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なぜ3階級王者の田中恒成は井岡一翔に勝てなかったのか

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
写真提供全て FUKUDA NAOKI

昨年の大晦日にWBOスーパーフライ級タイトルマッチが行われ、4階級王者の井岡一翔(Ambition=31)が、3階級王者で挑戦者の田中恒成(畑中=25)を8ラウンドTKOで下し2度目の防衛に成功した。

チャレンジャーとチャンピオン

試合では、井岡がジャブを起点にペースを掴み、田中からダウンを奪い快勝した。

今回は試合前から、両者が勝利宣言をしていたのが特徴的だった。

井岡は、「レベルの違い、格の違いを見せたいと思う」と話すのに対し、田中は「キャリア最大の勝負。倒して世代交代したい」と話していた。

田中はチャレンジャーとして試合に向かったが、井岡はチャンピオンとして迎え撃つ姿勢を崩さなかった。

私は田中を何度かインタビューしているが、田中は井岡について特別な感情を持っている。

田中が高校生の時に井岡と手合わせした経験があり、その時は当時世界王者だった井岡に歯が立たなかった。

そこから時は立ち、田中はプロ入りからわずか5戦目で世界王者に輝いた。

階級が近い井岡を意識し始めたのは、その時からだろう。

試合の3週間前にインタビューした時、井岡の印象についてこう語っていた。

「海外に出たりチャレンジしていて好きな選手。かっこいいなと思うし、リスペクトをしている」と話していた。

田中にとって井岡は特別な存在

今回私も現地で試合を観戦していたが、試合直前の田中のある行動が印象的だった。

両者が入場し、リングアナウンサーが井岡の名前をコールした時、田中がグローブの上から拍手をしていた。

これから戦う相手にエールを送っていたのだ。

井岡は田中にとって特別な存在で、昔から目標にしていた選手である。

そんな相手と戦う舞台が楽しみと話していたが、井岡に敬意を払いすぎている印象だった。

私もリングに立つ経験があったが、戦う相手に対して、そんな感情を持ったことはない。

対する井岡は「今回の試合は格の違いを見せる」とあくまで上から目線を貫いた。

その言葉通り井岡は、自分のペースを貫き、田中を圧倒しKOで決着をつけた。

日本のボクシング界を牽引してきた井岡が、経験とプライドで田中をねじ伏せた。

「世界戦は技術がないとダメだが、気持ちが大きい」と話した田中だったが、その言葉通り気持ちの面で井岡にペースを握られた。

田中はこの舞台をゴールにしていたのに対し、井岡はその先を見据えて通過点と考えていた。

その気持ちの差が、試合に影響したと言っても過言ではない。

世代交代を口にしてきた田中だが、井岡の壁は高かった。

今後の田中恒成に期待

井岡は試合後に田中との戦いについてこう振り返った。

「強かった。スピードも速かったし、パンチ力もあった。上下の打ち分けや、コンビネーションもうまい。全体的にレベルの高い、バランスのとれた選手だった」

今回は井岡が勝利したが、決して田中の評価が落ちたわけではない。

悔しい敗戦となったが、自分がリスペクトする相手との対戦は貴重な経験となっただろう。

試合後に田中は自身のSNSを更新した。

負けが選手を成長させる。

まだまだ若いしこれからがある選手なので、今回の敗戦を糧にして再起してほしい。

井岡と戦った8ラウンドは、今後のボクシングキャリアに役立つだろう。

井岡も負けから学び、ここまでのキャリアを築いてきた。

「先輩がいたから上のステージを見られる様になった」そう話した田中だが、4階級制覇の先にある世界を目指してほしい。

今後のボクシング界を牽引する存在になることに期待したい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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