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アンドルー英王子、米捜査当局の聴取に応じず 未成年者性的搾取の「共謀者」の疑いも

木村正人在英国際ジャーナリスト
アンドルー王子と17歳の時に性的関係を持ったと告発しているバージニアさん(中央)(提供:Shutterstock/アフロ)

米地方検事「協力は一切得られていない」

[ロンドン発]勾留中に自殺した米富豪ジェフリー・エプスタイン被告の未成年者性的搾取疑惑に関連して公務から解任されたアンドルー英王子(59)=英王位継承順8位=について、米ニューヨーク州南部地区連邦検事局のジェフリー・バーマン地方検事は27日「アンドルー王子からの協力は一切得られていない」と報道陣に述べました。

英大衆紙デーリー・メールによると、バーマン地方検事は同日、ニューヨークのエプスタイン被告邸前で記者会見。アンドルー王子の弁護士に連絡を取ったが、これまでのところ返事がないことを明らかにしました。

バーマン地方検事は通常なら誰が捜査に協力しているかどうかはコメントしないものの、「アンドルー王子は声明でエプスタイン被告と共謀者による犯罪を捜査する捜査当局に協力することを申し出た」と厳しい口調でアンドルー王子を非難しました。

アンドルー王子はエプスタイン被告の「共謀者」になる可能性を検討しているとも述べました。「エプスタイン被告は他の人の協力がなければ未成年者からの性的搾取はできなかった。捜査は間違いなく前進している」とバーマン地方検事は語りました。

英大衆紙サンは、米連邦捜査局(FBI)の”捜索願い”を自ら作成して1面に掲げました。英王室に対する大衆紙(タブロイド)の風当たりはますます強くなっています。

アンドルー王子の”捜索願い”をデカデカと掲げた英大衆紙サンの1面
アンドルー王子の”捜索願い”をデカデカと掲げた英大衆紙サンの1面

アンドルー王子は解任のきっかけとなった英BBC放送とのインタビュー直後に出した声明で「必要に応じて適切な捜査当局の捜査に協力したい」と表明していただけに、疑惑は一層濃くなっています。英王位継承順位6位のヘンリー王子とメーガンさん、アーチーちゃんの王室離脱をはるかに上回る“爆弾”になりそうな気配です。

性的関係を持ったとされる女性とは「会った記憶がない」アンドルー王子

バーマン地方検事はこの日、未成年の性的被害者を支援するNPOセーフ・ホライゾンのメンバーと一緒に報道陣の前に姿を現し、子供の性的虐待を訴えやすくする新しいニューヨーク州の法律について議論しました。

アンドルー王子はBBCの報道番組ニューズナイトのインタビューで、エプスタイン被告との関係を釈明。同被告の「性奴隷」だった米女性バージニア・ロバーツさん(35)が17歳の時に性的関係を持った疑惑について「彼女と会った記憶がない」と言葉を濁しました。

エプスタイン被告の未成年者性的暴行・搾取について「相応しくない態度」とかばうように表現したことも英国民の激しい怒りを巻き起こしました。

英王室はこれまで「アンドルー王子が人的搾取を許容し、参加し、促したと示唆されるのは耐え難い」と疑惑を全面否定。アンドルー王子も声明を発表して「逮捕や有罪につながる、いかなる行動も目撃せず、疑いもしなかった」と身の潔白を主張してきました。

しかし法廷には2000点もの証拠書類が提出され、「王子に胸を触られた」「王子が若いロシア人女性に足をマッサージしてもらっているのを目撃した」という証言が相次いでいます。

数十人の未成年女性が性的搾取され「恐怖の館」と呼ばれていた悪名高きエプスタイン被告の居宅(時価約90億円超)に出入りしていたアンドルー王子は中で何が行われていたのかを知り得る重要な証人です。

未成年女性に与えられた性の報酬は1回300ドル(約3万2500円)程度だったと言われています。1999年半ばからエプスタイン被告に性的マッサージを強いられていた別の女性は英王室の夏の休暇地バルモラル城に滞在し、アンドルー王子と楽しんだと証言しています。

英王族だからと言って特別扱いは無用です。アンドルー王子は米捜査当局に洗いざらい証言することが求められています。しかしアンドルー王子がエプスタイン被告の「共謀者」として立件されるような事態になれば英王室が受ける衝撃は計り知れません。

【これまでの経過】

1999年、アンドルー王子が英メディア王ロバート・マクスウェル氏(故人)の娘ギレーヌ・マクスウェル氏の紹介でエプスタイン被告に会う。90年代前半にすでに、ギレーヌ氏から恋人のエプスタイン被告を紹介されていたという疑惑も浮上。アンドルー王子の説明にすべて疑問符がつく。

2000年、アンドルー王子とギレーヌ氏がエプスタイン被告とともに米フロリダ州パームビーチにあるドナルド・トランプ米大統領の別荘マー・ア・ラゴで過ごす。

同年6月、エプスタイン被告とギレーヌ氏がエリザベス英女王主催のウィンザー城でのダンスパーティーに招かれる。

同年12月、アンドルー王子がギレーヌ氏の誕生日を祝うパーティーをエリザベス女王所有のサンドリンガムの別邸で開く。エプスタイン被告も招かれる。

01年、バージニア・ロバーツさん(当時17歳)の証言によると、アンドルー王子と3回性的な関係を持つ。最初の関係はロンドンにあるギレーヌ氏邸。あとの2回はニューヨークのエプスタイン被告邸、そしてカリブ海に同被告が所有する島でのどんちゃん騒ぎだったとされる。

06年5月、未成年者への性的暴行でエプスタイン被告に逮捕状。その2カ月後、同被告はアンドルー王子の長女ベアトリス王女の誕生日を祝ってウィンザー城で開かれた仮面舞踏会に招待される。

08年、エプスタイン被告が司法取引に応じて未成年者買春の罪を認め、禁錮1年半の有罪判決。この時の担当はフロリダ州マイアミの連邦地方検事で、後にトランプ大統領に労働長官に指名されるアレクサンダー・アコスタ氏。アコスタ長官はその後、秘密裏に行った司法取引を批判され、辞任に追い込まれる。

10年、アンドルー王子はエプスタイン被告の出所を祝ってニューヨークで開かれた身内のディナーパーティーに出席。エプスタイン被告邸で女性を見送る姿や、セントラルパークをエプスタイン被告と一緒に歩いているところを隠し撮りされる。

11年、アンドルー王子が疑惑に関連して英貿易特使を辞任。

15年、英王室が、アンドルー王子が17歳だったバージニアさんと性的関係を持ったという裁判所への訴えを否定。バージニアさんの証言は「信用できない」と退けられ、アンドルー王子に関する訴えは裁判記録から削除される。

19年7月、エプスタイン被告が性的搾取を目的とした未成年者の人身取引容疑で再逮捕される。有罪の場合、最高45年の禁錮刑が科される可能性があり、被害者の中には14歳の少女も。3週間後に自殺。

同年8月、エプスタイン被告の別の被害女性ジョアンナ・シェーベルイさんも01年にニューヨークの同被告邸でアンドルー王子に胸を触られたと証言していることが発覚。

同年11月20日、BBCのインタビューで疑惑がさらに深まったため、英王室がアンドルー王子を公務から解任。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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