[ロンドン発]1990年の初当選以来、湾岸戦争、米中枢同時テロ(9・11)、集団的自衛権の行使を限定的に容認した安倍政権下での平和安全法制と日本の防衛・安全保障に深く関わってきた中谷元(げん)元防衛相(63)への書面インタビュー第2弾。同盟を結ぶとはどういうことか、コロナが浮き彫りにした憲法の限界とは、憲法改正はどうして必要なのか――について尋ねた。

――総選挙で初当選された1990年に湾岸戦争が起きました。どんな記憶が残っていますか

中谷氏:1990年2月、第39回衆議院総選挙で初当選しました。米ソ冷戦が終わり、東欧諸国の自由化、ベルリンの壁崩壊、中国民主化を武力弾圧した天安門事件が起こる中、体制選択を訴えた総選挙でした。自民党は過半数を超え、安定多数を大きく上回る275議席を獲得、政権の安定につながりました。

8月、日中国交正常化20年記念行事があり、中国共産党の全国青年連合会との交流行事に自民党青年部として参加したあと羽田空港に戻った直後、外務省職員からイラクがクウェートを侵略したとの第一報を聞きました。冷戦で封印されていた民族、宗教、地域紛争の問題が世界各地で噴出しました。

湾岸戦争で情報戦とハイテク戦争の時代に突入。開戦から数日間、アメリカはイラクの戦車や重要施設が米軍のハイテク兵器によってピンポイント攻撃される映像を流し続けました。「油まみれの海鵜(ウミウ)」など、イラクによる環境破壊を印象付ける映像作戦で動物愛護団体を含む国際世論を味方に付けました。

国連安全保障理事会で武力行使を容認する決議678を米ソは一致して可決。ジョージ・H・W・ブッシュ米大統領(父)は米軍部隊をサウジアラビアに展開、28カ国の多国籍軍が編成されました。創設以来、国連が国際平和に機能したのは初めてでした。わが国は安保理の武力制裁容認決議とアメリカの要請により、最終的に総額135億ドルの資金を提供しました。日本政府はお金だけで良いだろうと考えていたのです。

当時、外務省北米1課長だった岡本行夫氏は、日米外交第一線の担当者が米軍将校に会った時「日本は国民1人当たり100ドルも負担する」と話したら、将校はポケットから100ドル札を出して「君にあげるからイラク軍と戦ってくれ。イラクの侵略に対抗するためアメリカは多国籍軍を編成し、正義の戦争を戦っているのに、自由と民主主義の理念を共有する日本はなぜ多国籍軍を支援できないのか」と不信感を持っていたと話しました。

直接、多国籍軍に支払った金額は日本が一番でしたが、国際社会から「日本は血を流さない」、とりわけアメリカから「ツー・レイト、ツー・リトル」と批判され、日本のトラウマになりました。国防次官補を務めた知日派リチャード・アーミテージ氏から「ショー・ザ・フラッグ(旗を見せろ)。日本は他人事でない。同盟国としてお金だけでなく、国際社会で評価される人的貢献が必要だ」と迫られました。

岡本氏は、自衛隊派遣が憲法上の武力行使にならない範囲で多国籍軍を後方支援するため「平和協力隊」として派遣する国連平和協力法案をつくり、閣議決定して国会に提出。しかし激しい国会論戦の末、審議未了廃案になりました。どこまで戦闘地域に近づけば武力行使の一体化になるのか、どこまでが後方支援として許されるのか、その線引きが問題でした。国会答弁では戦闘行動と後方支援の区別ができず、何度も質疑が中断しました。

――海上自衛隊の掃海作業は湾岸国からも感謝されました

中谷氏:1991年1月、多国籍軍の「砂漠の嵐」作戦が開始され、空爆が始まりました。陸上部隊の進攻が始まって多国籍軍は短時間で圧倒的勝利を収め、クウェートを解放、陸上戦開始から100時間後、多国籍軍は戦闘行動を止め、停戦を宣言しました。

戦闘停止直後から、ペルシャ湾の機雷敷設海域に米英・ベルギー・サウジアラビア4カ国海軍の派遣部隊が掃海作業に従事し、仏独伊蘭4カ国も掃海部隊を派遣。停戦発効後なら武力行使にならないのではないかという解釈で、防衛庁長官はペルシャ湾における機雷の除去・処理の実施を海上自衛隊に命じました。自衛艦隊司令官に直属する「ペルシャ湾掃海派遣部隊」が編成され、多国籍軍派遣部隊と協力して掃海作業を実施しました。

私は自民党国防部会でペルシャ湾の掃海派遣部隊激励のため山崎拓氏を団長として、クウェート、バーレーン、イラクを訪問しました。派遣部隊はリモコン式処分具を使い、安全な遠隔操作により爆破された機雷が5個、水中処分隊員が近づき、手作業で爆破準備した機雷が29個でした。流れの速い、浅い海底での機雷除去技術が優れていると日本は湾岸国や参加国の多くから感謝されました。

湾岸戦争に際して日本は135億ドルもの資金協力を行いました。クウェートが湾岸戦争終結直後に米紙ワシントン・ポストの全面を使って謝意を表した広告にはクウェート解放に貢献した全ての国の国旗が掲載されたのに、金銭的貢献しか行わなかった日本は除かれました。掃海部隊が派遣されたあとクウェートでは日本の国旗も加わった記念切手が発行され、評価が一変しました。

その後、イラクに攻撃されたクウェート市内を見学しました。都市機能は破壊され、建物はイラク軍の兵士に略奪されていました。攻撃があった直後に政府高官は全員、他国に逃げ、国を守るクウェート軍の兵士はいませんでした。クウェートは石油で財政が豊かで、国民は税金も納める必要もありません。

徴兵もなければ、兵士のほとんどがインドやパキスタンから雇われた傭兵であり、国を守るという気概も使命感もありません。そんな兵士は攻められたら真っ先に逃げだします。やはり自国民が自らの力で国を守らなければならないのです。

イラクとクウェートの停戦を監視するPKOも視察しました。イラク・クウェート国境沿いの非武装地帯での駐留及び監視、敵対行為または潜在的敵対行為の監視など、軍事監視要員5名、アルゼンチン、ハンガリー、イタリア、パキスタン、ロシアがPKOに参加して国境監視を行っていました。

われわれは日本人として初めてPKOの現場を見た国会議員となったのです。日本に帰国後、政府にPKOなら自衛隊が参加できるのではないかと海部俊樹首相と小沢一郎幹事長に進言しました。小沢氏が主導して自民・公明・民社の3党合意、国際平和協力法(PKO法)につながります。その後、自衛隊の海外派遣によるPKOに参加できるようになりました。

――2015年に集団的自衛権の行使を限定的に容認した平和安全法制が成立した時は防衛相でした。答弁ではかなり批判されましたが、平和安全法制の狙いと意義は何だったのでしょう

中谷氏:2015年9月、国会で国家安全保障基本法が成立した時、私は法案担当大臣で、防衛相も兼任していました。憲法上、集団自衛権の行使が認められるかどうかが論点でした。集団的自衛権は国連憲章でも明文化された国家「固有の権利」(当然の権利)です。

国連はすべての加盟国に個別的自衛権と集団的自衛権の2つの自衛権を認めています。個別的自衛権とは自国が不法な攻撃を受けた際に、自衛し反撃する権利です。集団的自衛権とは同盟国や親密な関係にある他国がどこかの国から不法な攻撃を受けた場合に、その被害国の要請によりその国を支援し、一緒に反撃する権利を言います。

国連は戦争による武力行使を禁止しており、不法な国には国連で決議すれば加盟国全体で制裁ができるようになっています。国連は国際警察であり、加盟国は軍隊を提供する義務があります。しかし安保理の5常任理事国には拒否権があり、完全な集団安全保障行為がこれまで発動されたことはありません。そのため各国に自らを防衛する権利として個別的自衛権と集団的自衛権を認めています。

集団的自衛権は北大西洋条約機構(NATO)のように反撃する権利を当事国だけではなく同盟国にも与えています。そもそも同盟とは有事の際に協力するために結ぶものです。集団的自衛権は世界各国の団結を可能にし、各国の軍事力を結びつけることで各国の孤立を防ぐという大きな役割を果たしています。

日本の憲法9条はそれまで「集団的自衛権は当然の権利であるが、行使できない」と解釈され、すべての集団的自衛権やそれとみなされる行為はできないとされてきました。しかし、ミサイルやサイバー攻撃、テロの脅威が現実のものとなり、世界中どの国も一国だけでは防衛できない時代になりました。

わが国の防衛に協力している国が攻撃された時、わが国がその国を守ることができないのでは同盟関係は維持できません。憲法9条の解釈を、限定的ではあるものの「集団的自衛権は行使できる」と変更したのが前年の安倍内閣の閣議決定でした。残念なことに、憲法9条による自衛隊の行動の縛りは依然として解消されないままになっています。

アメリカのドナルド・トランプ大統領(当時)は日本の自衛隊はアメリカの危機に対して何もしないのかと激怒していました。安保条約は双務的であるべきです。他国への支援をあらかじめ「行わない」と宣言しているわけですから、トランプ大統領が怒るのも無理ありません。「日本はあなたの国が危機に瀕した際に力になれないが、日本が危機に瀕したときは犠牲を払ってでも助けて下さい」という理屈が通るほど世の中、甘くありません。

――集団的自衛権の限定的行使容認にはどんな効果があったのでしょう

中谷氏:日本は集団的自衛権の行使を限定的にでも容認したことで、周辺国とさまざまな同盟や条約を交わすことが可能となるため、今まではなかった大きな外交カードを手に入れました。

東アジアには集団的自衛権を行使する条約も安全保障機構もありません。集団的自衛権により国際的な紛争を解決するための外交手段が増え、戦争を回避する可能性も広がります。集団的自衛権を行使できるようになれば、北朝鮮が韓国に武力攻撃を行ったとき、日本は集団的自衛権を行使して韓国を援助することができるようになります。そうすれば北朝鮮は以前より韓国に無謀な攻撃を仕掛けにくくなります。

中国や北朝鮮がミサイルを発射したときも日本の軍備は他国の「抑止力」として働くことになります。日米豪印4カ国(クワッド)に東南アジアの国々、韓国が加われば各国の軍備が抑止力としての働きを持つことになります。わが国はフルスペックの集団的自衛権の行使を認めませんでした。それは戦争に巻き込まれることを恐れてのことです。

でも、それでは今後ともアメリカに依存したままで、一人前の国家としての外交的な選択ができません。アメリカのご機嫌をうかがい、米軍基地がなくては自国が守れないという状況を改め、最低限、自前の軍備で国防を完結し、さらにはアメリカ以外の友好国とも軍事的な結びつきを強める必要があります。

集団的自衛権の行使容認は安全保障面でのアメリカ依存の解消にもつながり、将来的には自前の軍備を中心にアジアの近隣諸国との同盟関係を機能させることによって自国の領土を守れるようにするための第一歩としても位置付けることもできます。

当面は防衛の支障となっている憲法解釈をしっかり定めることであらゆる事態に切れ目のない対応を行えるようにすることです。日本の防衛に資する活動をしている外国軍艦を守れるようにすること、海上自衛隊によるインド洋での給油活動を可能にしたテロ対策特別措置法を恒久法にすること、国際平和を脅かす事態が起きた時に自衛隊派遣に向けて各国との調整を迅速にできるようにしておくことです。

非戦闘地域での活動という制約は平和安全法制においても残っています。米軍が中東から退く中で、日本が国際平和のために何ができるのか。安全でないと派遣できないとか、受け入れ国の同意が必要とかいう規定は、今回アフガンへの自衛隊機派遣が遅れた反省を踏まえ、破綻国家から自国民や現地スタッフを救うためのさらなる法整備も必要です。

――現行憲法は改正すべきですか

中谷氏:自衛隊にどこまでやらせるかの議論は突き詰めると、自衛隊をきちんと認めるかどうかの認識が最初から食い違っているため、平和安全法制の審議も平行線に終わりました。自衛隊は国防に寄与する存在で、国際貢献はこういう範囲で行うという国民的合意を得るために憲法を改正し、いざという時に自衛隊が速やかに動けるようにしておくべきです。

自衛隊は国を守り、国際紛争を防ぐために、厳しい環境でも与えられた任務を遂行できるだけの実力を備えた組織として育ち、国家を支える柱になっています。現行の憲法9条では国民の中に自衛隊を認めない人や国際法における自衛権の行使も認めない人がいて、国会でいくら議論してもいつまでも平行線のままです。自衛隊の活動領域が決まらないことによって国防にも支障が出ています。

例えば相手国のミサイル攻撃にどう対処するかの敵基地攻撃論争があります。いまや、放物線を描いて飛んでくる弾道ミサイルでなく、飛行中に弾道を変化させる極超音速滑空弾やSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)、無人機、サイバー、電磁波攻撃など「ゲームチェンジャー」となる新しい兵器が出現しています。現実に中国や北朝鮮で配備され、わが国に対する直接的な脅威となっています。

それに対処するには、わが国の防衛に抑止力を持つこと、つまり長射程のスタンドオフミサイルの装備や相手国領域に到達できるミサイルの保持が必要になってきます。憲法論争でも自衛権は従来の必要最小限の自衛の措置から、相手の攻撃を抑止する能力も含める必要があります。

完全な集団的自衛権の行使による日米共同対処のあり方やクワッドという多国間の安全保障機構の設立、双務性のある日米安全保障条約、日米防衛のための指針(ガイドライン)を改定しておかなければなりません。そのためにも憲法9条で自衛隊の存在や自衛措置の明文化、それに伴う自衛隊法の改正や閣議決定が必要となっています。

最近の尖閣諸島における中国公船の領海侵入の常態化に対しては、グレーゾーンのケーススタディを検証し、強制的に排除するため海上保安庁法と海上自衛隊の海上警備行動を定めた自衛隊法の改正や、その根拠となる憲法上の領域警備の規定と自衛権、自衛隊の任務、権限の明記が必要です。

――中国の海警法が改正され、海警警備艇も武力行使できるようになりました

中谷氏:中国の海警法が改正され、中国海警が中国共産党中央軍事委員会の人民武装警察に編入されました。中国人民解放軍海軍少将が指揮する組織になり、海軍の指揮下で海警警備艇も武力行使できるようになりました。

一方、日本は海上保安庁が対応できない時に海上自衛隊に海上警備行動が発令され、警察職務代行ができます。シームレスに作戦を移管するには政府部内の手続きが必要であり、指揮系統も海上保安庁から防衛省に代わります。そもそも領海警備は国土交通省という経済官庁が行う違法民間船舶の取り締まりではなく、国防を司る防衛省が任務作戦を一元管理することが必要です。

中国の海警法は「停船命令に従わない場合は武器を使う」と任務遂行上の武器使用の根拠をはっきりと示しており、日本漁船の操業に対して即刻退去を求めたり強制曳航したりする際、武器使用の措置がとれると定めています。これまで中国公船は武器を使用しませんでしたが、これからは違うぞという大きな威圧になっています。

何のために中国が海警法を改正したのかを考えれば、わが国の尖閣諸島周辺での対応は海保巡視船の大型化や隻数の増強といったハード面に加え、国家体制の整備というソフト面の改正が早急に必要です。主権の侵害行為に対する排除行動が海上警察権の執行機関である海上保安庁で本当に対応できるのでしょうか。

中国が尖閣諸島に上陸を開始した時、撃つのか、撃たないのか現場で判断するのではなく、侵略行動を阻止する警察力以上の「マイナー自衛権」で対応できるよう海上保安庁や海上自衛隊に主権を守るための役割と任務を付与しておく必要があります。

わが国においても海上保安庁が主権を守れるよう憲法改正や領域警備法の制定をしておく必要あります。ここ数年の周辺国の軍事情勢、国際安全保障環境の変化に国家として対応しておかないと、国民の生命、財産および、国民生活の安全を守ることができません。しっかりと国民に説明し、理解と納得を得ておく必要があります。

――今回のコロナ危機でも現行憲法の限界が浮き彫りになりました

中谷氏:憲法に緊急事態を明記しておくことも必要です。緊急事態において外出禁止などの強制措置ができるかどうか、個人の自由と国民の命を守ることのバランスをとる必要がありますが、「公共の福祉」という言葉はあいまいで中途半端です。憲法に緊急事態条項を設けて国の根本的なところはしっかり、条文で規定すべきです。

その条文に合わせて法律ができるので、強制措置ができるのか、できないのか、国会で議論や検証もしないのは政治の怠慢です。今こそ与野党は知恵と見識を示して、国会の憲法審査会で議論すべきです。

コロナ対策においても人の接触を抑制するには、国民の行動制限を徹底できる法律をつくって運用するしかありません。緊急事態の適用要件が国民生活や国民経済に甚大な影響を及ぼす事態になるまで待つのではなく、早めに強制的に人の流れを止めることを徹底すべきです。命令に従わない人には罰則と罰金を設け、命令による損失は補償するようにします。

そのためには憲法にその規定を作っておくことが必要です。国と地方自治体の権限、責任を明確にし、私権の制限手続きと期限を規定することも必要です。憲法に権限が行使できるようはっきりと条文に書いておくべきです。感染症対策においても緊急事態(有事)の規定を作っておくことが必要です。

自民党は自衛隊の明記、緊急事態の規定、参議院の定数、教育の無償化など憲法改正の概要をとりまとめ、国会における憲法改正の議論が活発になるよう努力しています。国会で活発な憲法議論ができるようにするには国民の皆さんの声が必要です。国民に理解される議論ができるよう全力を尽くしています。

(つづく)