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なぜ圧勝が予想されるのか 井上尚弥の驚くべき能力

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
写真提供Fukuda Naoki

13日、ボクシング世界バンタム級4団体統一戦で、3団体統一王者の井上尚弥(29=大橋)と、WBO王者のポール・バトラー(34=イギリス)が対戦する。

4団体統一の難しさ

日本選手として初めて、4団体統一戦に臨む井上。過去にこの統一戦に成功したボクサーはたった8名。達成すれば歴史的快挙となる。

4団体統一戦は、そもそも実現に至るまでが難しい。その理由の一つにプロモーター同士の交渉が挙げられる。

選手をサポートするプロモーション会社は、ボクサー達と契約し、マッチメイクや興行の主催など大きな役割を果たしている。

そのため、異なるプロモーターのもとにいる選手が対戦するとなると、放送局やファイトマネーなどの交渉に時間がかかり、まとまらず、試合が決まらないケースが多い。

また、選手のモチベーションも理由の一つにあげられる。統一戦を望まず、防衛記録を重ねる選手もいれば、階級をあげて複数階級制覇を狙う選手もいる。

統一戦まで辿り着くには、実力はもちろん、これらの問題をクリアしなければならない。

井上の驚くべき能力

井上は3団体統一を達成するまで、WBA王者ジェイミー・マクドネル、IBF王者エマヌエル・ロドリゲス、WBC王者ノニト・ドネアと、王者を一人ずつ倒してきた。

同様に統一を達成した王者は、スーパミドル級で4団体を統一したサウル・アルバレスと、ミドル級で統一したバーナード・ホプキンスのみとなる。

井上はこの偉業にリーチしており、今回のバトラー戦でKO勝利すれば、無敗でなおかつ全試合をKOで勝利してきた、ただ一人の存在となる。

今回の試合、対戦相手であるバトラーと総合力を比較しても、井上の勝利は固いだろう。専門家の多くが井上の圧勝を予想している。

戦績は、バトラーが36戦34勝(15KO)2敗と、キャリアでは上回っているものの、井上は23戦全勝(21KO)で、バンタム級では8戦全勝(7KO)と圧倒的なKO率を誇っている。

武器である強打はもちろんだが、井上と最もスパーリングした経験をもつ元日本ライトフライ&フライ級王者の黒田雅之氏は、

「タイミングがワンテンポ早かったり遅かったりと間をずらしてくる。パッと見ても分からないと思うが、それが当て感になっていてKOに繋がっている」と話し、井上が持つ独特なテンポを評価していた。

私も経験があるが、見えないパンチは効く。ダウンに繋がるパンチは相手が予測できない場合がほとんだ。

井上の場合は、そのタイミングに加えて強打のため、これまで数多くのKOを積み上げてきた。

攻撃だけでなくディフェンスにおいてレベルが高く穴がないボクサーだ。相手からしたら非常に崩すのが難しい。

バトラーからしたら初めから勝負を掛けても倒されるリスクがあり、長丁場を狙っても高い技術を持つ井上に判定で勝つのは難しい。

バトラーの出方次第ではあるが、早期のKO決着もあり得るだろう。

井上の今後

井上はこの試合を最後にバンタム級から卒業し、スーパーバンタム級に転向する予定だ。肉体改造の影響で10キロ近くの減量を強いられており、この階級で戦うのも限界がきているようだ。

試合の前日に行われた計量では、わずか30gではあるが体重超過した。体を見てもこの階級で戦うのはもうギリギリだろう。本来であればすぐにでも階級を上げるべきだろうが、4団体統一の偉業がかかっているため、バンタム級に留まっている。

今回の試合に勝利すれば、次戦でスーパーバンタム級王者達との試合が組まれる可能性がある。WBOは王者が階級を上げると、1位にランクされるため、すぐに指名挑戦権を得られる。

バンタム級ではもう相手になる選手がいない井上にとって、一つ上の階級は未知の世界だ。ライバルとなる相手に出会えるかもしれない。

世界が注目する一戦、ボクシング史に残る歴史的勝利に期待したい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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