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NFL選手を父に持つ米大学超有望株・最速160キロの大型右腕が日本プロ野球入りか?

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
日本プロ野球入りが噂されるクマー・ロッカー(写真提供:バンダービルト大学)

 アメリカの大学野球界で、今季最も注目を集めた選手で、先月行われたMLB新人ドラフトで1巡目全体10位でニューヨーク・メッツから指名を受けたクマー・ロッカーが、日本球界入りするのでは?というニュースが流れている。

 ロッカーとメッツは契約金600万ドル(約6億6000万円)で基本合意していたが、契約最終段階になってメッツが提示を引っ込めてしまった。

 メッツ側はロッカーとの契約を見送った理由を身体検査で右腕に懸念材料が見つかったからと説明。ドラフト前の時点でメッツはロッカーの右腕の状態に関する情報を持っていなかったようで、ドラフト指名後の身体検査で初めて知ったと報じられている。

 メッツは契約金額を下げてロッカーと再交渉することも可能だったが、ロッカー獲得を諦めて、代わりに来年のドラフトで1巡目全体11位指名権を得る方を選んだ。

 ドラフト指名選手は、8月1日(日本時間2日)のアメリカ東海岸時間の午後5時までに契約を結ばないといけなかったが、メッツとロッカーの交渉は破断した。

 ロッカーの代理人を務めるスコット・ボラス氏は「複数の著名な野球整形外科医による医学的検証によれば、クマーは健康である」と主張。ドラフト直前に肩と肘のMRI検査を受けたが、異常はなかったと言う。

元NFL選手の父親譲りの頑丈な身体を誇るロッカー

 クマーの父親のトレイシーは、NFLのワシントン・レッドスキンズ(現ワシントン・フットボールクラブ)でディフェンシブラインとしてプレーした元NFL選手。

 名門のオーバーン大学の4年生時には、ラインマンながらも所属するSEC(サウス・イースト・カンファレンス)の年間最優秀選手に選ばれている。

 強豪大学が多数所属するSECは、カレッジ・フットボール界でトップレベルのカンファレンスで、そのSECの年間最優秀選手に選ばれるのはエリートの証。オーバーン大学の選手としては、NFLとMLBで二刀流選手として活躍したボー・ジャクソンが1985年に選ばれて以来で、ロッカーが選ばれた翌年の89年には後にスーパーボウルを3度制するエミット・スミス(フロリダ大学)が受賞。1997年にはペイトン・マニング(テネシー大学)も同賞に選ばれている。

 トレイシーは大学アメリカン・フットボールの殿堂にも選ばれたほどの名選手であり、現役引退後は母校のオーバーン大学を含む9つの大学、そしてNFLの2チームでコーチを務めている。

 トレイシーは191センチ、131キロの巨体でアメフト選手として活躍したが、息子のクマーも196センチ、111キロとアメフト選手並の巨体の持ち主。子供の頃から身体の大きかったクマーは、少年時代から注目された野球選手で、高校時代には全米代表チームにも選ばれて、清宮幸太郎や安田尚憲が出場したU-18ワールドカップでもプレーして、アメリカの優勝に貢献している。

 高校卒業後はドラフト1巡目の素材と言われたにもかかわらず、投手の育成に定評があるバンダービルド大学への進学を選択。バンダービルド大学では1年生から活躍して、12勝5敗で全米最優秀1年生に選ばれている。プレイオフではノーヒットノーランを達成して、カレッジ・ワールドシリーズでの優勝の立役者となり、カレッジ・ワールドシリーズMVPを獲得した。

 2年生時は新型コロナウイルスの影響でシーズンが中断され5試合しか投げず、3年生の今季は14勝4敗と素晴らしい成績を残したが、スカウトからは球速の低下を指摘されていた。

 今季開幕前にはロッカーはドラフト全体1位の有力候補だったが、球速の低下と代理人のボラスの存在によって株を下げ、メッツが全体10位で指名。全体9位指名権を持っていたロサンゼルス・エンゼルスもロッカーを指名することはできたが、マイアミ大学の右腕、サム・ベックマンを指名した。

ロッカーの行き先は日本球界か?

 ロッカーはバンダービルド大学に戻り、もう1年プレーして、来年のドラフトでプロ入りすることもできるが、代理人のボラスは大学には戻らずに、プロとしての道を進むと明言。その行き先として、日本球界が浮上している。

 ボラスのクライアントであるカーター・スチュワートも、今回のロッカーと全く同じケースで、2018年のドラフト1巡目全体8位でアトランタ・ブレーブスから指名されたが、ケガを理由に契約がまとまらず破断に。翌19年5月に福岡ソフトバンクホークスと契約して、日本球界でプレーしている。

 高卒でドラフトされたスチュワートとは異なり、ロッカーは大学で3年プレーして、より即戦力として期待できる。バンダービルド大学の投手育成能力は非常に高く、ロサンゼルス・ドジャースのデビッド・プライスとウォーカー・ビューラーなどを輩出。今年のドラフトでもロッカーのチームメイトであるジャック・ライターがテキサス・レンジャーズから全体2位指名を受けた。

 スチュワートは1軍に上がるのに3年を要したが、ロッカーは1年目から1軍で活躍できる経験と能力を備えている。

 また、父親のトレイシーは息子の成長を近くで見守りたい気持ちが強く、ロッカーがテネシー州にあるバンダービルド大学に進学を決意する前に、テネシー大学のコーチに就任して、大学でも息子のプレーを見られる準備をしていた。

 クマーが日本のプロ野球でプレーする際には、Xリーグか大学のアメリカン・フットボール・チームがトレイシーにオファーを出せば、経験豊富なトレイシーにコーチとして就任してもらえるかもしれない。

 ロッカーの日本球界入りは、日本の野球界とアメフト界を大きく震撼させる動きになりそうだ。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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