ボクシング世界1位の大沢宏晋 初の世界挑戦は緊張で「吐き気が止まらなくなった」
新型コロナウィルスの影響で中断している、ボクシング興行の再開が待たれる中、世界挑戦を心待ちにするボクサーがいる。
WBA世界フェザー級1位大沢宏晋(35=オール)だ。
大沢は2016年、ボクシングの聖地ラスベガスで、WBO世界フェザー級王者オスカル・バルデス(メキシコ)と対戦したが、7ラウンドTKO負けを喫した。
一時は引退も考えたが、現役続行を決意。現在、世界ランキング1位となり、2度目の世界挑戦も近い。
トレーニングに励む大沢に、次戦への意気込みを聞いた。
コロナの影響
ーーー新型コロナウィルスの影響はどうですか。
大沢:今は人気のない早朝5、6時にトレーニングして、トレーナーと近くの公園でミット打ちをしています。
ーーー現在世界ランキング1位ですね、次の試合の予定はありますか。
大沢:WBA2位の選手と指名挑戦者決定戦の話が出ていました。6月には中国の選手と試合の話も出ていました。
しかし、チャンピオンが統一戦を望んでいるなど、話が二転三転していて、今はまだ分かりませんね。
ーーーまだ見通しが立たない状況ですが、早く試合がしたいという気持ちはありますか。
大沢:もちろんです。今は前だけ向いて準備していきます。
ラスベガスの舞台
ーーー前回、2016年の世界挑戦から変化はありましたか。
大沢:眠っていた感覚、体の回転力やキレが戻ってきました。今は充実したトレーニングができています。
ーーーアメリカでの世界戦はどうでしたか。
大沢:できる限り本調子に仕上げたのですが、一番大切な「食事」で苦戦してしまいました。
アメリカの食べ物は日本と違ってカロリーも多く、質も違うので、それも含めて自分の調整不足でした。
ーーー前回の反省も活かし、今は調整方法も工夫しているようですね。
大沢:はい。試合に向けて100%の力を発揮できるように、食事は管理栄養士の方にお願いしています。
恐怖心
ーーーボクシングの聖地と言われるラスベガスの舞台で戦いましたが、試合が決まった時はどうでしたか。
大沢:小学生の時にテレビで観ていた憧れの舞台に、自分が立つのだと考えたら吐き気が止まらなくなりました。
ーーーえ、吐き気ですか(笑)それは緊張で。
大沢:はい。いつも「試合が決まった」と言われた日からナーバスになります。
ーーー試合直前はどうですか。
大沢:精神が、極限まで落ちてますね。
弱気な自分がいて、試合をする恐怖心があるのです。「逃げたらあかん」「逃げたらあかん」って、トイレでうわーって号泣するぐらい。
ーーー少し意外です。大沢選手はプロでは、45戦されていますが、試合前は毎回そのようになりますか。
大沢:ほとんどの試合がそうですね。
ーーー相手がそんなに強くない選手でも。
大沢:なります。油断大敵ですから、常に緊張感をもっています。
ーーー試合後はどうですか。
大沢:退場する時に、リングを振り返ってみて「あれ、俺ここで試合してたんだっけ?」と記憶がなくなるタイプですね。
ーーーそれほどの恐怖心と戦いながら、なぜリングに立ち続けるのですか。
大沢:自分が生まれてきた証を残したいのです。
僕にとってボクシングのリングは自分の存在を証明できる場所ですから。
忘れ物を取りに行く
ーーー今後の目標について聞かせてください。
大沢:ボクシングを始めた時から世界チャンピオンを目指しています。まずは、ラスベガスの忘れ物を取り戻しに行きたいですね。
ーーー期待しています。最後に、ファンの方に伝えたいメッセージはありますか。
大沢:世界チャンピオンになることで、今まで支えてくれた皆さんに恩返ししたいと思っています。どうか長い目で見て待っていてください。
リング上では気丈に見えるボクサーでも、周囲からの期待、プレッシャー、怪我のリスク、そして最悪、死へのリスク。その全てを背負って戦っている。
平常心でいることの方が難しい。プロとして45戦リングに上がり続けた大沢でさえ、未だに「恐怖心」が消えることはない。
ボクシングを見るのであれば、選手たちの「背負っているもの」、「戦う理由」に注目してほしい。
1戦1戦に重みがあるからこそ、ボクシングは魅力的なのだ。
大沢宏晋(おおさわ・ひろしげ)
1985年生まれ。大阪府大阪市出身。
ALL BOXING GYM所属。
大阪市内の養護施設にヘルパーとして勤務しながら選手活動をしており、
ファイトマネーはデビュー戦以来、大阪市、身体知的障害者団体等に全額寄付している。
戦績は45戦36勝21KO5敗4引き分け