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NFL2022シーズン開幕。キックオフ・ゲームの舞台裏

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
ビルズを開幕戦勝利に導いたQBのジョシュ・アレン(写真:三尾圭)

 アメリカで最も人気のあるプロフェッショナル・スポーツリーグ『NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)』の2022年シーズンが9月8日(日本時間9日)に開幕した。

 NFLのレギュラーシーズンは9月上旬から1月上旬までの18週間に渡って行われ、各チームがプレイオフ出場を目指して公式戦17試合を戦う。

 MLBの公式戦が162試合なのに対して、NFLはその約1割に当たる17試合しかないので、1試合が持つ意味合いがとてつもなく大きく、試合の盛り上がり方も半端ない。

 通常、NFLの試合は日曜日の昼過ぎに行われるが、木、日、月曜日の夜にその週の目玉ゲームをそれぞれ1試合ずつ行う。

 ここ数年は開幕週の木曜日の夜に『キックオフ・ゲーム』と呼ばれる黄金カードが組まれている。前シーズンの優勝チームに、そのシーズンの注目チームが挑む。今年の『キックオフ・ゲーム』は昨季覇者のロサンゼルス・ラムズ対今季の優勝最有力候補のバッファロー・ビルズの試合が組まれた。

2022年シーズンのNFLキックオフ・ゲームは、昨季王者のラムズのホームに、今季の優勝最有力候補チームのビルズが乗り込んで行われた(写真:三尾圭)
2022年シーズンのNFLキックオフ・ゲームは、昨季王者のラムズのホームに、今季の優勝最有力候補チームのビルズが乗り込んで行われた(写真:三尾圭)

 試合の舞台となったのはラムズのホーム・スタジアムで、今年2月のスーパーボウル開催スタジアムでもあるSoFi(ソーファイ)スタジアム。カリフォルニア州のロサンゼルス国際空港の近くにあるこのスタジアムは7万人を収容でき、昨年11月には人気アイドルグループ『BTS』が超満員の中で4公演を行った。

 今年のキックオフ・ゲームは木曜日の夕方5時半に始まったが、平日の夕方にも関わらず、試合開始前にはスタジアムが満員となり、アメリカでのNFL人気の高さを改めて実感させられた。

試合前にはスポーツ界の超大物2人が会談

試合前のフィールドで談笑するNFLコミッショナーのロジャー・グッデル(左)とラムズのスタン・クロエンケ・オーナー(写真:三尾圭)
試合前のフィールドで談笑するNFLコミッショナーのロジャー・グッデル(左)とラムズのスタン・クロエンケ・オーナー(写真:三尾圭)

 試合前のフィールドの片隅では、屈強なボディーガードたちに周りを固められながら2人の男性が談笑していた。

 ポロシャツというラフな服装なのはロジャー・グッデルNFLコミッショナー。その隣のスーツ姿の男性はラムズのスタン・クロンケ筆頭オーナーだ。

 インターンとしてNFLに入社して、コミッショナーまで上り詰めたグッデルは、2006年にコミッショナーに就任してからの約15年間でリーグの利益を大幅に引き上げ、強力なリーダーシップで世界最高峰のプロフェッショナル・スポーツリーグを牽引する。

 『スポーツ・ビジネス・ジャーナル』誌が毎年選ぶ、スポーツ界で最も影響力を持つ人物に何度も選ばれ、最新の2021年度版でもダントツの1位に選出されている。

 ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、グッデルの年俸は6400万ドル(約93億円)で、MLBやNBAのコミッショナーの6倍以上の大金を手にしている。

 ラムズのクロエンケ・オーナーは、ラムズだけでなく、NBAのデンバー・ナゲッツやNHLのコロラド・アバランチのオーナーを務める。彼が持つチームはアメリカ国内だけに留まらず、英国プレミアリーグのアーセナルFCのオーナーでもある。

 昨シーズンにはラムズがスーパーボウルを制覇しただけでなく、アバランチもスタンリー・カップを手にして、アメリカ4大スポーツの2つのリーグで優勝したオーナーとなった。

 1兆5000億円以上の資産を持つクロエンケは、約5000億円の私財を投資してSoFiスタジアムを建設。通常、アメリカ国内でスタジアムを建設する際には、税金によって建設費の一部(もしくは全て)を賄うが、SoFiスタジアムの建設には税金は投入されなかった。

 アメリカのスポーツ界で非常に大きな力を持つグッデルとクロエンケがどんな話をしているのか、近くに寄って聞き耳を立ててみたが、ボディガードに阻まれて、会話の内容を聞くことはできなかった。

優勝旗セレモニーに去就未定のOBJが登場

優勝旗セレモニーに登場したオデル・ベッカム・ジュニア(写真:三尾圭)
優勝旗セレモニーに登場したオデル・ベッカム・ジュニア(写真:三尾圭)

 試合開始前にはラムズの昨季優勝を祝って、チャンピオンシップ・バナー(優勝旗)がお披露目されたが、その記念セレモニーにOBJことオデル・ベッカム・ジュニアがロンバルディ・トロフィー(スーパーボウル優勝トロフィー)を持って登場してラムズ・ファンを喜ばせた。

 NFLトップレベルのワイドレシーバー(WR)であるOBJは、昨季途中にラムズへ電撃加入。持ち前のキャッチ能力でラムズのパスゲームを向上させ、スーパーボウル優勝に貢献した。スーパーボウルでは試合前半に左膝の前十字靭帯を断裂させ、試合途中で負傷退場。

 ラムズとは1年契約だったために、オフにはフリーエージェントとなったOBJ獲得を狙うチームは多いが、いまだに去就は決まっていない。OBJのフィールド復帰は早くても11月以降と言われており、それまでOBJ争奪戦は続くことになる。ラムズのショーン・マクベイ・ヘッドコーチ(HC)はOBJがチームに戻ってくることを強く希望しているが、ビルズのボン・ミラーもOBJに熱いラブコールを何度も送っている。

ラムズの優勝指輪はスポーツ史上最も豪華な指輪

スポーツ史上最も豪華と言われるラムズの優勝記念指輪(写真:三尾圭)
スポーツ史上最も豪華と言われるラムズの優勝記念指輪(写真:三尾圭)

 優勝旗セレモニーに登場したOBJの右手中指にはスポーツ史上最も豪華と言われるラムズのスーパーボウル優勝記念指輪が眩いばかりに光っていた。

 アメリカのスポーツリーグでは、リーグ優勝を果たしたチームのメンバーに優勝を記念した指輪を与える習慣があり、選手たちはこの指輪を求めて激しいシーズンを戦い抜く。

 本拠地のSoFiスタジアムをイメージしたラムズの優勝指輪には、20カラットのダイヤモンドが散りばめられている。

 指輪の上の部分を動かすと、SoFiスタジアムが現れる仕組みになっているこの優勝記念指輪は、今年7月に選手、コーチ陣、チームスタッフに配られた。気になるお値段は、約5万ドル(約700万円)になると言う。

 

2022年シーズン最初のタッチダウンを記録したのは…

2022年シーズン最初のタッチダウンを記録したビルズのゲイブ・デイビス(写真:三尾圭)
2022年シーズン最初のタッチダウンを記録したビルズのゲイブ・デイビス(写真:三尾圭)

 ラムズのキックオフで始まった試合は、ビルズが75ヤードのドライブで今季最初のタッチダウンを記録した。

 エースQBのジョシュ・アレンからのタッチダウン・パスを捕球したのは、WRのゲイブ・ディビス。NFL3年目を迎えるデイビスは、昨季のプレイオフ2試合で合計5タッチダウンを挙げており、今季のブレイクが期待される選手の一人だ。

 セントラル・フロリダ大学時代にチームメイトだったオティース・アンダーソン・ジュニアは、昨季はラムズの練習生だったが、昨年11月末に父親に射殺されてなくなっていた。ラムズ戦でのタッチダウンは、アンダーソンに捧げるものでもあった。

ハーフタイムショーはオジー・オズボーン

 スーパーボウルでは試合と同じくらいハーフタイムショーが話題になるが、今年のキックオフ・ゲームではスーパーボウルに出ても不思議ではない大物ミュージシャンがハーフタイムに出演した。

 「ヘヴィメタルの帝王」の異名を授けられたオジー・オズボーンは、73歳という年齢を感じさせないパワフルなステージでファンを魅了。パーキンソン病と戦いながら、9月9日には12枚目となるアルバムを発売。このアルバム『ペイシェント・ナンバー9』には、エリック・クラプトンとコラボレートした『ワン・オブ・ゾウズ・デイズ』も収録されている。

 2Qが終わると、約3分でフィールド中央にステージが組み立てられ、パフォーマンス後にはまた早業でステージが撤収された。日頃はマイペースなことが多いアメリカ人作業員たちだが、実はこういった人間離れした早業も得意としており、驚くべき速さでステージの組み立て、撤収作業を行った。

優勝請負人、ボン・ミラーの存在

QBサックが2つ、タックル・フォー・ロスも3つ記録したビルズのボン・ミラー(写真:三尾圭)
QBサックが2つ、タックル・フォー・ロスも3つ記録したビルズのボン・ミラー(写真:三尾圭)

 試合のキーマンとなったのが、このオフにラムズからビルズへ移籍したラインバッカー(LB)のボン・ミラー。

 デンバー・ブロンコスでプレーしていた2015年シーズンに行われた第50回スーパーボウルでMVPを獲得したミラー。昨年11月にトレードでラムズへ加入すると、自身2度目となるスーパーボウルを制覇した。オフにはラムズから残留を望まれながららも、ビルズへの移籍を選択。ビルズにとって、優勝請負人のミラーは悲願のスーパーボウル制覇に向けてのパズルのラストピースと考えている。

 「ディフェンスのリーダー」とQBアレンが言うように、ミラーは移籍早々に卓越したリーダーシップを発揮して、ビルズ・ディフェンスの意識を変えている。ミラー効果は開幕戦から発揮され、ビルズ守備陣は昨季の王者を相手に3インターセプト、7QBサックを奪い、僅か10得点に抑えてみせた。

 対照的にミラーを失ったラムズ・ディフェンス陣は精彩を欠いた。

ディグスとアレンのリベンジ

ラムズのジャレン・ラムジーを相手にタッチダウンを決めるビルズのステファン・ディグス(写真:三尾圭)
ラムズのジャレン・ラムジーを相手にタッチダウンを決めるビルズのステファン・ディグス(写真:三尾圭)

 試合前に注目のマッチアップと呼ばれていたのが、ラムズのコーナーバック(CB)、ジャレン・ラムジーとビルズのWR、ステファン・ディグスの対戦。

 ディグスはラムジーとのマッチアップでパス3回捕球、89ヤード、2タッチダウンと圧倒。リーク屈指のCBであるラムジーを子ども扱いしてみせた。

 2018年のドラフトでビルズが1巡目全体7位でジョシュ・アレンを指名したときに、当時ジャクソンビル・ジャガーズでプレーしていたラムジーは「アレンはゴミで、ドラフト指名権の無駄使い」とアレンをこき下ろした。

 この夜の勝利でアレンはラムジーがいるチームとの試合で3勝無敗、11タッチダウンを記録。「口撃」を仕掛けてきたラムジーに対して、実力でリベンジを成し遂げた。

ビルズ、悲願の優勝に向けて好発進

昨季王者のラムズを一蹴したビルズのジョシュ・アレン(撮影:三尾圭)
昨季王者のラムズを一蹴したビルズのジョシュ・アレン(撮影:三尾圭)

 敵地で王者のラムズを31対10で破ったビルズ。今季は開幕前の時点から優勝最有力候補と呼ばれた実力が本物であることを証明してみせた。

 1990年代にはQBジム・ケリーとRBサーマン・トーマス、DEブルース・スミスと攻守両面に柱となる選手を揃え、4年連続でスーパーボウルに出場したビルズ。しかし、スーパーボウルでは4年続けて敗退して、球団創設以来いまだにスーパーボウル制覇はない。

 2000年に入ってからは長い暗黒時代が続き、17年連続してプレイオフから遠ざかっていたが、2018年のドラフトでアレンを指名してチームの再建に成功。今季こそ悲願のスーパーボウル制覇のチャンスと意気込んでいる。

 熱狂的なビルズ・ファンは「ビルズ・マフィア」と呼ばれるが、キックオフゲームでもバッファローから遠く離れたロサンゼルスにあるSoFiスタジアムには多数のビルズ・マフィアが押しかけ、ビルズの選手たちに熱い声援を送った。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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