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英国のウクライナ避難民1万5000人がホームレス支援申請

木村正人在英国際ジャーナリスト
ロンドンのウクライナ・カトリック教会で英語の勉強をする避難民(筆者撮影)

■一時宿泊施設にいる人数は24%増

[ロンドン発]1月時点で子どものいるウクライナ避難民6040世帯(1万2000人以上)と単身者3000人が英国の地方自治体にホームレス支援を申請していることが平準化・住宅・コミュニティー省の統計で分かった。英紙デーリー・テレグラフ(2月23日付)が報じた。

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、25万人のウクライナ人が戦火を逃れて英国に渡った。計1万5000人はその6%。17人に1人が英国政府の受け入れ制度ホームズ・フォー・ウクライナのスポンサー家族との関係が破綻したり、終了したりしてホームレスになっている。

英国の地方自治協会によると、ウクライナ避難民が年に4500人の割合でホームレスとして一時宿泊施設に収容されているのはスポンサー家族との取り決めが破綻したのが主な原因だ。一時宿泊施設にいる人数は昨年の660人から今年は820人に24%増加している。

■世間の善意はいつまでもあてにできない

2年間で計9000人のうち約6000人はホームレスになるのを防げたか、地元自治体に保護された。戦火を逃れて英国にやって来た25万人のうちホームズ・フォー・ウクライナを利用したのは14万1200人。英国にいる家族の受け入れと違って、世間の善意はいつまでもあてにできない。

ホームズ・フォー・ウクライナではスポンサー家族は最低半年の受け入れを約束しなければならず、政府に対して最初の1年間は月350ポンド、2年目、3年目は500ポンドを請求できる。地元自治体には避難民1人につき1万500ポンドが支給されていたが、5900ポンドに減額された。

ウクライナ戦争の出口は見えない
ウクライナ戦争の出口は見えない写真:ロイター/アフロ

避難民には最長3年間の滞在ビザが発給され、最初に英国に到着した人のビザは来年3月には失効する。ビザの滞在期間が残っていないことを理由に雇い主や教育機関から拒否された人もいる。英国で暮らす期間が長くなれば、今後、子どもの教育のため定住するケースも増える。

■スポンサー家族との関係が破綻するリスク

ウクライナ人とスポンサー家族の関係が破綻するリスクもある。政府は当初スポンサーシップの半分が崩壊すると想定していた。地方自治協会の報告では昨年8月時点でイングランドのウクライナ避難民4890世帯がホームレスになったか、56日以内にそうなる恐れがあった。

昨年に入ってイングランドでは600~800世帯が一時宿泊施設で暮らしている。しかしこのうち何世帯がホームズ・フォー・ウクライナの利用者なのか政府は正確な実態を把握していない。これではウクライナ避難民のホームレス化を防ぐために有効な手を打つことはできない。

滞在ビザの申請にかかる期間も長い。22年3月時点で2万6000件あった申請のうち5日以内に処理されたのはわずか18%。15日以上かかったのは21%だった。同年6月時点では15日以上要したのは実に63%に達していた。

■52%はウクライナに戻っても安全と感じても英国に住み続けたい

英国家統計局によると、昨年4~5月にかけ、在英ウクライナ人の52%がウクライナに戻っても安全だと感じても英国に住み続けたいと答えた。住む場所が決まっていない人(19%)の最も多い理由は英国に滞在するためのビザがはっきりしないことだった。

戦争で家が破壊され、滞在ビザの期限が切れてもウクライナに戻れない人もいた。2月18日、英国政府は滞在ビザの期間を18カ月延長し、少なくとも26年9月まで英国に滞在できるようにした。しかし戦争の長期化で英国に定住する避難民が増えるとウクライナの復興にも影響する。

報告書をまとめた下院決算委員会のメグ・ヒリアー委員長は「戦争が続く中、昨年何千ものウクライナ避難民世帯がホームレスになったか、それに近い状態に陥った。政府は英国に安全を求めた人々を支援する計画を確実に立てなければならない」という。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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