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民間人になるハリーとメーガン・マークルさん 王室を強硬離脱する算盤勘定は

木村正人在英国際ジャーナリスト
民間人になるハリーとメーガン・マークルさん(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

[ロンドン発]イギリスの欧州連合(EU)離脱(BREXIT)にちなみ、「MEGXIT」と呼ばれるヘンリー王子(35)と元米女優メーガン妃(38)の“王室離脱”問題で18日、エリザベス女王の声明と最終決定が発表されました。

突然の“王室離脱”宣言からわずか10日のスピード解決。ハリー(ヘンリー王子)とメーガン・マークル、長男アーチーちゃんは今年春から民間人になることでプライバシーと活動の自由を手に入れることになりました。

しかしソフトメグジット(穏健離脱)ではなくハードメグジット(強硬離脱)となり、複雑な波紋が広がっています。

エリザベス女王の声明

「数カ月にわたる会話と最近の議論の末、一緒になって、孫と彼の家族のため建設的で支援的な方法を見つけたことを私はうれしく思います」

「ハリー、メーガン、およびアーチーはずっと私の最愛の家族です」

「過去2年間にわたる厳しい監視の結果として彼らが経験した困難を認識し、より自立した生活を望んでいることを私は支持しています」

「イギリスと英連邦、さらにそれを越えた彼らの献身的な仕事に感謝し、メーガンがいかに速く家族の一員になったかを特に誇りに思っています」

「今日の合意により、彼らが幸せで平和な新しい人生を築き始めることができるようになることは私の家族全員の希望です」

バッキンガム宮殿の声明

「サセックス公爵と公爵夫人は、彼らの人生の次の章に着手するに当たって、女王陛下と王族の継続的な支援に対して感謝しています」

「この新しい取り決めで合意されたように、彼らは軍の公式行事を含む王室の公務から離れる必要があることを理解しています。彼らはもはや王室の公務に必要な公的資金を受け取りません」

「女王陛下の祝福を受けて、サセックス公爵と公爵夫人は引き続き公務ではない個人的な後援を維持します。彼らはもはや女王陛下を公式に代表することはできませんが、2人は女王陛下の価値を支え続けることを明らかにしました」

「サセックス公爵と公爵夫人は、ロイヤルファミリーのメンバーではなくなったため、王室の称号(His or Her Royal Highness)を使用しません」

「サセックス公爵と公爵夫人はイギリスの家として使用するフロッグモア・コテージの改修費に充てられたソブリングラント(王室の活動費)の支出を返済したいという希望を共有しました」

「バッキンガム宮殿は身辺警護の取り決めの詳細についてコメントしません。税金による身辺警護の必要性を判断するための確立された独立したプロセスがあります」

「この新しいモデルは2020年春に有効になります」

王室の称号を失った例としては、チャールズ皇太子と離婚したダイアナ元皇太子妃、勾留中に自殺した米富豪ジェフリー・エプスタイン被告の未成年性的搾取疑惑に関連して公務から解任されたアンドルー王子と離婚したセーラ・ファーガソンさん(ヨーク公爵夫人)がいます。

離婚歴のあるアメリカ人女性と結婚して退位し、「王冠を賭けた恋」で世界中を騒がせたエドワード8世も王室の称号は維持しました。その意味でも王位継承順位7位のヘンリー王子が民間人になるのは極めて異例の事態です。

メーガンさんが英王室に嫁ぐのではなく、以前から「一般人」になりたいという希望を持っていたヘンリー王子が日本流に言えば“王籍離脱”して民間人となり、メーガンさんと家庭を持ったかたちになりました。

2人は今年春には王室の称号を返上し、公務から完全に離脱。サセックス公爵とサセックス公爵夫人の肩書はそのまま維持しますが、「サセックスロイヤル」を使ったブランド展開がどの範囲で認められるのか火種はくすぶっています。

アンドルー王子とハリー、メーガンさんで担当していた公務の数は計558回。これを残りの王族でどのように振り分けるのか、頭の痛いところです。ハリーにとっても思い出深い軍の仲間と公式な縁が切れるのは身の切られる思いでしょう。

ハリウッドを生き抜いたメーガンさんが思い描くのは、バラク・オバマ前米大統領とミシェル夫人のビジネスモデル。書籍の印税、高額のスピーチ料に加え、プロダクション会社を立ち上げてネットフリックス・オリジナル映画を作成するとも言われています。

100以上の「サセックスロイヤル」ブランドを商標登録。サセックス公爵とサセックス公爵夫人の公式アカウントとして開設したインスタグラムのフォロワーはアッという間に1080万人を突破。英大衆紙が見積もるメーガンさんとハリーの新たな収入は100億円を超えています。

王室を連想させる「サセックスロイヤル」のブランド使用が無制限に認められるのか、今後も王室サイドとメーガンさんの間で協議が続けられる見通しです。

メーガンさんは「タブロイド」と呼ばれる英大衆紙の人種差別、性差別、プライバシー侵害にさらされてきたと被害を申告し、英大衆紙の報道によると、ハリーもウィリアム王子が自分たちを隅に追いやったと主張していました。

世論調査会社ユーガブによると、今回の騒動でイギリス国内でのハリーとメーガンさんの好感度はそれぞれ71%から55%に、55%から38%に急落。逆にメーガンさんを嫌いと答えた人は35%から49%にハネ上がっています。

2人のお土産用マグカップの値段が暴落していることを伝える大衆紙(サンの1面より)
2人のお土産用マグカップの値段が暴落していることを伝える大衆紙(サンの1面より)

ハリーとメーガンさんのお土産用マグカップのお値段も9.99ポンド(約1430円)から7.99ポンド(約1145円)に暴落しています。2人のブランドビジネスは海外ではともかく、イギリス国内ではとても成功しそうにない雲行きです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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