Yahoo!ニュース

「メーガン夫人とヘンリー公爵は17回もウソをついた」英人気司会者が批判 2人はネットフリックスで始動

木村正人在英国際ジャーナリスト
メーガン夫人とヘンリー公爵(写真:REX/アフロ)

傷痍軍人スポーツ大会のドキュメンタリー制作

[ロンドン発]1億9500万人以上が視聴するストリーミングサービス大手ネットフリックス(Netflix)は6日、ヘンリー公爵とメーガン夫人の最初の作品は、傷痍軍人の国際スポーツ大会インヴィクタス・ゲームズにスポットライトを当てたドキュメンタリー・シリーズになると発表しました。英王室を離脱した2人が今後、どんなメディア展開をしていくのか、大きな注目を集めています。

インヴィクタス・ゲームズはアフガニスタンに従軍した経験を持つヘンリー王子の呼びかけで2014年、ロンドンで第1回の大会が開かれました。2年後、第2回大会が米フロリダ州のウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートで開かれ、バラク・オバマ米大統領(当時)やエリザベス英女王がプロモーションビデオの作成に協力しました。

第5回大会は昨年5月、オランダ・ハーグで開かれる予定でしたが、新型コロナウイルス・パンデミックで22年まで延期されました。インヴィクタス・ゲームズの設立資金にはウィリアム王子とキャサリン妃、ヘンリー公爵の3人が設立したロイヤル財団の約100万ポンド(約1億5200万円)、金融規制に違反した銀行への罰金の中から100万ポンドが充てられました。

ヘンリー公爵とメーガン夫人は長男アーチーちゃん(1歳11カ月)の名にちなんだ制作会社「アーチウェル・プロダクション」を設立。「思いやりのあるレンズを通して私たちに共有された人間性と真実への義務を実行するため、物語の力を活用する」と宣言しています。作品のタイトルは「ハート・オブ・インヴィクタス(筆者仮訳:折れない心)」。

爆撃を受けたシリア反体制派支配地域で自らの危険も顧みず、捜索・救助・医療活動を展開した「ホワイト・ヘルメット(シリア民間防衛隊)」を描いたネットフリックス・オリジナルの短編ドキュメンタリー(2016年)で、アカデミー賞アカデミー短編ドキュメンタリー映画賞に輝いたオーランド・ボン・アインシーデル監督とプロデューサーのジョアンナ・ナタセガラ氏が担当します。

昨年、ヘンリー公爵とメーガン夫人は制作会社と1億1200万ポンドの契約を結んだと報じられています。ヘンリー公爵はこう語っています。

「2014年の第1回インヴィクタス・ゲームズ以来、競技者たちはそれぞれ例外的な方法で回復力、決意、解決に貢献してきました。このシリーズは世界中に、来年のオランダ大会への道を進む競技者たちの感動的で高揚する物語を伝える窓口になります。グローバルな癒し、人間の可能性、継続する奉仕を刺激する負けざる者たちの旅と誇りに興奮を覚えます」

「メーガン夫人は普通の生活を送っていたように見えた」

しかし2人が米人気司会者オプラ・ウィンフリー氏の独占インタビューにメーガン夫人が自殺を考えたことや、生まれてくるアーチーちゃんの「肌の色」への偏見を一方的に告発したことに対する不満は英王室や英国民の間にくすぶり続けています。

英ジャーナリスト、アンドリュー・モートン氏(筆者撮影)
英ジャーナリスト、アンドリュー・モートン氏(筆者撮影)

『ダイアナ妃の真実』(1992年)でセンセーションを巻き起こし、メーガン夫人の伝記『メーガン:ハリウッドのプリンセス』(2018年)も発表した英ジャーナリスト、アンドリュー・モートン氏はポッドキャスト『英王室に夢中』で「エリザベス女王はヘンリー公爵とメーガン夫人に好きなところに行く機会を与えました」と、宮殿に閉じ込められたというメーガン夫人の主張に反論しました。

「2人はある程度の寛容さが与えられました。彼らは“ここにファーストクラスの航空券があります。行きたい国を選んで下さい。私たちはあなたたちを英連邦の青年大使にするつもりです”と告げられました」「メーガン夫人は“王室の義務をフルタイムで果たしたくないのなら、私たちのゲストとして演技のキャリアを続けて下さい”と言われました。そうした機会は彼女に開かれていました」

世界中が注目したヘンリー公爵とメーガン夫人の結婚式(筆者撮影)
世界中が注目したヘンリー公爵とメーガン夫人の結婚式(筆者撮影)

メーガン夫人はウィンフリー氏のインタビューでケンジントン宮殿に閉じ込められたように感じたと告白しましたが、モートン氏によると、メーガン夫人はロンドンのレストランやスーパーで買い物や食事をする姿がよく見かけられていました。「メーガン夫人のインタビューで、ダイアナ元皇太子妃が私に語った孤立や絶望という言葉が聞かれました」

「メーガン夫人を見かけた私の友人によると、彼女は刑務所につながれているようには見えませんでした。彼女は普通の生活を送っていたように見えたそうです」「ヘンリー王子がこだわっているウィリアム王子の“自分がしていることをしっかり考えて”という言葉には、おそらく愛情が込められていたと私は思います」

「2人の主張は偽善。17カ所も間違いがあった」

メーガン夫人とヘンリー公爵をたたき続けてきた人気プレゼンター、ピアーズ・モーガン氏は「ウィンフリー氏とのインタビューには完全には真実でないか、大幅に誇張されているか、証明できない主張が17カ所もあった」と批判を強めています。

モーガン氏は英ITVの朝の番組「グッド・モーニング・ブリテン」で「彼女の言葉を一言も信じない」と発言したことに対して放送規制機関オフコムに4万1千件の苦情が寄せられ、降板しました。モーガン氏は米フォックスニュースのインタビューに「メーガン夫人はウソで英王室を汚した。2人の主張は偽善で、私は英国民から広範囲の支持を受けている」と主張しました。

英世論調査会社Deltapollによると、英国民の58%が2人から王室の称号を取り上げるべきだと回答しました。その一方で、英ケンブリッジ大学のプリヤムバダ・ゴーパール教授(ポストコロニアル研究)は英大衆紙デーリー・ミラーに「君主制は大英帝国から利益を得た“白い”機関であり、メーガン夫人を扱うことができなかった」と述べています。

英王室はエリザベス1世時代、奴隷の三角貿易で巨額の富を築きました。イギリスの船で運ばれた奴隷は260万人、アフリカからアメリカに連れて行かれた奴隷は全体で1200万人と推定されています。そうした意味で「英王室の末裔」であるヘンリー公爵とアメリカ黒人奴隷の血を引く(英大衆紙デーリー・メール)メーガン夫人の結婚は「諸刃の剣(もろはのつるぎ)」と言えます。

婚約発表後、初の公務に出向くヘンリー公爵とメーガン夫人(筆者撮影)
婚約発表後、初の公務に出向くヘンリー公爵とメーガン夫人(筆者撮影)

英王室がメーガン夫人とヘンリー公爵との関係を修復するのは非常に難しいでしょう。それだけ「文化」の違いが大きかったということです。しかしダイアナ元妃の悲劇と死を教訓に、英王室は慈善活動に力を入れるようになりました。今回の騒動をきっかけに、より多様で差別や偏見のない、開かれた王室になることを願ってやみません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事