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英首相官邸牛耳る「第二のメーガン妃」改装費3千万円の大盤振る舞い 怪僧ラスプーチンの逆襲で暗雲広がる

木村正人在英国際ジャーナリスト
英首相官邸を牛耳るジョンソン首相のパートナー、キャリー・シモンズさん(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

[ロンドン発]ボリス・ジョンソン英首相が首相官邸に隣接する公邸の改装費を与党・保守党の大口献金者に負担してもらっていた疑惑が浮上し、英選挙管理委員会は28日、疑惑が本当なら裏献金に当たるとして調査を始めました。公邸は訪英した要人を歓待する場所としても使われるため、首相は年3万ポンド(約456万円)の公的助成金が支給されますが、改修費の総額は20万ポンド(約3037万円)にのぼると英メディアは報じています。

ワクチン接種による集団免疫の獲得を目指す戦略が功を奏し、一時、最大野党・労働党に逆転を許していた保守党の政党支持率は35%から45%に10ポイントも回復しました。ところが保守党お得意の内紛劇がまたぞろ顔をのぞかせてきました。問題の本質は「政界の道化師」と呼ばれてきたジョンソン首相の放漫と、首相より23歳も若い首相官邸の同居人(パートナー)キャリー・シモンズさん(33)にあるようです。

テリーザ・メイ前首相のそろえた英百貨店ジョン・ルイスの調度品がお気に召さなかったシモンズさんは高級インテリアデザイナーを雇って大胆な改装に着手。ジョンソン首相は側近に「コストは制御不能だ。キャリーは“金の壁紙”を購入している」と悲鳴を上げたと報じられています。ジョンソン氏は首相になる前はコラムニストとして25万ポンド(約3797万円)の副収入がありましたが、今は首相としての報酬19万8661ポンド(約3017万円)だけです。

25年連れ添った前妻との離婚和解金の支払いを済ませたあとジョンソン首相の手元に残るお金では20万ポンドの改装費はとても支払えません。

“怪僧ラスプーチン”と恐れられた首相の元首席特別顧問ドミニク・カミングズ氏は自らのブログで「首相は昨年、この問題について私に話すのを止めた。私は献金者に改装費を密かに支払わせるという彼の計画は非倫理的で、愚かで、ほぼ確実に違法だと首相に伝えた」と暴露しました。

EU離脱派とジョンソン首相を勝利に導いた“希代の軍師”カミングズ氏はシモンズさんとそりが合わず、昨年11月、2度目のロックダウン(都市封鎖)計画をメディアに漏らした嫌疑をかけられ、更迭されました。このリークについてカミングズ氏は「シモンズの親友である首相顧問が情報源と確認されたら、ジョンソン首相はこの顧問を解雇しなければならなくなる。そうすればシモンズが逆上すると首相は私に漏らした」と告白しました。

保守党に約300万ポンド(約4億5559万円)を献金するデービッド・ブラウンロー上院議員は、ジョンソン首相の発案とみられる「首相官邸信託」のため5万8千ポンド(約881万円)の献金に応じ、議長に就任する予定だったそうです。改装費は内閣府がいったん負担し、保守党が返済したと報じられていますが、改装費の負担とブラウンロー上院議員が「首相官邸信託」のために献金した5万8千ポンドの行方をきちんと調べる必要があります。

選挙管理委員会は今回の「金の壁紙」スキャンダルについてジョンソン首相やシモンズさんはじめ関係者全員にテキストメッセージや電子メール、その他の情報を提供するよう命じることができます。応じなければ捜索令状を執行する強い権限が与えられています。疑惑が証明された場合、保守党は2万ポンドの罰金を払わなければなりません。故意に献金を報告していなかったと判断すれば、警察に捜査を依頼する可能性もあります。

カミングズ氏を更迭してからジョンソン政権は安定するようになり、政党支持率も急上昇しました。決裂寸前だった欧州連合(EU)離脱後の交渉で合意。EUがもたつく中、ワクチン接種の展開に成功し、欧州でいち早くコロナ危機から脱出しようとしています。今年ホスト役を務めるG7(先進7カ国)首脳会議や第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)を控え、ジョンソン首相は存在感を増しています。

カミングズ氏は英映画『リトル・ダンサー』の舞台にもなったイングランド北東部の旧炭鉱街ダラム出身。よれよれのジーンズにトレーナー姿で官邸にやって来た反逆児です。EU離脱担当相まで務めた保守党重鎮を「ミンチのように厚く、ヒキガエルのように怠惰で、ナルキッソスのように無駄だ」とこき下ろし、富裕層を優遇する保守党を大衆政党に生まれ変わらせようとしました。

また、データを重視した政策を実行するためどんどん民間人を採用し、官僚の反発も招きました。沈黙を守っていたカミングズ氏が逆襲に出てから、「イギリスのワクチン計画が上手く行ったのは強欲さと資本主義のおかげ」「3回目のロックダウンをするぐらいなら死体の山が高く積み上がるのを見た方がマシ」というジョンソン首相の問題発言が次々と報じられるようになりました。

一方、ジョンソン首相との間に長男を授かったシモンズ氏はかつて保守党の広報部長を務め、政治力学を知り尽くしています。首相官邸に親密なネットワークを張り巡らし、隠然たる影響力を行使し始めています。ちなみに首相が官邸で婚約者と暮らすのは史上初めてです。

ツイッターやインスタグラムでジョンソン首相とのアツアツぶりを発信するシモンズさんをカミングズ氏は「全く中身のないお姫様」と嫌っていたようです。シモンズさんは改修費の負担を断った内閣府の女性上級官僚を左遷するようジョンソン首相に耳打ちしたとも報じられています。“怪僧ラスプーチン”を駆逐するほど政治に精通しているとは言え、一介の婚約者が政治に影響力を行使するのは、いかがなものなのでしょうか。

シモンズさんはヘンリー公爵を思い通りに操るメーガン夫人、夫に悪行を重ねさせるマクベス夫人にだぶります。今回の「金の壁紙」スキャンダルはジョンソン首相の「終わりの始まり」になる危険性をはらんでいると言えるでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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