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「友だちと遊べる」新型コロナの学校再開、是か非か

木村正人在英国際ジャーナリスト
再開されたオーストリアの学校。子供たちはマスクを着用している(写真:ロイター/アフロ)

休校がカギを握るインフルエンザとの違い

[ロンドン発]新型コロナウイルスの感染が欧州で収束に向かう中、都市封鎖の解除に伴ってイギリスでは6月1日に学校を再開するかどうかが大きな争点になってきました。

日本では緊急事態宣言が解除された一部地域で18日、学校が再開され、子供たちの歓声が教室や校庭に戻ってきました。

欧州やアメリカで新型コロナウイルスに感染した子供たちの間に全身の血管に炎症が起きていろいろな症状が出る「川崎病」に似た症例が相次いでいます。

子供の致死率は他の年齢に比べ極端に少ないとは言うものの、生命の重みは「数」で計ることはできません。

学校を再開しても子供は大丈夫なのか、子供から親、ハイリスクグループの祖父母へと感染が広がらないのか、不安は残ります。

インフルエンザでは子供から感染が広がるため、休校が感染防止のカギを握ります。

2009年の新型インフルエンザ・パンデミックでは厚生労働省が大阪府と兵庫県の中高校に臨時休校を要請。小学校も含めて休校となり、初期の感染拡大を抑え込むことに成功しました。おかげで日本の人口10万人当たりの死亡率は0.16人と世界的に見ても極めて低く抑えられました。

厚生労働省の資料より
厚生労働省の資料より

ちなみにアメリカは3.96人(推計)、イギリス0.76人、ドイツ0.31人でした。

「やり過ぎ」と「やらなさ過ぎ」

おそらく安倍晋三首相はこの時の成功例を念頭に2月27日「全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について来週3月2日から春休みまで臨時休業を行うよう要請」し、批判されました。

新興感染症対策の場合「やり過ぎ」の方が「やらなさ過ぎ」より良いのは間違いありません。やらなさ過ぎたイギリスでは死者は欧州最悪となり、3万5000人に近づいています。やらなさ過ぎた場合、被害拡大を防げず、取り返しのつかないことになってしまいます。

今、日米欧は第1フェーズの感染拡大期を脱し、第2フェーズの収束期に入っています。これからは感染拡大の再燃を防ぎながら、どのようにして経済や社会生活を再開させていくのかが大きな課題になります。

休校で子供たちの学業や進学にも深刻な影響が出ています。共働きや片親の家庭で親が働きに出ている場合、子供の世話を誰がするのかが大きな問題になります。

文部科学省によると5月11日の時点で全国の幼稚園・小中学校・高校・特別支援学校など全体の86%で休校が続いていました。休校を終える予定日は5月末が80%、24日までが16%。

萩生田光一文部科学相は「分散登校でも結構なので少しずつ子供たちの学びの機会をつくってもらうことが極めて重要。可能な限りさまざまな知見を集めながら後押しをしていきたい」と学びの保障を強調しました。

コロナは子供から広がるのか

未知のウイルスである新型コロナウイルスがインフルエンザと同じように子供たち、そして学校から広がっていくのかどうかはまだよく分かっていません。

オーストラリア国立予防接種研究監視センター(NCIRS)の研究では教員や生徒計18人が感染していた15校で調査したところ、863人に濃厚接触していたにもかかわらず、わずか2人にしか二次感染していなかったそうです。

報告書によると、生徒8人とスタッフ4人の感染が見つかった高校10校では、生徒598人とスタッフ97人との濃厚接触が確認されましたが、新たに二次感染していたのはたった1人(赤色)でした。

高校10校での調査(NCIRSの報告書より)
高校10校での調査(NCIRSの報告書より)

児童1人とスタッフ5人の感染が見つかった小学校5校では生徒137人とスタッフ31人との濃厚接触が確認されましたが、新たな二次感染が見つかったのはやはり、わずか1人(赤色)でした。

小学校5校での調査(NCIRSの報告書より)
小学校5校での調査(NCIRSの報告書より)

フランスでスキー休暇中に新型コロナウイルスに感染したイギリスの9歳の男児は170人以上に接触していたにもかかわらず、誰にもうつしていませんでした。

英サウサンプトン大学病院の小児感染症専門家アラスター・マンロー氏は早期の学校復帰を支持しています。英メディアに「イタリア北部のヴォーという町で人口の80%以上を検査した結果、2.8%が陽性でした。10歳未満の子供の感染は確認されなかった」と強調しています。

アイスランド、ノルウェー、韓国でも地域社会で感染した子供の割合は非常に低いことが分かっています。

英メディアによると、スイスの連邦公衆衛生局感染症部門の責任者ダニエル・コッホ博士も記者会見で「子供が感染することはほとんどなく、ウイルスをうつしません。小さな子供がハイリスクグループの患者や祖父母にもたらすリスクはありません」と話しています。

小さな子供とは10歳未満を指すそうです。スイスでは祖父母は10歳以上の子供たちと安全距離を置くようアドバイスされています。

デンマークとドイツではクラスをグループに分け、登下校の混雑を避けて小学校を再開しました。

学校再開を政争の具にするな

イギリスでは社会活動の継続に最低限必要な医師や看護師、公共交通機関の運転士、スーパーマーケットの店員などエッセンシャルワーカーの子供たちのために都市封鎖中も学校は一部開いていました。

封鎖解除に向けてイングランドでは6月1日から保育園と小学校(1~6年生)が再開される予定です。中学校の再開は9月以降になる見通しです。しかし新型コロナウイルスが再び感染拡大の兆しを見せれば、予定は見直されます。

校内で2メートルの安全距離を完全にとることは難しいため、症状がある児童や教員の自己隔離を徹底した上で、手洗いや清掃・消毒を徹底させる方針です。

しかし教職員組合やスコットランド、ウェールズ、北アイルランドは学校再開に慎重な姿勢を崩していません。子供のウイルス量は大人のそれと大きな違いはないという報告もあり、学校や保育園・幼稚園が無制限に再開されることに対する警戒論もくすぶっています。

大切なのは科学や医学に基づいて最善の方法を選択することで、間違っても政争の具にしてはいけないのは言うまでもありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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