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アマ日本一を決める全日本選手権 BSで生放送、ゲストは井上尚弥の豪華さ

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
前回のリオオリンピックでのボクシング競技(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 アマチュアボクシングの頂点を決める全日本ボクシング選手権が11月18日(日) に茨城県の県立水戸桜ノ牧高校常北校で行われる。東京オリンピックの代表権を賭けて8階級の選手が対決する。今年は、全階級が生中継で放送される(11月18日(日) 午前11:00〜NHKBS1)以前はダイジェストでの録画放送のみだった全日本選手権だが、今年は生放送で行われるとあって選手のモチベーションも高まるだろう。そして、ゲストには、WBA世界バンタム級王者・井上尚弥選手が出演する。以前では考えられなかったプロの現役王者のゲスト出演とあって、プロアマ問題が長引く時代から大きな試みと言える。今年の夏に大きな話題となったアマチュアボクシングだが、会長が変わり新しい体制がスタートした。

アマチュアボクシングで一番大きな大会

 この大会には私自身も学生時代に3度出場した。アマチュアボクシングは高校生の少年と大学生以上の成年に分けられる。私は大学の一年生の時に優勝した経験を持つが、その後はライバルに勝つことができずオリンピック出場の夢も絶たれた。今回の大会では私の母校の選手も出場している。ミドル級の森脇唯人は法政大学の後輩にあたり、バンタム級の堤駿斗は習志野高校の後輩にあたる。二人とも去年の全日本選手権で優勝しており今回は連覇がかかり注目されている。(残念ながら堤は1回戦で右手を骨折してしまい棄権となった)今年はアマチュアボクシングが大きな転換点を迎えることになった。世間を騒がした日本ボクシング連盟のアマチュアボクシング問題は予想以上にマスコミに取り上げられた。一般の人にも強く印象に大きな話題となった。

アマチュアとプロの違い

 そもそもボクシングというとプロの世界に注目が集まるが、アマチュアとプロはルールが大きく違う。アマチュアとプロの一番の大きな違いは試合時間である。プロの世界はタイトル戦となると3分12ラウンドで戦う。それに対してアマチュアボクシングは3分3ラウンドだ。プロに比べて競技時間が圧倒的に短い。そのため展開が非常にスピーディーで攻防の切り替わりが激しい。中身が濃くて目が離せないのだ。また、試合に使うグローブもプロとは違い相手を効かせることができない。そのためプロのようにKO勝ちが少なく、ほとんどの試合が判定で決着が着く。またトーナメントになると試合が連日行われ毎日計量がある。私の時もそうだったが連戦が続くため毎日が減量との戦いだ。試合が終わった直後に減量着を着用して縄跳びを飛んで汗を出していた。プロは1回計量をクリアしてしまえばいくらでも体重を増やせるが、アマは翌日の朝に毎回計量があるため体重を調整しなければならない。プロ以上に体重調整が非常に難しいのである。

プロボクサーでもトップアマに勝つのは難しい

 プロとアマと言うとプロの方が優れていると思われがちだが、必ずともそうとは言い切れない。私もアマ時代に何人ものプロの現役世界王者とスパーリング(実戦練習)を行った。短いラウンドだと大学生だった私でも互角以上に戦える。プロは長丁場に対してアマは短い。マラソンと短距離走ぐらいの競技性の違いがある。そのため短いラウンドに慣れているアマ選手はプロよりも優位に戦える。私が所属していたジムにも大学生がスパーリングに来ていたが、トップアマになるとプロの日本ランカークラスでは相手にならないことも多い。短いラウンドだとアマの方が優位に戦えるのだ。東京五輪ではプロも解禁される予定だが、必ずしもプロの選手が勝ち進めるとは限らない。チャンピオンクラスでもトップアマに勝つのは相当ハードルが高い。

プロの選手がアマチュアのゲスト出演するのは異例

 プロボクシングとアマチュアボクシングには大きな壁がある。選手の引き抜きなどの問題でアマチュア側がプロとの交流を禁止していた。有望な選手がどんどんプロに転向していくため選手が育たないのだ。そんな事もあり長らく鎖国状態となっていた。そんな歴史があるだけに今回の井上の抜擢は大きい。プロのトップクラスのチャンピオンがゲスト出演するのは異例でもありインパクトもデカイ。私が学生時代の時などはプロのジムで練習をするのもタブーとされていた。新しい体制になりどんどん新しい取り組みもスタートしている。選手ファーストで競技が盛り上がり活躍の場を広げてほしい。

2020年の東京五輪に向けて

 今回の全日本選手権はオリンピック選考の大きな柱となる。この試合に勝つか負けるかで選手生命が大きく変わってくるだろう。まだボクシング競技はオリンピックの正式種目にはなっていない。12月のIOC理事会(東京)で今後の措置が協議される予定という。オリンピック競技から除外されてしまったらプロアマ総じて大打撃になる。今の選手達が出場できれば、複数階級でのメダル獲得も夢ではない。それほどいい逸材が揃っていてレベルが高い。そうならないためにも現在は署名活動などを通じて協力していきたいと思う。何にせよ今回の結果が今後の選手の運命に大きく左右するので注目の試合だ。非常にレベルが高いので生放送の試合をぜひ観ていただきたい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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