フジテレビと産経新聞の政治世論調査 委託先の下請けが回答2500件デッチ上げ 徹底した検証が必要だ

下請けによる世論調査の架空回答が明らかになったフジテレビ(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

「利益を増やしたかった」「人集めが難しかった」

[ロンドン発]フジテレビと産経新聞は19日、内閣支持率を含む政治をテーマにした昨年5月から今年5月まで14回の電話世論調査で委託先の下請けのコールセンター責任者が架空の回答を1回につき百数十件、計2500件(総調査件数の約17%)を不正に入力していたと発表しました。

両社は「確実な調査方法が確認できるまで」世論調査を休止し、問題の期間に行われた調査結果とそれに関する放送や記事は取り消します。コールセンター責任者はフジテレビに対し「利益を増やしたかった」「オペレーターの人集めが難しかった」と説明しているそうです。

両社は合同でほぼ毎月、コンピューターで無作為に選ばれた全国の18歳以上の男女約1000人を対象に電話調査を実施。都内の会社に委託し、その約半分を再委託された「日本テレネット」(京都市)が500人の固定電話と携帯電話に電話をかけることになっていました。

アナログからデジタル時代への変化に対応できず、下請け会社の採算がとれなくなったのでしょうか。それとも社内に不正を見抜く世論調査の専門家がいなかったのでしょうか。両社は安倍政権と非常に近いだけに不正の原因と影響に関する第三者機関の詳細な検証が求められます。

政治に関する世論調査は報道や社論の方向性を決め、選挙における有権者の投票行動、時の権力者の政策決定を大きく左右します。今回の不正は看過できません。国会など公の場で政治に関する世論調査のあり方を徹底的に調査、議論すべき重大な問題です。

「幼児にピストルを持たせるほどに危険」

終戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の占領下にあった昭和25(1950)年に現・公益財団法人「日本世論調査協会」が発足しました。その協会報「よろん」の巻頭言には気になるさまざまな懸念が示されています。

「報道機関の世論調査部門に必須なのは、専門性と独立性である。まず専門性。統計学の基本と質問作りの作法を身につけている者が一人もいないような報道機関が、手軽にできるRDD(筆者注:乱数番号法、無作為抽出した電話番号へ通話する調査方法)を使って世論調査をするようなことは、さながら幼児にピストルを持たせるほどに危険なことである。次に独立性。社内に有能な専門家集団を抱えていながら、編集局(報道局)や論説委員室など『社論形成者』の圧力に耐えかねて、不本意ながら社論に寄り添う調査をしてしまうこともあると聞く。世論調査部門が独立性を保障されていないような報道機関では、世論調査は社論の従僕になってしまうのではないか」(個人会員、峰久和哲氏)

「RDD法といってもランダム『もどき』であることは分かっていましたが、『それらしい結果になるじゃあないか』というのが結論でした。ネット調査の台頭、携帯電話調査にも手を染めるようになってきて、どこまで行くのか想像がつきません。自記式、他記式の問題はないのか、信頼性や妥当性はクリアできているのか、それらしい結果なら本当によいのかと考えてしまいます」(世論総合研究所の谷口哲一郎所長)

「世論調査リテラシー」の教育を

「よろん」の巻頭言は他にもこんな指摘をしています。

「期待と予想が混ざり合い、区別がつかなくなるようなことになるといけない。(略)多様な調査手法があり誤差や偏りは避けられないとしても、サンプリング理論という基礎に支えられていること、そこからの隔たりが大きくなればなるほど調査結果は疑わしくなることをできるだけ多くの人が知っておくべきであり、そのような『世論調査リテラシー』を早い時期から身につけておくことが必要」(個人会員、村尾望氏)

「戦後の世論調査の発展の初期には、日本の制度状況下でいかに無作為な標本を抽出できるかを、単なる理論だけでなく研究しながら進められており、対象者抽出の方法が詳しく記されている。面接調査から電話調査、それも携帯スマホ利用へ、そしてウェブ調査など新たな調査媒体が登場し、試行錯誤と理論的研究がなされているが、安易に結果だけが示されることも多い」(林文・東洋英和女学院大学名誉教授)

「若年層の人口の少なさを実感する。60歳以上が7割の回収率であることを鑑みると、我が国の世論がどうしても人口が多い層を中心に形成されてしまう現実に(特に日本の将来を問うテーマの場合)、本当にこれでよいのかと疑念を感じることもある」(新情報センター、安藤昌代氏)

「一種のジレンマ(有権者のジレンマ)に陥ったかのようです。A候補者に投票してもB候補者に投票しても、また、それ以外の候補者に投票しても、自分自身のためにはならず、同時に有権者全体のためにもならない、結果として何のためにもならないのではと考えすぎてしまいます」(輿論科学協会、大宮泰三氏)

厚生労働省の毎月勤労統計を巡っては、計画では全数調査が必要だった都内の大規模事業所を2004年から一部のサンプル調査に変えていたほか、04~11年分の元資料を廃棄していたことが明るみに出ました。

前出の林名誉教授は「基本統計調査については、ひと昔前には、政治家はだめでも官僚がしっかりしているので、この国は大丈夫、といった見方もあったが、それがそうは言えなくなっているのだろうか」との懸念を示しています。

英国の世論調査と日本の違い

筆者が暮らすイギリスで最初のギャラップ世論調査が実施されたのは1930年代です。オンライン調査の全盛期を迎え、政治に関する世論調査の結果が発表されない日はないほどです。日本と大きく異なるのは世論調査のデータが全て公開され、誰でも利用できることです。

法律で禁止されているのは投票日の出口調査の結果を投票が締め切られる前に報道したり、それに基づいて選挙結果を予測したりすることだけです。その代わり世論調査会社は2つの業界団体、英世論調査協議会と市場調査協会に属しています。

世論調査協議会会長のジョン・カーティス英ストラスクライド大学教授は選挙や国民投票のたびにパネル・ディスカッションに参加して、世論調査の動向を丁寧に解説してくれます。筆者もカーティス教授には何度も取材したことがあります。

イギリスでは保守党支持のメディアと労働党支持のメディアが二分しています。質問や報道に社論のバイアスがかかっていたとしても世論調査内容が公開されているので、自分で判断する時にバイアスを考慮できます。

メディアと世論調査会社、業界団体、シンクタンク、大学がそれぞれ適度な距離を保ってオープンなプラットフォームを形成しており、意図的な情報操作や不正は行いにくい環境です。議会でも委員会レベルで世論調査に関する超党派の調査が行われ、報告書が出ています。

大きく狂い始めた世論調査の精度

英世論調査の業界団体は2015年の総選挙、16年の欧州連合(EU)離脱・残留の国民投票、17年の総選挙で世論調査と結果の間に大きなズレが出たことから猛省を迫られました。保守党と労働党という対立軸に加え、EU離脱・残留という新たな対立軸ができたのが主な原因でした。

背景には新自由主義による急激な貧富や教育、医療の格差拡大があります。オンライン調査のサンプリング方法、年齢による投票率の違い、人口構成や社会経済的階級による回答傾向、標本数などを考慮して世論調査会社が新しいモデルを開発し世論調査の精度向上に努めています。

世論調査の一部を切り取って扇情的に伝えるメディアの問題もクローズアップされています。英上院政治世論調査・デジタルメディア特別委員会は2018年の報告書で世論調査協議会がジャーナリスト向けのガイダンスや訓練を提供し、報道をレビューするよう提案しています。

フェイスブックやツイッターなどで誤った情報が拡散していく問題も出てきています。日本のシステムはあらゆる面で制度疲労を起こし、デジタル化への対応が遅れています。情報公開と透明性の確保、オープンな議論を徹底して、まず問題の核心をあぶり出す必要があります。

(おわり)