究極の裏方ニック永末 トップボクサーの拳を守るバンテージ職人とは

写真 全てスタッフ撮影

ボクサーの拳を守る役目がある「バンテージ」

ボクサーにとっては不可欠な存在だ。そんな、バンテージの巻き方を追求してきた日本人がいる。

バンテージ職人の永末貴之(通称ニック)だ。

彼は、井上尚弥(26=大橋)、那須川天心(21=TEPPEN GYM)、田中恒成(24=畑中)など、日本を代表する選手のバンテージを担当している。

ニック氏に巻かれると拳を怪我しない、強いパンチが打てるなど、口コミが広まりボクシング界では知る人ぞ知る存在だ。

以前から気になっていた、ニック氏にインタビューを試みた。

肉ばかり食べてたらニックに

ーーーさっそくお話を聞いて行きたいのですが、まず永末貴之さんの愛称「ニック」というのは?

ニック:体重を増やそうと肉ばかり食べていたら、最初に働いていた格闘技ジムの社長に「肉ばかり食べているな」と言われて、そこからニックという名前がつきました。

ーーーなるほど。それは意外でした。以前は格闘技ジムのトレーナーだったのですね。

ニック:はい。スポーツクラブでアルバイトをしていて、パーソナルトレーナーの契約から格闘技のジムに携わるようになりました。

ーーーもともと格闘技が、好きだったのですか?

ニック:どちらかというとボクシングが好きでした。特に辰吉丈一郎さん(元WBC世界バンタム級王者)が。

ーーー辰吉世代なんですね。では何故ボクシングのジムではなく格闘技のジムに行ったのですか?

ニック:趣味は取っておきたかったからです。趣味を仕事にすると楽しめなくなるので、ボクシングジムは考えていませんでした。

ーーー大体何年ぐらい格闘技のジムにいたのですか?

ニック:22歳ぐらいからだったので16~17年ですかね。

ーーーそこからボクシングジムで、トレーナーをはじめたのはいつ頃ですか?

ニック:REBOOTジム代表の射場哲也さんが三迫ジムにいた時に、日本チャンピオンの戸部洋平選手のトレーニングを見てくれという依頼がありました。そこからですね。

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バンテージ職人になったきっかけ

ーーーニックさんがバンデージ職人になったきっかけはなんですか?

ニック:当時、総合格闘技のバンデージチェックをやっていて、日本人選手のバンデージに不安を感じていました。

あとは、ジェイコブ・スティッチ・デュランがカットマンとして来たとき、レフリー、ジャッジ向けに講義をしてくれたのです。

彼の技術を見て驚きました。日本とは全然違っていました。

ーーーどう違うのですか?

ニック:包帯とテーピングの特性を分かって巻いているので「フィット感」が違いました。

ーーー海外にはバンテージのスペシャリストがいるのですか?

ニック:「カットマン」が巻いていると思います。何回かアメリカへ行ったときも、選手がカットマンを連れて来ていて彼らが巻いていました。

ーーー専門の方が巻くのですね。

ニック:そうです。

私は専門学校でもテーピングをやっていたので、その知識を活かして自分なりに改良したものを作ってみようと思って始めました。

同じ巻き方はしない

ーーーバンテージ職人として活動をはじめて、何年目ですか?

ニック:料金をいただくようになってから14、15年です。

ーーー結構経ちますね。以前、ニックさんは包帯に推定300万円ぐらい使った、という話を聞いたことがあります。

ニック:そうですね。世界中からネットで調べて包帯もテーピングもどんどん取り寄せたので、もっとかかっているかもしれません。

ーーー包帯も開発されて進化しているのですか?

ニック:進化というか、逆に海外の雑さがフィットしたりします。

日本のベーシックで使われている包帯がありますが、あれの良いところもあるのです。どんな目的で何を使うのかということですね。

ーーー包帯や巻き方も格闘技、ボクシングによって違いますか?

ニック:人によって打ち方で全て変えています。左右を変えたり、ナックル返す、返さない、フックも打ち方、その様な視点から変えています。

ーーー例えば、いきなり選手に「明日試合なので巻いてください」と言われて巻くのは難しいですか?

ニック:映像を見せてもらえれば問題ありません。ただ、試合前に1回は巻きたいなとは思います。

ーーー一緒に作り上げていく感じですね。

ニック:はい。試合のプランもあるので、外から攻める、ボディで倒すとか、それで少し変えています。

ーーーなるほど。

ニック:ベーシックな巻き方があって、そこから少しずつその人に合わせて作っていきます。

ーーー片方で最低2本は必要だと聞いたのですが。

ニック:1本半から2本ですね。その包帯にもよりますが、重さを気にする選手もいるので状況に合わせています。

ーーー巻く時はテーピングと包帯どちらを重視するのですか?

ニック:まちまちですね。テーピングでも固定力の強いもの、弱いもの、軽いもの、重いものとあるので選手によって変えています。

包帯もいろいろあるので、選手とプランによって全部変えています。

本気の裏方がいないと選手は育たない

ーーーボクシングの試合で包帯の規定など決まっているのですか?

ニック:ルール的には双方の合意があれば問題ありません。一応規定に書いてありますが、日本はある程度は何を使ってもオーケーです。

ーーーなるほど。テーピングにも規定がありますか?

ニック:それも許可があれば大丈夫です。

ーーー日本だとバンデージに対する誤解みたいなものはありますか?

ニック:ルールを把握していないのかな、と思う時があります。海外、世界戦は何を使っても大丈夫な場合が多いです。

インスペクター(検査員)によっては「これは駄目」と言う人もいますが、基本的にグローブに入ればオーケー。

あとは「ここまではテーピングNG」という時もあります。何を使うかというのは、チェックして見せれば大体フリーですね。

ーーーなるほど。恥ずかしながら私も詳細な規約を理解していませんでした。現役の選手にも正しく理解している選手は少ないと思います。

ニックさんは独学と言っていましたが師匠の様な方はいるのですか?

ニック:いません。自分で考えて、より良いものが作れるという確信があったので、聞くことはまずないです。

ーーー海外ではバンデージ職人として生計を立てている人もいるのでしょうか。

ニック:そこまでは分かりませんが、トレーナーを兼任している人が多いと思います。

ーーーSNSでも「それを職業にできる人を増やしたい」という話をされていましたね。ニックさんはそうなりつつありますか?

ニック:まだそれだけでは生活できません。ただ、本気の裏方がいないと本気の選手は育たないと思っています。

例えばボランティアのトレーナーが、巻きますといっても、責任感ないですよね?

ーーーはい。

ニック:その人が風邪で休むと言ったら簡単に休めてしまうし、選手は文句を言えない。

それがきちんと職業にならないと、今後、ボクシングは成長していきません。

ミットを持つのもプロ、バンデージ巻くのもプロ、プロをきちんと育成していかないと良い選手は育たないと思います。

ーーーそうですよね。

ニック:それに対して選手も投資をしていくべきですし、自分達も技術を学んだり、新しい技術をつくるのに投資をしていかないといけません。

ーーーそれがうまくいけば双方良くなりますね。

ニック:日本人の考えでは「タダだから」という考えを持っている方が多いのですが、タダはしょせんタダなのです。

やはり一流には一流を付けないといけません。一流の裏方を育てるためにも、裏方がもっとフィーチャーされていかなければいけないと思っています。

話を聞いてニック氏のプロフェショナルとしての意識の高さを感じた。

ボクシングや格闘技に掛ける情熱が、選手にも伝わり伝染して欲しい。

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