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「英で最も嫌われ、軽蔑され、嘲笑されている人物」世界中の物笑いになったジョンソン首相

木村正人在英国際ジャーナリスト
世界中の物笑いになるボリス・ジョンソン英首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

[ロンドン発]約13万人のロシア軍がウクライナ国境に展開し、緊張が頂点に達する中、ロックダウン(都市封鎖)最中の飲み会や誕生日会疑惑(パーティーゲート)で窮地に立たされるボリス・ジョンソン英首相が世界中の物笑いになっている。

パーティーゲートの追及をかわすためウクライナ外交に転じたジョンソン首相。2月1日、キエフでの記者会見では「イギリス国内で大変な騒ぎになり、ウラジーミル・プーチン露大統領との電話会談をキャンセルして自国の下院議員への対応に追われているのに、どうして国際社会があなたの外交を真剣に受け止めなければならないのか」との質問が飛び出した。

ロシアのテレビ局はジョンソン首相を「イギリスで最も嫌われ、軽蔑され、嘲笑されている人物だ」「(首相側近だったドミニク・カミングズ元首席顧問は)ジョンソン首相は若妻キャリーに完全に支配され、かかとの下に置かれているが、同時にローマ皇帝と同じように大きな野心を持っていると語っている」と紹介した。

2020年6月、キャリーさんの企画で英国旗ユニオンジャックをあしらったケーキを用意して首相官邸でジョンソン首相の誕生日会が開かれたことについて、首相側近の北アイルランド担当相は「ジョンソン首相はスタッフが執務室に入ってきて誕生ケーキをプレゼントする前に、仕事をしていたと聞いた。彼はある意味、ケーキに待ち伏せされただけだ」と擁護した。

1日「大統領はケーキに待ち伏せされたことはあるか」と質問されたジョー・バイデン米大統領のジェン・サキ報道官は「バイデン氏はケーキに待ち伏せされたことは一度もない」と吹き出すように答えた。

2月中旬にジョンソン首相の訪日と日英首脳会談の準備が進められていたものの、イギリス側から来日中止の申し出があったと報じられている。英国内では5歳の子供にまで「ジョンソン首相は悪い子なので、悪い子センターに行かなければならない」と諭される始末だ。

市民には厳格なロックダウンを強いながらジョンソン首相をはじめ首相官邸や官庁街で大規模な飲み会を平然と続けていた疑惑ではロンドン警視庁もコロナ規制法違反がなかったか捜査に乗り出している。

内部調査の結果をまとめた報告書が1月31日に公表され、「政府中枢で働く者に求められる高い基準だけでなく、当時の英国民全体に求められる基準を順守しなかった深刻な過ち」「アルコールの過剰摂取はプロフェッショナルな職場では、いかなる場合でも適切ではない」と指摘された。

「国中で何が起こっているのか、スタッフの考えがあまりにも浅かった。首相官邸や内閣府のさまざまな部分でリーダーシップや判断に誤りがあった」「このような集会の多くは開催されるべきではなかった。政府全体で直ちに対処しなければならない重要な教訓がある。警察の捜査が終了するのを待つ必要はない」

ずさんなコロナ対策で欧州最大の約17万8500人の被害を出しながら、首相官邸や官庁街では平然と飲み会が続けられていたというカルチャーはイギリスの政官のモラル喪失を如実に物語る。これでは厳格なゼロコロナ政策で被害を抑え込む中国に太刀打ちできるわけがない。

英首相官邸で働くスタッフの数があまりに急激に増加したため、構造的にリーダーシップがバラバラになってしまった面があるという。報告された16件のパーティーのうち12件についてロンドン警視庁が捜査している。

ジョンソン首相は世論調査の政党支持率で最大野党・労働党に最大14ポイントのリードを許しており、今年5月の統一地方選での惨敗が確実視される。2024年5月に予定される次期総選挙でも苦戦が予想され、有権者の信頼を失ったジョンソン首相では選挙は戦えないと保守党内からも党首(首相)交代を求める声が次第に広がっている。

ジョンソン首相は虚飾と言い逃れの人生を送ってきた。最初の妻と1987年に結婚(1993年に離婚)、指輪を受け取ってから1時間もしないうちに落として失くしている。マネジメント・コンサルタントとして働き始めたものの1週間でクビになり、英紙タイムズ見習い時代の1988年には記事を面白くするため談話をデッチ上げて解雇されている。

英紙デーリー・テレグラフのブリュッセル特派員時代にはお得意のエンターテインメント精神を発揮して「カタツムリが魚だって」「ソーセージやチップスにも規制」と欧州連合(EU)の前身、欧州経済共同体(EEC)をこき下ろす記事を連発。2004年にはスペクテイター誌の女性コラムニストとの不倫が発覚して「影の芸術相」を解任されている。

美術コンサルタントとの間に婚外子の娘がいることが発覚。2016年のEU国民投票のキャンペーンで「イギリスは毎週、EUに3億5000万ポンド(約542億円)を渡している」とウソをついたと告発される。デービッド・キャメロン首相の辞任を受けた保守党党首選で出馬を表明するはずだった記者会見で突然取りやめを発表し、英国中を唖然とさせる。

2人目の妻と25年に及んだ結婚生活に終止符を打ち、24歳年下の保守党報道担当キャリーさんと結婚。キャリーさんが口を出した首相官邸の改装で高額の費用を与党・保守党への政治献金者に肩代わりさせていた疑惑が発覚したのが支持率急落の転機となった。これまでジョンソン首相の言動を大目に見てきたイギリスの有権者は大きなツケを支払わされている。

【主なパーティーゲート】

2020年5月15日、ダウニング街庭園

流出した写真にはジョンソン首相とキャリー夫人が17人のダウニング街上級スタッフとチーズとワインを囲んでいる様子が写っていた。第1次ロックダウン最中で厳格な社会的距離政策がとられ、異なる世帯の2人だけが屋外で会うことが許されていた。

5月20日、ダウニング街庭園

ジョンソン首相の首席私設秘書(元外交官)が100人以上のスタッフを首相官邸の庭園に招待する電子メールを一斉送信。「素敵な天気を最大限に活用しよう」とアルコール飲料を持参するよう指示があった。ジョンソン首相も参加。

11月13日、ダウニング街の住居

ジョンソン首相は多くの人の前でリー・ケイン広報部長の退任スピーチを行ったとされる。この人事を巡り、キャリー夫人(当時は婚約者)と対立した首相の参謀ドミニク・カミングズ首席顧問も解任され、カミングズ氏が首相官邸からダンボール箱を抱えて出て行ったその夜、首相官邸2階でパーティーが行われた疑惑が浮上。

11月25日、財務省

11月27日、ダウニング街

ジョンソン首相は40~50人が出席する中、カミングズ氏に近い上級補佐官クレオ・ワトソン氏の退任スピーチを行ったとされる。

12月10日、教育省

12月15日、ダウニング街

英大衆日曜紙サンデー・ミラーが、首相官邸図書館でジョンソン首相と首相を取り囲む同僚の写真をスクープ。クイズが行われ、多くのスタッフがダウニング街のオフィスでコンピュータのそばに集まり、問題について相談したり、アルコールを飲んだりしていた。首相官邸人事部長が送ったメッセージにはクイズに参加した者は「帰る時は裏口から出て行け」と指示されていた。

12月16日、運輸省

12月17日、内閣府

パーティー疑惑の調査を担当していたサイモン・ケース内閣官房長官がプライベートオフィスの約15人に「クリスマスクイズ」と題した電子メールを送信した後、パーティーを開催。

12月18日、ダウニング街

ダウニング街のスタッフが40~50人集まり、クリスマスパーティーを開催したとされる。ジョンソン首相は出席せず。

2021年4月16日、ダウニング街の地下

首相官邸の報道部長ジェームズ・スラック氏と首相の私設フォトグラファーの退任式でアドバイザーや官僚が首相官邸の地下や庭園でアルコール飲料を飲み、ダンスする。フィリップ殿下の葬儀の前夜、ダウニング街の異なる場所で行われた2つの集まりに30人が参加。

5月26日、首相官邸

スラック氏の正式な退任イベントが首相官邸で開かれ、十数人が出席したとされる。

(英大衆紙デーリー・メール、民放TVチャンネル4ニュースをもとに筆者作成)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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