Yahoo!ニュース

「自分の立ち位置を客観的に理解する」 山﨑丈路が語るプロ・アメフト選手としての覚悟~後編~

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
CFLの試合でキックを蹴る山﨑丈路(本人のインスタグラムより)

 プロ・フットボール選手、山﨑丈路のインタビュー・シリーズ第2弾。前編ではCFLでのプロ生活に関する話を聞いたが、後編では「日本アメフト界の現在地」や「世界挑戦を考えている日本人選手へのメッセージ」などを語ってもらった。

日本とは熱狂度が桁違のCFL

ーー日本でも東京ドームに2万人以上のファンが集まるJXBやライスボウルなどのビッグゲームを経験しましたが、敵地に3万人以上の満員のファンが詰めかけたCFLの開幕戦はどうでしたか?

山﨑:日本でアメフトの試合に2万人以上入っても、単純計算してもそれぞれのチームのファンが半分ずつで1万人なので、1万人の声援、1万人のクラウドノイズになります。その中にはチームのスポンサー企業の方とか、友達に連れられて初めてアメフトの試合に来られた方とかもそれなりの数はいらして、熱意あるアメフト・ファンはかなり絞られてきてしまいます。

 カナダのCFLでは、ライオンズの開幕戦はアウェイのサスカチュワンで行われましたが、3万人を超えるお客さんのほぼ全てがサスカチュワンの熱狂的なファンなんです。スタジアムにいる全員がフットボールが大好きな方たちで、クラウドノイズも半端ありません。数で見ると2万と3万で大差ないように思えますが、実感だと10倍とか20倍の違いがあると、実際にフィールドでプレーしてみて感じました。

 日本ではホーム&アウェイという感覚で試合をしないので、なかなか感じる機会は少ないのですが、僕はアウェイの試合しか経験できなかったですけど、ホーム&アウェイの形はプロスポーツにとって勝敗を左右する大きな要因になるんだなと改めて感じました。

 その上で個人としては、お客さんがどれだけ入ろうとも、どれだけ大きなクラウドノイズが発生しようと、ただうるさいだけで、僕の心を乱す要因には全くならないことも経験できたことは、次の舞台に繋がる大きな経験かなと思っています。

 日本と北米のビッグゲームでプレーした経験を持つ唯一のアメフト選手である山﨑。実際に経験した者だからこそ語る言葉には重みがある。

 アメリカではNFLに何人も輩出しているマイナー組織のTSL(ザ・スプリング・リーグ)でもプレー。3ヶ国での公式戦をプレーした山﨑以上に、日本アメフト界の現在地を肌で感じた選手はいない。

CFL>>>大きな壁>>>TSL>Xリーグ

ーー日、米、加の3ヶ国でプレーした経験から、日本のトップリーグであるXリーグの現在地はどの辺であると感じられますか?

山﨑:この3つのリーグの中ではCFLが圧倒的にトップだと感じました。その下にTSLが来て、もう少し下にXリーグがくるかなという順列になるかなと思っています。

 僕自身が経験した中で、TSLとXリーグにはそこまで大きな差はないと思っています。Xリーグでプレーしている外国人選手のレベルだけで考えると、TSLのトップ・オブ・トップより少し下ではないでしょうか。TSLもトップレベルの選手ばかりではなく、7割くらいは平凡というか、本当にNFLを目指しているのか?と思うような選手もいますので、その辺りの選手とXリーグの平均的日本人選手が同じくらいですね。TSLの方がちょっと1枚上手かなというくらいの感覚です。

 今回、CFLのキャンプに参加した時点で、CFLとTSLでは天と地ほどの差があるなと強く感じました。CFLのキャンプに参加している選手たちは、CFLやNFLを本気で目指している選手ばかりで、キャンプの時点でTSLとの差を実感しました。そのキャンプでどんどんとふるいにかけられていき、勝ち残った選手だけがCFLの公式戦に出場できます。これは肌で感じた感覚なのですが、TSLのときに見た他のポジションの選手たちの動き、激しさ、ダイナミックさと、CFLのキャンプで見たそれは全く違うものでした。自分自身でもそれまでに色々と見て、経験してきたつもりでしたが、こんなに違うんだと驚きました。CFLとTSLの間には分厚い壁が3枚も4枚もある感じです。

 CFLに目が慣れてくると、CFLはこんな感じなんだな、やはりNFL選手の方が凄いなと思ってくるんですけど、映像として目で観るのと、実際にその現場に立って肌で感じるのは全く違います。日本にも目の肥えている方もいらっしゃいますけど、そこは全く違うということはお伝えしておきたいです。

失敗は重荷ではなく、どう次に繋げるかが大切

ーー今回、CFLのキャンプ、そして公式戦でプレーすることで得た、最大の収穫は?

山﨑:1つ大きな収穫だと思ったのは、観衆のプレッシャーとは全く違うところで、自分は戦えていることを再認識できたことでした。今までも試合の中では自分のキックをするだけと突き詰めてやってきたので、外野が何を言おうが関係ないと思いながらやってきた部分はあったのですが、それは実際には思っていただけであり、そこまで大きくプレッシャーがかかる舞台ではプレーしたことはありませんでした。今回、そういう舞台の中でやってみて、それでも同じように思えたというのは収穫でした。

 もう1つはCFLというカナダのトップリーグを経験できたのは、次に繋げられるものかなと思っています。試合の中での結果は奮いませんでしたが、僕らプロのキッカーの世界ではフリーエージェント(FA)で経験もない状態から契約を勝ち取るのはすごく難しい世界だなと、これまでも感じていました。例えば、どこかのチームでエマージェンシーが発生して、急遽キッカーが必要となったとき、そこの席に座れるのは、その世界を経験した人が優先されるんですよね。FAで経験もないキッカーはノーチャンスに近いのが現実なんです。これまでもそういった経験を何度もしてきたので、今回、CFLのチームと正式に契約を交わし、スターターとして試合にも出るチャンスを得たことで、キャリアを積めたのは非常に大きな実績となりました。FA市場の中で1つ上のランクになれた感じです。キッカーの世界では酸いも甘いも経験してカムバックするのが普通なので、僕が1回失敗した経験はそこまで重荷になってなくて、ここからどれだけ次に繋げられるかが大切であり、自分の実力でやっていくだけだなと思っています。今回のCFLは、実力だけではどうにもならない部分を確保できたのが大きかったです。

ーーライオンズから解雇されて、なぜカナダに残って他のチームから声が掛かるのを待たずに、日本に帰る道を選んだのですか?

山﨑:チームから日本に帰るチケットを用意されてしまったからです(苦笑)。もちろん、カナダに残ることも考えていましたが、一度日本に戻って心と身体をリセットするのも悪くないと思いました。

ーーCFLを経験したからこそ分かった軌道修正が必要な点は?

山﨑:1つは言語です。もちろん、これまでもやってきてはいましたが、他のポジションと比べると、キッカーはそこまで高いコミュニケーションはないのも、実際にCFLのチームでプレーしてみて感じました。でもやはり、コーチやチームメイトから信頼を得るためとか、ちょっとしたミスをしてしまったときにきちんと理由を説明する場合、そして身体のコンディションを正確に説明するときに、今以上の英語力が必要だと痛感しました。

 もう1つは試合で決められるキックと言いますか、試合の中で使えるキックをもっと磨いていく必要性も感じました。FAのときは、どれだけやれるキッカーなのかを見せることが大事なので、ポテンシャルを100%出すキックが大事になってくるのですが、そこで評価をしてもらってチームの中に入ったら、今度は状況に応じたキックを蹴ることが大切になってきます。常に100%の力を出し続けると、疲弊して最後まで持たない。チームに入るためのキックと、チームで生き残っていくためのキックは違うと感じたので、今後はそこを軌道修正していく必要があります。今回はそこの部分でキャンプの時間を多く費やしてしまったので、今振り返ると、もったいなかったなとも思いますね。今度はそこを準備できた状況で勝負していきたいです。

28歳までにキャリアを積めなければ挑戦を断念していた

ーー今、27歳ですが、一般的なスポーツ選手としてはピークに入る年齢で、スカウトからすると魅力を感じ難い年齢です。40歳を過ぎても一線級での活躍を続ける選手もいるキッカーは特殊なポジションですが、今後、北米挑戦を続けていくにあたり、年齢的な部分はどう考えていますか?

山﨑:キッカーというポジションが息の長いポジションであり、だからこそ、僕は挑戦することを決めました。他のポジションであれば、大学を出て、ゼロからの段階でNFLに挑戦するのはかなり難しいと思えますよね。でも、キッカーであれば可能ですので、僕はキッカーで良かったなと思っています(笑)。挑戦をすると決断したときに決めたこととして、28歳になる年までに――それが今年なんですけど――、実績がなにもないノーキャリアだったら、その時点で挑戦は辞めようと考えていました。28歳になるまでにキャリアが1つでも進む――例えばNFLのワークアウトに招待されるとか、今回のようにCFLでプロとしてプレーできるとか――そういうキャリアを積むことができれば、30歳までは挑戦を続けようと考えています。

これは、僕がこれまでにアメリカで数多くのFAキャンプに参加した中で得た主観的な統計なのですが、アメリカ人でもノーキャリアで30近くまでやっている人は、どれだけ能力が高くてもノーチャンスなんですね。逆に1回でも市場に乗った選手は30歳を過ぎても、チャンスをもらいやすいんです。アメリカ人で、アメリカの大学で実績がある人でもそんな感じなので、日本人の僕みたいに北米では本当にノーキャリアの人間は、アメリカ人のスタンダードから2、3歳引いて計算する必要があると思います。それが28歳であり、30歳なんですね。

 僕は自分が設定していた制限までに課題を1つクリアできたので、30歳まで挑戦の資格を伸ばすことができました。僕の知り合いのキッカーで、去年は(デンバー・)ブロンコスのプラクティス・スクワッド(練習生)から昇格して、1試合だけ出場できた選手がいますが、彼もNFLの試合に初めて出たのが31歳でした。そういう選手を見ていると、本当に勇気をもらえますし、自分の挑戦をまだまだ続けていいのだと思います。今の僕はノーキャリアではなく、アメリカ人キッカーと同じ目線で見てもらえるようになったと思っていますので、まだまだ挑戦を続けていきます。

 山﨑が例に出したブロンコスの選手は、テイラー・ルッソリーノ。山﨑同様にサッカー選手だったルッソリーノがアメフトを始めたのは高校最終学年のとき。大学はNCAA3部の無名校でアメフトをプレーしたが、大学を卒業する時点ではNFLのドラフト候補生から漏れ、プロとは名ばかりの室内アメフトリーグでプレーを続けた。2016年には中国のアリーナ・フットボール・リーグに参戦。ここで結果を残して、CFLとの契約を勝ち取ったのが28歳のときだった。最初のCFLチームは1ヶ月で解雇され、30歳のときにはBCライオンズのキャンプに呼ばれたが、開幕前に解雇されている。XFLのチームに拾われて、XFL記録となる58ヤードのフィールドゴールを成功。XFL関係者の推薦もあり、昨季はブロンコスが練習生として契約して、シーズン終盤の試合で正キッカーがコロナ検査で陽性となったことで、急遽ロースター入りのチャンスを掴んだ。試合では51ヤードのキックを失敗しただけでなく、エクストラポイントのキックも3回中2度失敗。シーズン終了後にはブロンコスが契約延長を見送った。

ーーCFLとTSLの間に非常に高い壁があると感じたように、NFLとCFLの間にはそれ以上に高い壁があります。今後、北米への挑戦を続けるにあたって、CFL経由でのNFLを目指すのか、直接NFL入りを目指すのか、どちらですか?

山﨑:両方ですね。もちろん、高い所(NFL)を目標に挑戦していきます。CFLを目標にしてしまうと、NFLに行くことは無理だと思います。NFLを目標に挑戦していく過程で、CFLから声がかかれば、そのときの状況にも寄りますけど、その時点でNFLに行けるチャンスがないのであれば、CFLに行く選択はあります。

次世代日本人選手へ山﨑からのメッセージ

ーー山﨑選手がCFLでスターターとなり、本当の意味で「プロのアメフト選手」になったことで、次の世代のアメフト選手にとって、プロ選手が現実味を帯びた夢になりました。日本の若い世代のアメフト選手の中で、将来的に北米に挑戦したい方にアドバイスをするとしたら、どのようなことを伝えますか?

山﨑:もしも中学生、もしくは高校生の時点で、将来的に北米でプロのアメフト選手としてプレーしたいという明確な目標があるのであれば、アメリカの大学に行って、アメフト選手としてのキャリアを積むのが、最も現実的なルートだと思います。まずは、そこを目指すべきだと思います。

 大学生や社会人の選手にとって大事なのは、自分の立ち位置を客観的かつ具体的に理解することが大切です。これは悲観するとかいう話ではなく、本当に客観視してもらいたいんです。「あの選手は能力が高いのに、なんで海外に一歩届かないのか?」とか「身体能力は足りないけど、フットボール的にはアメリカの選手と遜色ないのに、どうして戦えないんだ」とか言う方もいますけど、それよりももっと前の段階でとてつもないディスアドバンテージを背負っていることを分かってもらいたいです。そこが自分がやってきて強く感じる部分ですね。日本は素晴らしい国ですが、アメフト面ではアメリカに比べると、大きなディスアドバンテージがあります。マイナス100くらいのスタートで始めていることを知り、そのマイナスをどうプラスに変えていくのかを考えるべきです。アメリカ人選手と同じ土俵に立つためには、どうすれば良いのかと考えて欲しいです。そこができれば、日本人選手も北米で戦えるはずです。

 日本のトップリーグであるXリーグは、プロではなく、日本人選手でプロ契約を結んでいる選手は数えるほどしかいない。そのプロ日本人選手たちも、純粋なアメフト選手としての収入だけでは生活できずに、副収入に頼っているのが現実だ。CFLでは海外選手枠の最低年俸が約500万円。日本のプロ野球選手の場合、2軍選手の最低年俸が440万円なので、CFLの選手はプロ野球の2軍選手並の年俸は手にできる。これがNFLになると最低年俸は7000万円を超え、最高年俸選手は50億円近くを稼ぐ。

 日本のアメフトは、世界の中ではアメリカ、カナダに次ぎ、メキシコと並んで3番目の座を争う位置にいるが、トップのアメリカがずば抜けており、アメリカと日本のトップレベルの差は、メジャーリーグと高校野球以上に開いている。もちろん、高校野球の選手にも、将来的にはメジャーで活躍できる選手がいるように、日本国内のアメフト界にもアメリカで通用する逸材が隠れているかもしれない。

 そんな逸材が才能を開花させるためには、フィジカル面はもちろんのこと、考え方を含めたメンタル面も大きく強化する必要がある。

 肌で感じて、初めて知ることがあるが、世界を目指すアメフト選手は、世界を経験している山﨑の言葉に耳を傾けるべきだ。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

三尾圭の最近の記事