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「結果が全て」の世界で生きるキック職人・山﨑丈路が語るプロ・アメフト選手としての覚悟~前編~

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
CFLのBCライオンズでプレーした山﨑丈路(写真提供:BC Lions)

 カナダのプロ・フットボール・リーグ、CFLの公式戦で初めて得点を記録したキッカーの山﨑丈路が、所属するBCライオンズから解雇を告げられた。

 2試合に出場して、フィールドゴールを8回蹴って、4度成功。結果が全てのプロの世界では、成功率50%ならば解雇されても仕方がない。

 8月15日(日本時間16日)の朝にチームから解雇を告げられた山﨑は、その日の昼過ぎにはツイッターで「本当に悔しいですが、これが今の自分です」と解雇を発表。「僕はまだやり続けます。何度折れてもやります」と北米への挑戦を継続していくことも明らかにした。

 カナダではアイスホッケー(NHL)に続いて、2番目に人気のあるプロスポーツ・リーグのCFLだが、日本で得られる情報には限りがあり、山﨑が置かれていた状況をファンが正しく知るのは難しい。そこで、山﨑にCFLでプロ選手として過ごした約1ヶ月間のCFL挑戦を振り返ってもらった。

映画のような解雇伝達シーン

――どのようにして、チームから解雇を告げられたのですか?

山﨑:試合2日間は基本的にオフで、第3週目の初練習日に、いつも通り練習場に行き――僕は通常通りに早めに練習場へ行って、ウォームアップをしていたら――ヘッドコーチ(HC)から話があるからオフィスに来てくれないかと言われました。練習前にHCの部屋に行き、「チームとして君をリリースすることにした」と伝えられました。

――2試合を終えた時点でフィールドゴールを4本も外してしまいましたが、リリースされるかもとは思っていましたか?

山﨑:この世界に入ったときから、どのタイミングでもリリースされてもおかしくはない立場の人間だとは理解していました。いつこういうことが来ても、心の準備ではないですけど、そういうことはあり得ることだとは考えていました。第1週が終わった後も、第2週が終わった後も、両方とも結果的にはいつリリースされてもおかしくはないとは思っていました。むしろ、第2週の試合が終わって、すぐに伝えられずに、オフを挟んで伝えられました。オフの間にコーチや首脳陣の間でも話し合いがあったんだと思いますが、第1週が終わったあとも、チャンスをくれたことは感謝しています。自分が至らないことは、試合の結果から自覚していたので、いつそういう話が来てもという覚悟はできていました。

 1試合目でも2本のフィールドゴールとエキストラ・ポイントのキックを外した山﨑に対して、ライオンズのリック・キャンプベルHCは「彼には精神的なタフさがある。思い通りにいかない状況の中で、よく耐えている」とキックを失敗したことは責めなかった。

 異国から海を渡ってきた選手が新しいチームとリーグに馴染むのは簡単なことではないが、今年のCFLは新型コロナウイルスの影響で、プレシーズンの試合が全て中止となり、山﨑は開幕戦が初めてのCFLでの試合だった。

 キャンプベルHCは開幕戦を山﨑にとっての「プレシーズン・ゲーム」と考え、2試合目で結果を出すことを求めて、チャンスを与えた。

『お客さん』に戻るのはあり得ない

――「アクティブロスターになった時点で、プラクティスロスターに入ることはなく今日のような未来が来ることも覚悟していました〔原文ママ〕」とツイッターに綴りましたが、そう思った理由はなぜですか?CFLのルール上は、アクティブ・ロースターの選手も、翌週以降にプラクティス・ロースターに降格することは可能です。

山﨑:もちろんルール上は可能ですが、僕のポジションの性質上、試合でダメだったら、プラクティス(・ロースター)に戻って、もう一度やり直せるかと言ったら――これは感覚的なものなのですが――、そんなに甘い世界ではないと思っています。僕ら(日本人選手は)グローバル枠で取られていますが、アクティブ(・ロースター)に入れば、アメリカ人やカナダ人選手と遜色ない目で見られます。そういう目で見られたときに、戦力外として判断されるのであれば、そこからまたプラクティス(・ロースター)に戻って、言い方は悪いですが、『お客さん』に戻るのはあり得ないと感じていました。いっぱしの選手として見られた時点で、いつ解雇されてもおかしくはないと覚悟はしていました。

 開幕戦を29対33で落としたライオンズ。得点差は4点だったが、もしも山﨑が2本のフィールドゴールを失敗していなかったら、勝利できていた計算になる。

 キッカーは「決めればヒーロー。外せば大戦犯」と言われるように、キッカーのパフォーマンスが試合の結果を大きく左右する大切なポジションである。

 山﨑が失敗したフィールドゴールは、1試合目は31ヤードと37ヤード、2試合目は22ヤードと43ヤード。キッカーならば「決めて当たり前」と言われる40ヤード以内のキックを3本も外している。

言い訳を言わない山﨑が明かしてくれた失敗の原因

――2試合が終わった時点で、リーグのキッカーでは最も多い8回のフィールドゴール機会を与えられましたが、4回も失敗してしまいました。失敗した4回は、距離だけ見れば、日本では難なく決めていたような距離でしたが、なぜ4回も失敗してしまったと自分では考えていますか?

山﨑:1試合目と2試合目で状況が大きく違うので、それぞれを分けて説明します。

まず1試合目ですが、自分の中でオペレーションの想定が不足していました。ホルダーとのミスコミュニケーションや、試合の中でどれだけ自分の足をセーブして、どこまで4Qまで同じ力を出し続けられるかという部分での想定が不足していました。試合を通して、そこは学ぶしかないところでもありました。

 僕が外したキックは、たまたま短いヤードでしたが、実際にはどのヤードでも変わらなかったとは思います。長いヤードは修正ができたので、成功しましたが、原因は距離ではなく、別の部分にありました。その辺りはコーチも理解してくれて、1試合目はプレシーズンのような感覚でやって、2試合目でアジャストするようにとも言われました。なので、1試合目が終わった時点で、早々にカットされることはありませんでした。

――ホルダーとのミスコミュニケーションは言葉の面から起こったのか、プレシーズン戦が中止となるなど準備する時間が足りずに起こったのか、どちらですか?

山﨑:アメリカンフットボールとCFLではプレークロックの時間が違い、(XリーグやNFLのでは40秒のプレークロックが)CFLでは20秒しかありません。僕はキックするときのアプローチに入るのに、自分のルーティンが少し長いので、練習のときからその対処法をコーチ陣とは話し合っていました。コーチからは「慌てさすつもりはなく、自分のルーティンは大切に守って欲しい」と言われており、削れる部分は削るようにしました。

 ホルダーがセットをする前に、僕は自分のスポットを固定して、そこに目印を置いて、誰もいない状態でそこからアプローチを取り始め、アプローチを取っている最中にハドルをブレイクして、ラインとホルダーがセットするオペレーションにすることで時間の短縮化を図りました。

 試合で僕が外してしまったキックでは、僕がセットした場所ではないところにホルダーが付いてしまって、それで僕が正しい場所を指示するために動いてしまい、自分の元のセットポイントが分からないままアプローチしてしまい、いつもの動きができないというシンプルなエラーでした。ホルダーの選手にとっても、初めての試合であり、テンパっていた部分もあったとも思います。そういう部分も含めて、コミュニケーションが図れていませんでした。

 練習ではうまくできていても、緊迫したゲームの流れの中で、練習通りにできなかったのは、慣れの不足もありますし、練習からもっと厳密に想定してやっておくべきだったかなと反省もしました。

 「結果が全て」の世界で生きている山﨑は、言い訳がましい言葉は一切口にせずに、失敗の原因も自分の中に閉じ込める。そんな「キック職人」の山﨑にお願いして失敗の原因を明かしてもらうことで、フィールドの外から観ているだけでは分からない部分まで知ることができた。

――2つ目のポイントとして挙げた、試合を通して足をセーブする点ですが、こちらは日本でやっていたときと比べてなにか違いがあるのでしょうか?

山﨑:まずは試合に入る前の練習に関してですが、練習の量が大きく違います。練習の質だけでなく、頻度も多く、日本のXリーグは土、日が活動時間で、平日は個人練習が主でした。CFLはほぼ毎日練習があり、練習の頻度が増えるので、ボリュームを落とそうという方針にして、1日に蹴るボリュームをすごく絞りながら、自分なりに調整していました。そんな中で試合の日だけ、今までと同じボリュームで蹴ると、身体に微妙な変化が出てきます。

 また、CFLの試合ではドライブのテンポがとても早く、攻守交代の切り替えも早いです。僕らキッカーは、自チームのオフェンスが始まると身体を温め、サイドラインでキックを1本蹴って、自分の中の感覚を戻して、そのドライブでのキックに備えます。CFLだと試合中にネットに蹴る回数が増えますし、試合前のウォームアップで蹴る本数を削減するなどしてアジャストしないと、どんどん疲労していってしまいます。そこは日本との違いでした。

 4ダウン制のアメリカンフットボールと異なり、CFLは3ダウン制。パス主体で、得点も多いCFLではキッカーにかかる負担はアメリカンフットボールよりも高い。

 CFLのフィールドはアメリカンフットボールより一回り大きく、日本では経験したことがない角度のキックを蹴る場面もある。

――Xリーグよりもフィールドが一回り大きなCFLで、日本では経験しなかったような角度のキックを蹴る違和感はありましたか?

山﨑:基本的なシチュエーションでは、そこまでの違いを感じることはなかったです。フィールドが広いのは元々分かっていましたので、日本にいるときから想定した練習をしていました。こちらに来て、実際に蹴ってみて、想定よりも普通だなと感じました。

 ただ、僕は試合では機会がなかったので練習だけでしたけど、アメフトではあり得ないような距離でトライしないといけないような状況もCFLにはあるので、そのときに限っていうと、意外と近いけれども難しい角度のキックもあります。角度に関しては、ポジションだけでなく、ランチ・アングル――蹴り出す角度ですね――も考えて蹴る必要があるなと感じました。

日本人初得点が持つ意味とは?

――開幕戦で1本目のフィールドゴールを決めて、日本人選手として初めてCFLで得点を記録しましたが、この快挙は個人的にどのような意味を持ちますか?また、日本アメフト界にとって、どのような意味を持つキックだと考えられますか?

山﨑:自分にとっては、あまり大きなものとは捉えてはいなくて、日本人初のCFL得点も自分の中ではなにも感じるところはありません。ただ、一選手として、デビューした試合の最初のキックを確実に決められたのは、すごく成長できたところだと感じています。自分の傾向として、最初のキックは緊張して、うまく行かないことも多かったのですが、カナダに来て、最初のキックを成功できたことは、すごく成長した感覚があって、素直に喜びたいです。

 日本の皆さんにとってですが、これは(Xリーグのアサヒビールシルバースターの監督で、アナウンサーの)有馬隼人さんが仰っていたことでもあるのですが、日本人がCFLで初得点した事実だけでなく、そこまでに至るプロセスにも意味があると思います。

 フィジカル・コンタクトがないキッカーは日本人にとって勝負しやすいのではないかという話もある中で、逆に得点に絡むポジションである以上、外国から来た未知の選手に任せられるかというところの難しさの方が大きいと僕も感じています。クオーターバックの次に、そういう部分では難しいのではないかと有馬さんも仰っていました。そういうところを乗り越えて、キャンプの中で信頼を獲得して、開幕戦でスターターに繋げられて、そこで試合に出てスコアできたというプロセスに対しても、皆さんに価値を感じて頂けるのではないかなと思います。

 日本人だからという差別や偏見もなく、実力さえ伴っていれば、コーチやチームメイトと信頼関係を築いていけることを理解して頂ければ、僕がやってきたことにも価値があると感じます。

 フィールドに立てば、国籍は関係なく、実力だけで評価される世界を歩んでいる山﨑は、「日本人初」という称号に対して何も感じないと言う。これは一人のフットボール選手にとって正しい姿勢であり、そこに一喜一憂するようでは、世界で戦うことはできない。

 と、同時に日本のファンが応援してくれて、支えてくれていることに対しては、いつも感謝の気持ちを持っており、「日本人初の得点をあげることが出来たことには、素直に誇りを持ちたい」とも試合後のSNSにも綴っている。

 一見すると矛盾するようだが、プロ・キッカーとして、日本人ファンに支えられている選手として、そして日本のアメフト界を代表して世界に挑んでいる選手としてなど多くの顔を持っており、それぞれの顔で異なる気持ちを持ちながらプレーをしている。

解雇にも屈しないキッカーたちの挑戦

 山﨑のCFL挑戦は2試合という短い時間で中断となるが、「これは、僕の人生の終わりでもなければ、僕のアメフト選手としての終わりでもありません。ここで僕は終わりません」と言うように、まだまだ続いていく。

 キッカーの世界では、解雇の挫折を糧に立ち上がり、そこから成功を掴んだ例がごまんとある。

 例えば、ライオンズで2019年に開幕戦キッカーを務めたセルジオ・キャスティロという選手がいる。大学卒業後、NFLドラフトでは指名されずに、新人フリーエージェントとしてアトランタ・ファルコンズのキャンプに参加して、プレシーズンゲームにも出場したが、開幕前に解雇された。アメリカからカナダに渡ってCFLの練習生から正規選手の座を勝ち取ったが、CFLのチームから4回も解雇された。それでも諦めずに挑戦を続け、2020年にはニューヨーク・ジェッツの練習生となり、シーズン中にアクティブ・ロースターに昇格して、試合にも出場。NFL選手となる夢を叶えた。

 また、韓国生まれ、アメリカ育ちのヨンフェ・クは、ドラフト外として入団したロサンゼルス・チャージャーズで、フィールドゴールを6回中3度失敗して、4試合で解雇。マイナーリーグで経験を積みながら、NFL復帰のチャンスを待ち、2019年にファルコンズと契約。2020年シーズンはフィールドゴール33本中32本を成功させて、NFLの得点王に輝き、プロボウルにも選ばれた。

 今回のCFL挑戦で、これまでに見えなかった新たな課題も見つけた山﨑も、さらに良いキッカーとなって、北米のフットボール界に戻ってくるはずだ。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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