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井上尚弥の師匠と呼ばれた須佐勝明が語る「スーパーフェザー級まで行ってほしい」

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

ボクシング世界4階級制覇や2階級での4団体統一、PFP1位など数々の偉業を達成した井上尚弥(30=大橋)。

今やボクシング界のトップを走る井上が、アマチュア時代「師」と仰いだ天才ボクサーがいる。元ロンドンオリンピック・フライ級日本代表の須佐勝明氏だ。

当時高校生だった井上を知る須佐氏に、過去のエピソードや現在の活躍について話を聞いた。

井上について

ーーー井上選手とは全日本チームで一緒に活動していましたね。

須佐:はい。ロンドン五輪前からなので2011年から2012年の約1年間ぐらいです。

ーーー井上選手の第一印象は。

須佐: 当時、高校生で強い選手がいるというのは聞いていて、存在は知っていました。ただどのぐらい強いかっていうのは見たことがなくて、分からなかったんです。初めて全日本合宿で一緒になった時に「なんだ、こいつは」ってびっくりしましたね。

ーーー当時から驚くほどの実力があったと。

須佐:はい。距離感、スタミナ、パンチ力、スピードと、バランスが良い選手でした。当時は体格が細かったので、これからいろんなボクシングができるんじゃないかなっていうのはありました。

ーーー井上選手とはよくマスボクシングをしていたと聞きました。実際向かい合ってみてどうでしたか。

須佐:ジャブが早くて見えないんです。見えない遠距離で、当たらないであろう距離を当ててくるんですよ。それに一番びっくりしました。

ーーー予備動作がない感じですか。

須佐:予備動作がないですし、ここ当たるのか?っていう距離でもしっかり当ててくるんです。ほとんどの選手は、遠距離になるとパンチは外すんですよ。ピンポイントでは当ててこない。でも尚弥はしっかり当ててきたのでびっくりしました。

ーーーパンチ力はどうでしたか。

須佐:最初からパンチ力はありましたね。アマチュアでもけっこう倒していました。あのパンチ力で連打していたので強かったです。

オリンピックについて

ーーー井上選手がオリンピックに行けなかった、その理由は。

須佐:あまり大きく言えないんですけど、アジアのライトフライ級は強かったんです。世界選手権の一次予選で、ベスト8までに入れば行けたんですが、尚弥はベスト16で、キューバの選手相手に1ポイントか2ポイントで負けたんです。

2次予選もあったんですけど、全部、一次予選で選ばれた選手たちで埋まっちゃって。

その後ライトフライ級のアジア勢が強いということで、どこかの階級の一枠をライトフライ級に持ってきたんです。それでー人行けることに。

尚弥もその枠を狙い、予選に出て決勝まで行ったんです。相手はカザフスタンのビルジャン・ジャキポフで、内容は勝ってるような試合でした。でも相手選手の地元開催というのもあって負けたんです。

ーーー当時は井上選手もオリンピックを目指していましたね。

須佐:オリンピックに行っていたらメダルを獲っていたと思います。当時から勢いがあったので。これからは世界チャンピオンになってめちゃくちゃ防衛していくんだろうなって思っていました。ただ、ここまですごいとは思わなかったです。

ーーー想像できないほどの活躍ぶりですか。

須佐:はい。これだけKOして、一番すごいと思うのはプロになってもアマチュアの時からほとんどやり方を変えていないんです。プロ用に変えたというよりはアマの延長線上でやってるような感覚で、それで倒しているのがすごいです。

総合力の高さ

ーーー当時からすごいところは変わらないんですね。

須佐:例えばですけどジャブの当て勘とか遠距離感とか、六角形のグラフで表すと全部マックスです。

ーーー総合力は高いですね、反射神経もいいとか。

須佐:(相手の攻撃が)当たらないんです。遠いので当たらない、バックステップも上手いです。なのにジャブを当てるってことは、右も自ずと当たってくる。ジャブを当てる距離感でそれも上手いですし、ほんとうに職人みたいですね。距離の職人です。

ーーーパンチ力も強いし、テクニックもあると。

須佐:はい、それに年齢とキャリアで培われた鋼のメンタルもあって、モチベーションがどうのこうのとか言わないですしね。そこも含めてすごいと。

ーーーずっと良いパフォーマンスを出し続けていますね。

須佐:波をあまり見せないのもすごいです。あと私が井上拓真選手を教えていた時、ちょうど尚弥はフルトン戦だったんですよ。ミットを持つ太田トレーナーに対して、しっかりジャブボディから右で打ってたんです。

まさに倒したパンチをやっていて、多分この相手にはこうやるっていうのも頭の中でイメージが出来上がっている。そういう意味でインテリジェンスを持っているんです。ジャブ、当て勘、もらわない距離感、メンタル、インテリジェンス、あとは戦略もいいです。

ーーーフルトン戦でガードを低く下げていましたよね。その練習もしていたんですか。

須佐:遠距離で、見えないパンチで下から上とかフェイントをかけていたのだと思います。フルトンは遠距離でやるのでそこでしっかり戦える基礎を準備して。

井上選手への期待

ーーー1年間同じチームにいて、須佐さんが井上選手に教えたことはありますか。

須佐:バックステップとかガードですね。アマチュアはラウンドが短くてポイントを取りに行かなきゃいけないので前に行くんですけど、もらわずに前に行くっていうところが必要だと思ったので。

ーーーよく井上選手を指導した方々に話を聞くと「教えたことはすぐできるようになる」と聞きますがどうでしたか。

須佐:その通りだと思います。できちゃうんです、スポンジなんですよね。そこも含めて頭が良いんですよ。最近は言葉も上手いんです。普段はちょっと可愛い感じもあって一緒にいる時は子どもみたいに「須佐さーん」って来てくれます。

ーーー今後、井上選手に期待することはありますか。

須佐:そうですね、やっぱり日本人初を総なめにしているので、スーパーバンタム級はもちろん、フェザー級、スーパーフェザー級ぐらいまで。5、6階級ぐらい行ってほしいです。

ーーースーパーフェザー級までいけますか。

須佐:本人が行くのかはわからないですけど、そのぐらいやって欲しいっていうか、夢を見せてもらっているので、このまま勝ち続けてもらいたいです。頑張ってもらいたい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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