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【スクープ!】コロナ第2波 英マンチェスターは12月1日ワクチン接種開始で準備

木村正人在英国際ジャーナリスト
ブラジル・サンパウロで治験が行われているオックスフォード大学のコロナ・ワクチン(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]新型コロナウイルスの深刻な第2波に襲われるイギリスのマンチェスターで国民医療サービス(NHS)が12月1日からコロナ患者の診断や治療に当たる医療従事者を対象にしたワクチン接種を始めるため準備を進めていることが9日、NHS関係者の話で分かりました。

マンチェスターで使用されるのは英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが開発中のワクチンで、弱毒化したアデノウイルスベクターに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質遺伝子をエンコードした組換えウイルスワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)とみられています。

米ファイザーのワクチン効果9割超

一方、米製薬大手ファイザーと独ビオンテックは9日、新型コロナウイルス・ワクチンの第3相試験で90%以上発症を防いだとの初期データを発表しました。第3相試験の結果が公表されるのはこれが初めてです。

ファイザーのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンについては6カ国4万3500人が治験に参加していますが、今のところ安全上の懸念は提起されていません。英BBC放送は今月末までに米食品医薬品局(FDA)に承認申請すると報じています。ファイザーは今年末までに5千万回分、来年末までに約13億回分を供給できると考えているそうです。

イギリスではオックスフォード大学とファイザーのワクチンを合わせて1400万人分がクリスマスまでに供給される見通しです。

マンチェスター・オールダムの感染率は国内最高

イギリスの1日当たりの新規感染者数は7日平均で2万2千人、死者は同330人を突破。これまでの感染者は計119万人超、死者は4万9千人超を数えています。

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ボリス・ジョンソン英首相は11月5日から12月2日までイングランド全土で外出禁止令を発動。マンチェスターは10月23日から3段階(中、高、最高)の地域的な「コロナ警報レベル」のうち「高」から「最高」に引き上げられました。

マンチェスターの中でもオールダムは現在、国内で最も高い感染率と考えられており、11月1日までの1週間で10万人当たり737.2症例を記録しています。

また「最高」レベルのリバプールでは11月6日から2週間の予定でPCRの全数検査を実施しています。英陸軍の兵士約2千人を動員。約20分間で結果が出るだ液検査も行われています。

オックスフォード大学とアストラゼネカのChAdOx1 nCoV-19を巡って第2相試験データ(未公開)は高齢者と若年者に同様の免疫反応を誘発していることを示唆しているとの報道がありました。これについてロンドン大学衛生熱帯医学大学院のスティーブン・エバンス教授(薬剤疫学)は次のように述べています。

「適切にコメントするにはデータを確認する必要がありますが、血中で測定された免疫反応が70歳以上と下の両方で有効性を示すように思われることを示唆していることは心強いことです。しかし後期試験が完了するまで楽観的すぎないことが賢明です」

英サウサンプトン大学NIHRサウサンプトン生物医学研究センター所長のロバート・リード教授はこう話しています。

「以前のデータはワクチンが若い人に免疫反応を誘発することを示していました。同じことが高齢者にも起こることを示唆する初期のデータがあるようです。ワクチン接種後の有害事象(腕の痛みや発熱など)が高齢者では比較的低いと言われているという事実も、非常に心強いものです。しかしフィールドトライアルでの全体的な安全性に関する情報を待つ必要があります」

ChAdOx1 nCoV-19の第1/2相試験は4月に始まり、英イングランド南部の複数の試験センターで健康なボランティア計1000人(18~55歳)以上に接種して安全性・免疫原性・有効性を評価しました。その結果、深刻な有害事象は全くなく、新型コロナウイルスに対する抗体をつくるなど免疫応答が確認されました。

イングランドやインドで第2/3相試験が、ブラジル、南アフリカ、アメリカで第3相試験が行われています。アメリカは5月に3億回分の供給を受ける代わりに12億ドル(約1257億円)の資金を提供することで合意。イギリスには1億回分が供給される計画です。

ワクチン開発プロジェクトに資金提供するCEPIやGAVIアライアンス、世界保健機関(WHO)とも協力。8月には欧州連合(EU)が4億回分の提供を受けることで合意しました。インドの血清研究所は臨床試験に使用するため数百万回分をすでに生産。アストラゼネカは20億回分の製造能力を確保しています。

しかしイギリスで臨床試験に参加したボランティアが脊髄の炎症を起こしたため、9月8日、ChAdOx1 nCoV-19の臨床試験は世界的に一時停止しました。しかし、オックスフォード大学は「ワクチンに安全上の懸念はなかった」と判断し、9月12日に臨床試験が再開されました。

10月21日にはブラジルで参加者が死亡。米食品医薬品局(FDA)は同月23日に「ワクチン接種との関連を否定することはできないものの、直接の原因を引き起こさなかった」と結論付け、アメリカでの臨床試験再開を認めました。アメリカでは臨床試験にダミーショットも含め3万人が参加しています。

ワクチン開発競争でリードする中国

米紙ニューヨーク・タイムズによると現在、限定使用が承認されているワクチンは中国やロシアの6種類。第3相試験中が英オックスフォード大学・アストラゼネカ、米モデルナなど11種類。第2相試験中が14種類。第1相試験中が38種類です。

透明性と安全性プロトコルの要請が欧米に比べて厳しくない中国がワクチン開発競争をリードしていましたが、ここにきて米英も猛然と追い上げています。

コロナ危機を完全に脱するには効果的なワクチンや治療法を確立するしか道はありません。有効なワクチンの開発に成功すれば国内経済をフルに再開できるようになります。外交活動や軍事活動の制約もなくなり、ワクチン供給を通じて国際的な影響力を拡大することができます。

新興感染症を克服できた国が21世紀の覇権を握ることになるでしょう。コロナ・ワクチンの開発競争は医療にとどまらず、国際政治・安全保障面で極めて大きな意味を持っています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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