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モンスター井上尚弥 圧勝できる3つのケタ違い能力

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
(写真:ロイター/アフロ)

WBA世界バンタム級王者の井上尚弥はワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)の準決勝で、IBF王者エマヌエル・ロドリゲスから3度のダウンを奪い、2RKOで圧勝した。決勝は5階級王者のノニト・ドネア(36=フィリピン)と対戦する。

井上尚弥の強さについて、3つのポイントで解説する。 

1 KOパターンをいくつも持っている

今回は、井上自身、対戦相手のロドリゲスを「対戦したボクサーの中で一番」と評価し、警戒していた。

しかし、実際の試合では、無敗王者を僅か259秒で粉砕した。

井上の優れている点は、その階級を超えた「パンチ力」にある。一説には、4階級上のライト級でも通じるほどの威力を持つと言われている。

中でも特徴的なのは、武器となる強力なパンチをいくつも持っている事だ。

通常のボクサーは、KOに結びつけるパンチは限られてくる。そのため、大体KOのパターンも決まってくる。

一方井上の場合、ボディ、フック、ストレートとKOに繋がるパンチのバリエーションが豊富だ。

全てのパンチが総じて強く、どのパンチでも倒す事ができる。そのため対戦相手は、全部のパンチを警戒しなければならない。

相手にとったら、何がきても強いので、ディフェンスに気を取られてしまう。今回の試合でも井上がダウンを奪ってからは、一方的な展開になった。

KOパターンをいくつも持てるのは、強い。

2 頭脳戦にも長けている

今回驚いたのは、1度目のダウンを奪った後の攻撃だ。右パンチの返しからの左フックで、ロドリゲスは腰から崩れた。

ロドリゲスもなんとか立ち上がり、まだこの時点では、戦う目をしていた。しかし、その後の井上が出したパンチで試合が決まった。

井上は、ロドリゲスに向かっていき、ボディに狙いを定めて、パンチを放った。

ロドリゲスは想定していなかったパンチをもらい、2度目のダウンとなった。

並のボクサーの心情なら、顔でダウンを奪ったので、試合を決めようと顔面にパンチをまとめる。

しかし、井上は相手の心を折るために、ボディにパンチを打った。ロドリゲスは、苦しい表情でセコンドを見て顔を振っていた。この時点で、戦意喪失したのだろう。

顔面へのダメージとボディへのダメージは大きく違う。試合では、アドレナリンが出ているため顔の場合は、あまり痛みを感じない。

パンチをもらった感覚はあるが、我慢できるのだ。しかし、ボディ打ちはそうはいかない。ボディへのパンチは地獄の苦しみとなる。

特に急所となる、みぞおちと、レバーは効く。いいタイミングで入ると呼吸ができなくなり、悶絶するような痛みが走る。

ロドリゲスの想定外のパンチをもろに喰らった、苦しみの表情も納得できる。

井上は相手の裏をかくような、

頭脳戦にも長けている。

3 防御のレベルも非常に高い

井上の場合、攻撃に焦点が当てられる事が多いが、ディフェンス面も優れている。

井上は非常に目がよく、まともにパンチをもらった試しがない。ダウン経験も無く、パンチをもらわないスタイルで勝ち続けてきた。

素早いフットワークで相手の攻撃を外し、鋭いステップインで攻撃に移れる。攻防一体で、完成されたボクシングスタイルだ。

ボクシングは、攻防の競技だ。どんなに攻撃力があろうと、打たれ強さは鍛えられない。

打たれ強いボクサーでも、ダウンやKO負けをきっかけに脆くなる選手を何人も見てきた。

派手な打ち合いは盛り上がるが、パンチをもらわない事に越したことはない。

長く活躍していくためにも、もらわない技術は不可欠だ。井上は、

防御のレベルも高く総合力がずば抜けている。

弱点が見つからず、相手に付け入る隙はないだろう。

全階級を通じてもトップクラス

海外メディアでは、「井上尚弥はパウンド・フォー・パウンドランキング(全階級を通じて最も強い)でトップ3に入る実力を持ち合わせている」との声が上がっている。

主要4団体、17階級のファイターの中で、トップ3に挙げられのは、

ライト級王者 ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、

ウェルター級 王者テレンス・クロフォード(アメリカ)、

ミドル級王者 サウル・アルバレス(メキシコ)だ。

井上は、この3選手に肩を並べてもおかしくない存在だ。評価が高いチャンピオンを相手に、圧倒的な強さを見せつけてきた。

今のバンタム級に、井上の勢いを止められる選手を見つけるのは難しい。

過去の伝説的なファイター達には、ライバルの存在があった。メイウェザーパッキャオレナードハーンズ、など。

現在のヘビー級であったら、アンソニー・ジョシュア、とデオンテイ・ワイルダータイソン・フューリーなど、

ライバルがいることで、その階級が活性化する。

井上の場合は、強過ぎるが故に、対抗する相手が見つからないのが、悩ましいところだ。

次の試合では、フィリピンの5階級王者ノニトドネアとの決勝戦が決まっている。

まずはその試合に集中して、次なるステージに進んで欲しい。井上尚弥という存在を、世界中に知らしめてほしい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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