列車の間隔が開くのだ。

 高頻度の路線だからこそこういった表示ができるのであり、それゆえに可能な「分かりやすさ」ともいえる。

 一方で、筆者はいまのような発車時刻表示が好きである。鉄道が絶対的な時間通りに動いていることを示しており、あいまいではないということに鉄道のよさを感じるからだ。時間があとどれくらいかは、すぐに計算できる。

 現在の表示でも、決して悪くはないのだ。

 ただ、いまの社会のありかたに合わせて、分かりやすさを追求したのは「約○分後」ということになるのだろう。

発車標のディスプレイも変化

 そんな中で、山手線を中心とする東京支社管内28駅では、LED(発光ダイオード)の発車標をLCD(液晶ディスプレイ)の発車標に変えるという。最近では青色発光ダイオードの普及によりLEDでも白色を表示することができ、私鉄の駅では導入されているものの、駅の発車標ではLCDという新技術もまた、導入され始めているのだ。

 とくに熱心なのは東京メトロである。駅によってはLCDの導入が進み、詳細までよく分かる表示ができるようになっている。

 こういった表示を、JR東日本でも行おうということになるのだ。すでに駒込駅や高田馬場駅などでは導入され、今後は多くの駅に導入される。とくに山手線では集中的に行う。2020年春に開業する高輪ゲートウェイ駅でも導入の予定だ。

LED発車標とLCD発車標(JR東日本プレスリリースより)
LED発車標とLCD発車標(JR東日本プレスリリースより)

 時間の見やすさで分かりやすさを示すだけではなく、表示の改善によっても分かりやすさを追求しようとしているのである。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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