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「ウクライナに侵攻したロシア大隊戦術群25%が損傷。立て直しに数年。戦略と作戦遂行の失敗」英国防情報

木村正人在英国際ジャーナリスト
ウクライナ軍に捕獲されたロシア軍の戦車(写真:ロイター/アフロ)

■「数の優位」活かせず

[ロンドン発]英国防省の情報機関、国防情報参謀部は2日、ロシア軍はウクライナ侵攻に全陸上戦力の65%に当たる120個の大隊戦術群(BTG)を投入、このうち4分の1以上が役に立たなくなった可能性があると発表した。VDV空挺部隊など最精鋭部隊も大きな損害を出している。ロシア軍は陸上戦力を立て直すのに数年かかるとみられるという。

3日の発表では、ロシア政府は2005年から18年にかけ、ハイエンドの陸海空能力を向上させる国防予算をほぼ倍増させた。グルジア(現ジョージア)紛争などを教訓に08年から軍の近代化計画「新たな姿(ニュールック)」を推進した。しかし装備を近代化するだけではウクライナ軍を圧倒できなかった。

今回、戦略の策定と作戦の遂行の失敗によりロシア軍は「数の優位」を活かせなかった。ロシア軍はウクライナ侵攻で装備面でもイメージとしても著しく弱体化している。立て直そうとしても経済制裁によって難航する。通常兵力を国外展開するロシア軍の能力に長期的な影響を与えるだろう――と英国防情報参謀部は分析している。

■米国防総省高官「ゲラシモフ参謀総長の負傷、否定も確認もできず」

英国防情報参謀部の分析ではロシア軍は「184個」のBTGを持っている計算になるが、セルゲイ・ショイグ露国防相は「168個」と発表している。一方、米国防総省高官は2日「ウクライナでは現在93個のBTGが“運用可能”と評価している。しかし装備や人員の面で損失が続いており、すべてのBTGの戦闘準備が整っているわけではない」とだけ述べた。

また、この高官はロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長がウクライナ東部の要衝イジュームで負傷したとの情報について「確認できるのは彼が先週数日間、東部ドンバスにいたことだけだ。彼がまだそこに残っているとは思わない。しかし負傷情報については否定も確認もできる立場にない」と述べるにとどめた。

■ジョンソン英首相はウクライナ最高議会でビデオ演説

ボリス・ジョンソン英首相は3日、ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって以来、世界の指導者として初めてウクライナ最高議会ヴェルホーヴナ・ラーダでビデオ演説する。合わせてキーウの大使館も再開する。電子戦装置、レーダーシステム、GPS(全地球測位システム)妨害装置、暗視装置など3億ポンド(約490億円)相当の新たな軍事支援策を打ち出す。

ジョンソン氏は「わが祖国が第二次大戦で侵略の危機に直面した時、ウクライナと同じように戦争中も議会は開かれた。イギリス国民は結束と決意を示した。われわれは最大の危機を最良の時として記憶している。いまがウクライナの最良の時であり、何世代にもわたって記憶され、語り継がれるであろう、あなたの国の物語における壮大な一章だ」と呼びかける。

「あなた方の子供や孫たちは“ウクライナ人が、侵略者の強大な力は自由になろうと決意した人々の道徳的な力に対しては何の価値もないことを世界に教えてくれた”と言うだろう。イギリスがウクライナの友人であることを誇りに思う」とも表明する。

ジョンソン氏は4月9日、ウクライナ国民との「連帯の証」としてキーウを電撃訪問した。その際も「ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の断固たるリーダーシップと、ウクライナ国民の無敵のヒロイズムと勇気」を称賛している。ジョンソン氏にはアメリカとスクラムを組んでウクライナを軍事、経済両面で支援する有志連合を構築する狙いがある。

■グローバルな同盟呼びかけるイギリス

一方、リズ・トラス英外相は4月27日「地政学の復活」と題して演説し「ウクライナでの戦争は私たちの戦争だ。ウクライナの勝利は私たち全員にとって戦略上不可欠だ」と指摘した。

「制裁によって、ロシアはすでに100年ぶりの対外債務不履行に直面している。プーチン氏が戦争資金を調達する場所をなくさなければならない。原油と天然ガスの輸入をきっぱり断つことだ」とグローバルな同盟、北大西洋条約機構(NATO)は世界的な視野を持ち、世界的な脅威に対処できるようにしなければならないとグローバルなNATOを呼びかけた。

英政府は「スターストリーク」対空ミサイル、対戦車ミサイルの「ジャベリン」や「NLAW」、陸上用の高性能ミサイル「ブリムストーン」と防空車両「ストーマー」をはじめ、孤立した部隊を後方支援するためのUAVシステム、ウクライナ東部の民間人保護と前線地域からの民間人避難を支援するための特殊なランドクルーザーをウクライナに供与する。

コロナ規制で厳格な接触制限を有権者に強いながら、自らの誕生会を首相官邸で開き罰金を科せられるなどの不祥事で支持率が低迷するジョンソン氏は5月5日投票の統一地方選を控え、世論調査で最大野党・労働党に最大11ポイントのリードを許している。ウクライナ戦争を支持率回復のために使っているとの批判も根強い。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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