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大ヒット駅弁「ひっぱりだこ飯」の進化が止まらない

小林しのぶ駅弁の女王 風土ジャーナリスト フードアナリスト
駅弁「ひっぱりだこ飯」をモチーフにした徳利(右)と猪口       淡路屋提供

 今年の4月10日の「駅弁の日」は、駅弁の日制定30周年を記念して、日本鉄道構内営業会に所属する調製元各社が「おにぎり駅弁」を発売し、記念日を盛り上げた。なぜ「おにぎり」かというと、駅弁の第1号は宇都宮駅の「にぎりめし」だったとの説が一般的だから。駅弁のはじまりとなった、みんなが大好きなおにぎり駅弁が勢ぞろいして、楽しい駅弁の日イベントだった(現在も発売中の「おにぎり駅弁」もある)。

「明石の鬼斬り弁当」980円     淡路屋提供
「明石の鬼斬り弁当」980円     淡路屋提供

 各社の「おにぎり弁当」のネーミングは、「鶏むすび辨當」や「廣島おにぎり」など、ほとんどがむすび、おにぎりとわかりやすいが、あれ?と目を引いたのが神戸・淡路屋の「明石の鬼斬り弁当」だ。レッテルには刀を振りかざす大蛸と鬼が描かれ、弁当の「鬼」の文字が書かれたおにぎりの海苔が真っ二つに斬られている! おにぎり、つまり鬼斬りね。思わずニヤリと笑う。

警察とのコラボ駅弁は史上初めて。「兵庫県警版ひっぱりだこ飯」         淡路屋提供
警察とのコラボ駅弁は史上初めて。「兵庫県警版ひっぱりだこ飯」         淡路屋提供

 現在、淡路屋を代表する駅弁といえば、平成10年(1998)に明石海峡大橋開通を記念して作られた「ひっぱりだこ飯」。この元来のひっぱりだこ飯から派生して、「金色のひっぱりだこ飯」「銀色のひっぱりだこ飯」、「ゴジラ対ひっぱりだこ飯」などなど多くのシリーズが登場しているが、兵庫県警とコラボした「兵庫県警版ひっぱりだこ飯」や海上保安庁とのコラボ「海の「もしも」は118番ひっぱりだこ飯」には驚いた!というより笑ってしまった。どんなジャンルでもコラボしてしまう「ひっぱりだこ飯」。今までこんな駅弁はひとつもなかった。

淡路屋副社長・柳本雄基さん      淡路屋提供
淡路屋副社長・柳本雄基さん      淡路屋提供

 そんな柔軟な発想の調製元。仕掛け人はすべて副社長の柳本雄基さんである。大学卒業後にシステムエンジニアとして就職が決まっていたのを蹴って淡路屋へ。その理由が「旅をしていて何となく気分が変わり、あいうえお順で会社を選んだ。自宅からも近かった」というのだからおもしろい。アレンジひっぱりだこやコラボひっぱりだこのほかに、ひっぱりだこの猪口、徳利、駅弁「ひっぱりだこ飯」の容器にかぶせるフタまで製作、販売して大ヒット商品にしてしまった。

「ひっぱりだこ飯」の容器にぴたりと収まるふた      淡路屋提供
「ひっぱりだこ飯」の容器にぴたりと収まるふた      淡路屋提供

「企業とは…と決めつけるような姿勢ではなく、型にはまらない仕事をしたいと思っていました」(柳本さん)

 金銀のひっぱりだこ飯がヒットして、次は黒色の壺を使用した「ゴジラ対ひっぱりだこ飯」を考案。社長からは「そんなもん売れるんか」とややブレーキをかけられたが、強引に販売し大ヒット!

「このへんから(自身が)調子に乗りはじめたんです」(柳本さん)

 コラボ先はサンリオのキティちゃん、サントリーの伊右衛門、さかなクン、そして兵庫県警と海上保安庁。ご当地企画も入れたら約30種類の「ひっぱりだこ飯」ができていたという。

5月からはテラコッタ容器の植木鉢風も登場予定。花壇に並べたらかわいい  淡路屋提供
5月からはテラコッタ容器の植木鉢風も登場予定。花壇に並べたらかわいい  淡路屋提供

 4月21日からは淡路屋監修のたこめしのおにぎりが全国のセブンイレブンに登場。5月は容器がテラコッタの植木鉢(受け皿付き)のひっぱりだこ飯の販売。初夏には海外イベントにて特別カラーの出品も決定。ひっぱりだこ飯はどこまで進化、拡散していくのか。

「日本一映える駅弁がひっぱりだこ飯なのは間違いないでしょう。これからも何よりもおもしろい駅弁調製元でいきます」(柳本さん)。

 秋にはひっぱりだこに次いで人気のシリーズの陶器の駅弁を発売する予定も。

柳本さんの頭の中にはまだまだおもしろいアイディアがたくさん詰まっている。

駅弁の女王 風土ジャーナリスト フードアナリスト

「食」「郷土」にまつわる風俗・民俗・文化を中心に取材活動を続ける。駅弁の食べ歩きは30年以上に及び、食べた駅弁の数が5000を超えることから“駅弁の女王”と呼ばれる。調製元との駅弁開発、プロデュースも手がける。 新聞、雑誌、ウエブ等に連載多数。■著書 「日本が誇る 絶品の食遺産」(天夢人) 「全国美味駅弁 決定版」(JTBパブリッシング) 「超いまうまい帖」(ぶんぶん書房) 「どんぶりこ」(交通新聞社) 「技アリつまみ」(JTBパブリッシング) 「日本駅弁大全」(文藝春秋)(台湾書跡)ほか多数

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