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韓国、印、豪が来年のG7サミットに参加する D10に衣替え? 日本は韓国との関係修復を

木村正人在英国際ジャーナリスト
来年のG7に韓国、インド、豪3カ国を招待するジョンソン英首相(写真:ロイター/アフロ)

インド太平洋への関与を強めるイギリス

[ロンドン発]欧州最大の被害を出したコロナ危機と、欧州連合(EU)離脱後の協定交渉の難航で支持率が低迷するボリス・ジョンソン英首相が反転攻勢に出ています。脱炭素経済を進める「グリーン産業革命」計画をぶち上げ、ワクチンの集団接種を開始したのに続いて、15日にはインド訪問を発表しました。

新年1月にインドを訪問し、インド全体の雇用と投資を支援する重要な戦略的関係を強化するジョンソン首相はこう話しました。

「グローバル・ブリテンにとってエキサイティングな年の初めにインドを訪問できることを非常に嬉しく思う。ナレンドラ・モディ首相と約束した2国間関係に飛躍的な進歩をもたらすことを楽しみにしている」

「インド太平洋地域の主要なプレーヤーとしてインドは、雇用と成長を促進し、われわれの安全保障に対する共通の脅威に立ち向かい、地球を保護するため、わが国にとってますます不可欠なパートナーになっている」

インド憲法が発布された共和国記念日(1月26日)の行事に主賓として英首相が出席するのはジョン・メージャー首相(在任1990~97年)以来だそうです。イギリスは新年、先進7カ国(G7)のホスト国を務めます。インドを韓国、オーストラリアと並ぶ3つのゲスト国の1つとして招待する方針です。

訪印の狙いは仕事と繁栄、貿易と投資、健康と気候変動に関するパートナーシップを強化することです。EU離脱後の移行期間が年内いっぱいで切れることを念頭に、インド太平洋地域へのイギリスの関与を強化するというジョンソン首相のコミットメントを強調しています。

民主主義10カ国で結束を

英下院の保守党議員らでつくる「中国研究グループ」は最近発表した報告書「新しい世界の中で民主主義を守る」の中で中国の影響力に対抗する民主主義10カ国(D10)の結束を呼びかけています。

主なポイントは次の通りです。

・現在のG7メンバーに韓国、インド、オーストラリアを加える。D10は民主的な統治と国際的な法の支配を損ねる独裁政権に対抗するため、民主主義国間の協力を深め、自由の価値や人権を強化する。 民主主義を希求する国々を権威主義国家の介入から守る。

・中国が世界貿易機関(WTO)のルールや国際社会の基本的な規範を破る場合はWTO加盟国としての利益を享受させるべきではない。中国がWTOのルールを破れば、D10は中国に対して戦略的に訴訟で争い、WTOのルールに基づいて制裁を課すべきだ。

・D10はDTO (民主主義国家による貿易機関)を創設すべきだ。D10は中国の貿易慣行や中国市場における支配がもたらす市場の歪みを是正するため協力すべきだ。

・中国がWTOのルールを守らなければ、D10はそのルール内で中国に対する関税を同時に上げる方法を見つけるべきだ。

ジョンソン首相の反転攻勢

国際通貨基金(IMF)の統計によると、購買力で見た実質国内総生産(GDP、国際ドル)は(1)中国約24兆1624億ドル(2)アメリカ約20兆8073億ドル(3)EU約19兆3972億ドル(4)インド約8兆6813億ドル(5)日本約5兆2361億ドル――となっています。

直近の世論調査(Ipsos MORI、12月4~10日)で最大野党・労働党に41%対41%のイーブンに迫られたジョンソン首相は「影の首相」「イギリスの怪僧ラスプーチン」と呼ばれたEU強硬離脱派のドミニク・カミングズ首席顧問を更迭し、支持率回復に向けて反転攻勢に出ています。

EU離脱後の協定交渉は難航に難航を重ねた上、「合意なき離脱」を回避するため期限が延長されました。デッドラインの12月31日まで漁業権、政府補助金、協定違反があった場合のガバナンスを巡りギリギリの折衝が続けられています。

筆者は先送りできるものは先送りして無関税協定を結ぶとみていますが、交渉の行方は予断を許しません。高い評価を受けたロンドン市長時代と同じリベラルなスタッフで首相官邸を固めたいま、ジョンソン首相は次のようなシナリオを頭に描いているに違いありません。

(1)ワクチンの集団接種を新年4月までに終わらせ、コロナ危機を脱して経済をフル回転させる

(2) EUとの無関税協定に続いて、インドとの自由貿易協定(FTA)交渉を進め、「グローバル・ブリテン」構想に弾みをつける

(3)「グリーン産業革命」で脱炭素化経済の先頭を走る

日韓は関係修復に舵を切れ

新年、イギリスはG7首脳会議と、コロナ危機で1年延期になった第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)の両方を主催するほか、女の子を学校に通わせることを目的とした国際教育会議と、1946年にロンドンで開催された国連総会の最初の会議を記念するイベントを開催します。

共同通信は12月5日、英海軍が最新鋭空母クイーン・エリザベス(QE)を中心とする空母打撃群について沖縄県など南西諸島周辺を含む西太平洋に向け来年初めにも派遣し、長期滞在させることが分かったと独自ダネで報じました。

日英両国は10月23日「日英包括的経済連携協定(EPA)」に署名し、イギリスの環太平洋経済連携協定(TPP)の早期加入を支援する「固い決意」を表明することを確認しています。イギリスをインド太平洋に巻き込む日本の外交戦略は順調に実を結びつつあります。

しかし日韓両国が歴史問題を巡っていがみ合ったままでは民主主義国家の結束は綻んでしまいます。日韓両国はそろそろ関係修復に舵を切る時が来ているのではないでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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