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「トランプ支持者6千万人の熱狂はケタ外れ」米大統領選で4年前の悪夢が再現する ムーア監督の警告

木村正人在英国際ジャーナリスト
米民主党の慢心に警鐘を鳴らす米映画監督マイケル・ムーア氏(写真:REX/アフロ)

次第に巻き返すトランプ大統領

[ロンドン発]いよいよあと2カ月を残すところとなった米大統領選。新型コロナウイルスの感染爆発と第2四半期の国内総生産(GDP)が年率換算で31.7%も縮小する超逆風の中、現職ドナルド・トランプ米大統領の奇跡の大逆転劇はあるのでしょうか。

英誌エコノミストの予測では民主党の大統領候補ジョー・バイデン前副大統領が勝利する確率は86%。トランプ大統領の再選確率は13%です。焦点の4州、フロリダ(選挙人29)、ペンシルバニア(同20)、ミシガン(同16)、ウィスコンシン(同10)の情勢を見ておきましょう。

米世論調査サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると――。

(1)フロリダ州、バイデン氏が3~6ポイントリード

(2)ペンシルバニア州、バイデン氏が3~9ポイントリード

(3)ミシガン州、直近ではトランプ氏が逆転して2ポイントリード

(4)ウィスコンシン州、直近ではバイデン氏が8ポイントリードも一時トランプ氏に逆転を許す

どの選挙区でもトランプ大統領の支持率は回復し始めています。米CNBCとチェンジ・リサーチの世論調査を見ると、選挙人数が多いフロリダ州やペンシルバニア州でバイデン氏のリードは縮まっています。

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バイデン氏はトランプ氏の敵失を生かして、このまま逃げ切ることができるのでしょうか。急進左派バーニー・サンダース上院議員を支持してきた米社会派映画監督マイケル・ムーア氏はフェイスブックで危機感を募らせています。

産業空洞化が進んだ中西部ラストベルトのミシガン州フリント生まれのムーア氏は2016年大統領選でラストベルトを取材し、優勢が伝えられていた民主党候補ヒラリー・クリントン元国務長官の敗北を予測した数少ない1人です。

16年の米ドキュメンタリー映画『トランプランド』、18年の『華氏119』で壊れてしまったアメリカの民主主義とシステムをえぐり出しました。民主党が、見捨てられてしまった白人労働者の怒りに耳を傾け、格差と貧困に蝕まれたアメリカの再建を唱えなければトランプ大統領の再選を阻止できないことを危惧しています。

8月25日「バイデンに投票するのは彼を信じていないから」ムーア氏

私がバイデンに投票するのは彼を信じていないからです。2019年6月18日、マンハッタンの高級住宅街アッパー・イースト・サイドで開かれたハイエンドの選挙資金集めでバイデンは根本的には何も変わらないと保証することで富裕層とトップバンカーの支持を取り付けようと試みました。

しかし全てが根本的に変化しました。新型コロナウイルスの感染爆発は残酷で持続不可能な経済、医療、政治システムの問題点をさらけ出しました。警官による黒人男性ジョージ・フロイドさん暴行死事件は人種的不平等と黒人(本文のママ)アメリカ人の窮状を白日のもとにさらしました。

経済と医療システムの破綻とともに政治は左傾化し、米議会では「分隊(急進左派勢力)」が強くなり、拡大しています。バイデンとカマラ・ハリス副大統領候補は彼らが計画していたより大胆で、より進歩的な変更を余儀なくされる可能性があります。

決してあきらめてはいけません。あと4年、トランプ政権を許すわけにはいきません。バイデンとハリスとともに「分隊」を米議会に送り込み、「防御」から「攻撃」に反転させましょう。

8月28日「トランプを支持する6000万人の熱狂はケタ外れ」

CNNが8月に接戦州で登録有権者を対象に世論調査を実施した結果、バイデンとトランプは事実上同点でした。ミネソタ州では47%対47%。バイデンが大きくリードしていたミシガン州でトランプはその差を4ポイントまで縮めています。

トランプが再選することを受け入れる準備はできていますか。再びトランプに出し抜かれる心の準備はできていますか。トランプに勝つ見込みはないと確信することはできますか。バイデンが選挙キャンペーンで訪れると発表した州にミシガンは含まれていませんでした。

トランプを支持する6000万人の熱狂はケタ外れです。ジョー(・バイデン)への熱狂はそれほどではありません。民主党に任せ切りにしてはいけません。私たちの手でトランプを取り除きましょう。一人ひとりが100人の人々に投票してもらうことを確認する必要があります。

8月30日「バイデン陣営のどこに興奮があるのか」

今こそ、誰かが政治的な火災報知器を鳴らす必要があります。トラファルガー・グループが実施したミシガン州の世論調査でトランプがバイデンを47%対45%で逆転しました。先週はバイデンが4ポイントもリードしていたのに。

まだ多くの民主党支持者はトランプが負けると信じています。とても危険です! 4年前、ヒラリー・クリントン元国務長官はこの時期、トランプをリードしていました。しかし接戦州でのバイデンのリードは4年前のヒラリーのリードより小さいのです。

ムーア氏の投稿をもとに筆者作成
ムーア氏の投稿をもとに筆者作成

バイデンの選挙キャンペーンには若者、黒人、ラテン系、女性の有権者に刺激を与え、結集させる変化をもたらす必要があります。トランプ支持者は忠誠を誓い、嫌悪を募らせ、興奮し、投票日が来るのを待ちきれません。バイデン陣営のどこに興奮があるのでしょう。

トランプの再選を許すことはできません。民主党支持者は目を覚まして私の呼びかけに参加して下さい。全ての人に公的医療保険を。大学無償化を。学生ローンを帳消しにしよう。全国一律の育児手当を。「ノー・トランプ」を唱えるだけでは十分ではありません。

9月1日「狂気か、平凡か」

あと63日。アメリカが自らを取り戻すチャンスはそれだけしか残されていません。狂気(トランプ)か、平凡(バイデン)か。平凡を勝利させるために私たちには介入する道徳的な義務があります。投票しに行こう。しかし、それだけでは十分ではありません。

壊れた社会の心を癒やし、善のために怒り、嫌悪(ヘイト)を止め、実のところ魂さえない無知と愚かさの魂を打ち砕く道徳的な義務があるのです。私たちは(投票に行くことで)地主になり、彼を(ホワイトハウスから)立ち退かせよう。私たちは炎になり、彼をクビにしよう。

9月2日「マイケルは知っている!!!」

トランプは民主党に対する私の警告に言及した上で「マイケルは知っている!!!」とツイートしました。この単純なツイートの中で、私たちが勝利すべきなのに、私たちにそうする能力がないという私の警告に誰も耳を貸さないという事実をトランプは文字通り嘲笑しているのです。

民主党支持者が彼を真剣に受け止めていないこと、彼は単なる馬鹿だと思っていること、そして私たちが勝つために必要なことはまともで穏健で、ただ子犬を愛していればいいと考えていることにトランプは満足しています。

トランプは、民主党支持者がこれは枕投げの戦いだと思っていることを知っているのです。自信満々の民主党支持者は大統領選投票翌日の11月4日に何が起きるのかも知らずに独善的に、そして傲慢にも勝利を確信しているのです。

私は蛇に騙されないようアメリカに警告を発しようと努めてきました。手遅れになるまで私たちは蛇にかまれることを認識しませんでした。

筆者:ムーア氏の警告が今回も的中するとしたら、それは自由主義世界の終わりを意味しているのかもしれません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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